一章:第七話 私はただ...


くす...くすっと周囲から声が聞こえる。

それは嘲笑、或いは侮辱か

ねぇあれって...と指を差す仕草。

なんでお嬢様が....と軽蔑に近い声が聞こえる。


文字が読める...というのは、どの国でもよいこと重宝されるだが、文字という知恵は女性には不要とされている。

そのためか、貴族階級の令嬢方が受ける科目は、社交術と花嫁修業の2つだけ・・とされている。


ただ受ける科目を自由七科などを追加をすれば話が済んでしまうのですが、それでも周囲からの後ろ指が立ってしまう。


それがどうしようもなく嫌になったのか、はぁと深いため息を吐いてしまった。


私は ミカエラ・ダルトリュート

父 グラディウス・バロン・ダルトリュート男爵

母 アルメリア・ダルトリュートの娘。


父は20年以上の昔にあった大戦でその武功を挙げ、王から騎士に任命、領地を分け与えられた尊敬するお父様。

母は幼いときから父を支え、社交界では屈指の名士と謳われており、私に社交術とは、振る舞いとは、と厳しく育ててもらった。


呆然と外を眺める。

ガラス越しに見える綺麗に整った風に靡かれる草原がどこか羨ましくも感じた。


憂いた瞳にただ外を眺める。


(わたしだってお父様やお母様のように...)


遠くへとおくへと見つめるその瞳に写る姿は、

父 グラディウスの豪快に笑う笑顔

母 アルメリアの優しく崩した笑顔


父と母の幸せな│姿生き様に憧れた。

だからこそ、│彼女たち《周囲》から揶揄がひどく心に突き刺さりになった。


父の生き様は間違っている。

母の教えは間違っている。


そう言われている気分になった。

考えすぎなのだろうか?


......沈黙が続く。

静かになり、周囲の音が聞こえなくなり、どこからともなく心臓の音が耳にへと聞こえるように感じた。


『ああ、すまない 知り合いの女性も文字が読める人が居てね なんの不思議も浮かびもしなかったんだ』


そう淡く彩られた薄いブロンドの男の子。

少し目を細め、くすっと笑う。


その笑顔を見た私は無意識に声が出た。


ミカエラ

「いいなー」


そう読んでいた本から手を離し、手を伸ばす。


(私の周りにはいなかった・・・・・


ただ羨ましかった。

きっといい出会いだったのだろうと少し嫉妬してしまった。

元々私の家は成り上がりの家だったためか、貴族同士の付き合いは少なく唯一母の付き添いで会った程度。

いくら母が名士と言われど、話は合わなければ会話はしないというもの。


私は....


「ミカエラ様 いつお家では何をしていらっしゃるのですか?」


ミカエラ

「私は お家で本に読みふけっておりました 昨日も本を読んでしまい」


「え、....織物や刺繍、ダンスをいたしませんの?」


そう彼女は何かに驚いた顔をした。


ミカエラ

「刺繍とかダンスは少し苦手でして...」


ミカエラは言葉を続けようしたが、


「そ、そうなのですね わたし用がありますので ご機嫌よう」


そうすぐさま少女はその場で離れた。


あの時のわたしは気付けなかったけど、帝国では貴族の習わしとして、

本は飾るモノ、

読むものではないということだった。

知れば文字に必要性はなく、口頭で十分であると考える人が多いのだとか。


そう


私はもう一度風に靡かれる緑を眺める。


ただ私は"最初の選択肢・・・・・・"を間違えた。―


そこからというもの、

社交界の名士たるアルメリアの娘は、

成り上がりの騎士グラディウスの娘は、


       "変人"


であるという噂がすぐさま広まった。


母は娘の噂でその地位は失墜し、私に八つ当たりをした。

父はそんな落ち込む私と母を慰めた。


少しため息が出る。

嫉妬と言うべきなのだろうか....

ただ私は本を語れる友人・・が欲しかっただけなのかも知れない。


目を閉じ、考える。

だけど瞼の裏に焼き付いたのは白い少年の笑顔だった。


"もう一度"―


もう一度会えたら、....

何かが変わるのだろうか?


―....うん? ふと本を開き、気づくと最後までページをめくっていた。

著者は メルトナー・コマンド・アトラス


エルテメール帝国における三賢者の1人。

"見識"のメルトナーと言われてる らしい。


ここ アルテメリア学園では、メルトナー様のクラスはなく、公演ゼミがたまにあるぐらいだと聞いていた。


だけど、【エルテメール帝国史この本】に薄いブロンドの少年言っていること・・・・・・・は書かれていなかった。


嘘だったのか? そう考える。

だけど、それにしては納得がいってしまう言葉内容でもあった。

少しこむかみに力が入る。

それはそれは淑女らしくない姿で腕を組む。


は!? 何か少年の言っていた言葉を思い出すミカエラ。


『これも歴史に書かれるべき内容じゃない?』


そう言っていた言葉を思い出す。

私はただ人が