一章:序説 第二十三話 卑しきってそういうこと!?


グラディウス

「ようやく見つけた クラカル」


休憩しているクラカルに槍を向けるグラディウス。


クラカル

「おお、グラディか どうだ学園生活は楽しんでいるか?」


グラディウスは笑う。

「ええ 楽しもうとした瞬間に、先ほど台無しになりましたよ」


クラカルはふとももを叩く。

「ははは そりゃ失敬なことをしたわ けどすまん 仕事だから すぐ撤退するからちょっちまっとけ」


「人死に が出るのに?」


「あれ? お前 弱くなった?」


「ご冗談を 前よりはキレが入ってるかと思いますよ?」


その一突きで一瞬にして、クラカルの頭蓋を吹き飛ばすが、クラカルは首だけで避ける。

「おお恐い恐い」


「さすがです」


「誰がその武器の扱い方を教えたと思っている?」


グラディウスの目先にダガーが飛んできた。

避けた瞬間、クラカルは槍を掴み、グラディウスを引き込む。


「ぐx」


引き込まれるのと同時にダガーで刺しこむ。

グラディウスはそれを手のひらで抑え込む。


血まみれの手が滑り、クラカルのダガーは抜かれる。

グラディウスは槍ごと蹴り飛ばされる。


「何をそんなに必死になる?」


「本気を出すな そう教えただろう?」


「この学園は父上たちが作り上げた平和そのものだ それ作り上げた本人たちが瓦解させてはいけないだろ!!」


「こんな血まみれの平和 誰が望むというのだ グラディウス・ピピン ピピンの子」


グラディウスは言葉が詰まる。


「はぁこれだから子供は口も少なく、中身もない 当事者でもない俺たちの苦労を簡単に言葉にする いつからそんなに偉くなった!!」


「守りたいものを守る 次期公爵として務めるのは当然の定めです。」


「受け継がれていないのに?」


「意志は受け継ぎました」


「言うねぇ このいやしきクラカルを前にして会話は気をつけるんだよ」


気がつくと手の空いた傷口にダガーが差し込まれていた。

一瞬の行動に動けず、顔面に膝蹴りを受ける。


鼻血を吹き出すグラディウス。

「さすが 弟子でも容赦ない。」


クラカルはそのままグラディウスの槍を踏みつけ、喋る。


「二つ名というのもなかなか難儀なもんでね かの賢者 さかしきロートリウス公と似たような名付けられるのにほんと不相応というかなんというか」


「名前負けしてないと思いますよ 卑しきクラカル」


「そうだなー」


気付くと蹴りを一発かまされる。

口に血がたまるグラディウスは吐き出す。

「ペッ 会話をしつつ、相手に意識をそらす 何回やられても慣れない」


「当たり前だ 手口を替え続けるからこそ慣れないものだと思わせる。 それが卑しさだ」


グラディウスはふっと笑う。

「ここで終わるのか....」


クラカル

("追っている最中"殺していいリストに入ってるんだよな ま、殺してもいいか 俺の手口も知っているし)


「あ、お前 道中で誰かと出会ったか?」


「ハミルトン 殺したよ」


「あいつかー いいコンビだったんだけど」


気付くとグラディウスのダガーが横から来ていた。


「グラディウス!!!」


クラカルはその呼び声で行動を止める。

グラディウスはこの方向へと向けると胸に手をおさえたミエラ。


「ようやく追いつき」


「逃げろ!!」


気付くとミエラの目の前に矢が飛んでくる。

だが矢は外れ、ミエラの頬をかすった。


ミエラ

「ひぃ....」


グラディウスはクラカルの手元を見る、小弓を構えていた。


「さすがに早撃ちは難しいか」


「クラカル!!」


「おっとっと」


力が入った槍で足元を崩され、グラディウスから離れるクラカル。

グラディウスは立ち上がり、自身に挿し込まれたダガーを抜く。


ミエラ

(もうグラディウスが傷が.....

クラカル 改めて見るともの凄い恐い顔...

このクラカルはゲーム内では、2回行動というチート付きNPCとして出てくる。

恐い.....だけど)


ミエラの覚悟はもう決まっていた。


グラディウス

「逃げろ ミエラ」


ミエラ

「だけど.....」


グラディウス

「こいつは 卑しきクラカル 俺の師匠だ」


ミエラはおどろく。

そんな新情報は初耳だったからだ。

だけど思い当たる節はあった。


ゲーム内で、唯一あのよく喋るグラディウスが喋っていなかったイベントだった。

この世界、私が知らない設定多くない?


だけど、そんなの関係ない!!


師匠、先生、結構けっこうコケコッコーよ!!


私は覚悟した。

あのときにちゃんと決めたんだ。


なんのために なんのためにみんな幸せエンドを想像してきたか!!

ちっちゃい頃から"ここメリバ"を止めるために考えてきたか!!


走れ!

私はなんのために!

考えろ!!

考え尽くせ!


走るんだ【】!!


気がつくと、自身の体はクラカルの前に出てくる。

クラカルは動揺し、懐にあったダガーを取り出し攻撃を防ぐ。


クラカル

「へぇ」


グラディウス

「ミエラ!!」



ミエラ

(あれ? 私なんで? だけど!)

「黙っててください!!」


グラディウスは驚き、口を塞いでしまう。


「これはあなただけの戦いじゃないんです!

わたしたちの戦いなんです!!」


―、そうだ

結局俺は 民に死んでほしくなかったのだ。

苦しみはある、苦労もある、失敗しかない、


だけど精一杯元気で笑って欲しかったんだ。


だからあの戦地で泣いていた女の子に、笑って前を向いて欲しかったんだ。

ただ前を.....理想論なのは知っている。


だから俺は "自分の手が届く範囲しか助けられない"

気に入ったモノ・・・・・・しか大事にできない。

だからこそ、俺はが嫌いなんだ。


だけどミエラは違った。

ただ彼女は俺を叱っただけだとは思う。

だが、俺を叱責した内容には優しさがあった。

バカみたいな話だが、"気に入ったんだ"。

気に入ってしまった。


だが、あの女はバカだよ ほんと

ああ、ほんとうにバカだ


バカみたいに戦地に突っ込んで、

バカみたいに気負って、

バカみたいに俺を守ろうとする。


そうだな 巻き込まれた、巻き込まれてない関係ない。

ミエラは覚悟したんだ。

俺も覚悟しないといけないな。


グラディウス

「たしかに俺たちの戦いだったな!」


グラディウスは槍を携え、クラカルに突貫とっかんする。


クラカルはふざける。

「なんだおまえら、想いあっていたのか?」


ミエラ

「違います!! 推しが死ぬ姿を見たくないだけです!!」


グラディウス

(え?そうなの!?)


一瞬槍を止めてしまう。


クラカル

(あ、グラディ傷付いた。狙おう)


ダガーが飛んでくるが、それを気づいてるかのように弾く。

その意識がグラディウスに向いてる瞬間に、ミエラは斬り上げを行う。


クラカル

(この女 妙に速いな 魔法か?)


それはグラディウスからの目線でも分かるが、2,3歩離れようとしているが、それにつかず離れず素早い動きで攻撃するミエラが居た。


クラカル

「しつこい女は嫌われるぜ?」


ミエラ

「推し活がしつこいって言う話でしたら、そりゃ当然でしょ?」


その隙を見つけるように、グラディウスの突きが続く。


クラカル

「あんまり使いたくないが....

ユベオー命令する、―

マグナ偉大なるカエレスエィス天のノドゥス結び目よ、―

ノヴァヌービル新しい雲を、―

オムニビス全ての人のためにアンテプルマその羽根で、―

アドアーク我々を包みアキッピオアゴーたまえ、―」


ミエラ

(魔法!? 詠唱文??)


グラディウス

「させるか!!」


突きで詠唱を中止させようとするが、クラカルは笑う。

カンっという軽い金属音が響くと、グラディウスの槍は奇妙な形巾の字の武器に引っ掛けられる。

それを見たミエラは横薙ぎをするが、それを見越してか、抑えた槍ごと武器を地面に突き刺し、避ける。

突き刺した右手でがら空きのミエラに向けて、拳を打ち込む。


ミエラ

「キャぁ」


グラディウス

「ミエラ!!」


ミエラは自身の頬を抑え、「大丈夫」と言った。


クラカル

「魔法というのは楽だな "知らなくても"武器になり、"知っていても"武器になる。」


グラディウス

「卑しきクラカルは伊達じゃないんだな

その武器はなんですか?」


クラカル

「名前はない 槍対策で作った武器だ。

効果は上々だな うん」


ミエラ

「卑怯ですね 手の内を明かさないなんて」


クラカルはそのどくろのような顔でミエラを見つめる。


「卑怯? 殺し合いに卑怯もくそもないよ

お嬢さん 生きたら勝ちのこの世界で卑怯は最善策だよ」


ミエラは突っ込もうとするが、クラカルは手を出す。


「まぁ待て」


ミエラは疑問を浮かべた。


「少しションベンをしたくなった」


ミエラ、グラディウス

「「はぁ!!??」」


クラカルは「ちょっと待ってくれよ〜」と彼らに背を向け、ほんとうに流した。


「..............」


グラディウス

「.............」


ミエラ

「切ろ......」


そう剣で切り落とそうとすると、

「おっとっとー」


キャア かかったかかった!! さいa

濡れたという意識が集中してる瞬間に、ミエラは蹴り飛ばされる。


一体何が起こったかを目の前に見ると、クラカルは漏らし・・・ながら足を上げていた。

「嬢ちゃん

たしかに敵の隙を狙うのはいいことだが、こういう風に武器にするやつが居る。

おしかったなー嬢ちゃん あと一歩踏み込んでいたら死んでいたよ?」


グラディウスは呆れた口調で言う。

「ミエラ 彼が卑しきクラカルと呼ばれる所以だよ.....

彼は戦っている相手の意識を逸らす、注目させる、潰すことで相手より優位に立つことで"卑しき"という呼び名が付いた。」


ミエラは赤面する。さいあくという他がないからだ。


「まぁそれはハミルトンが居て、ようやく発揮するんだけどな あいつは盾での生存率が高い。

死にたくない、死にたくないと叫んだ上で相手を追い込んでいくんだ。

その隙を俺が弓で狙う。

あ、ちなみに"卑しき"っていうのは弓を扱うことにも意味がある。


うちのエルテ人は弓を人に向けるのは卑怯者という意味合いがある。

だから戦場ではお貴族様は弓を使わない。」


ミエラ

「だとしてもさっきの戦法はキモすぎない?」


クラカル

「だけど これでもう近付けなくなっただろ?」


ミエラ

「!?」


クラカル

「こっちの考える時間が増えるってもんだ。


お嬢さんいいこと教えてあげよう

相手を焦らせたら、相手の時間を奪え、

こっちは悠々自適に考える時間が作れる。


『相手に嫌われろ』

それが戦う時に案外生きられる術だ。」


クラカルはふぅスッキリしたという顔をした。


「よしっ!! 本気出すか!! 手土産だ」


そういうとローブを脱ぐ。


ミエラとグラディウスは驚く。

そこにあったのは、クラカルのどくろを連想させる顔とは裏腹に、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな体。

全身にダガーを差すためのベルトに、背中に携えた弓。


見た目の衝撃が来た瞬間に、2度目の衝撃が来る。


ミエラとグラディウスは一瞬にしてクラカルによって吹き飛ばされる。


ミエラ、グラディウス

「「かはぁ」」


「これが卑しきクラカルの本領だよ」


戦況は佳境にへと向かう。―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る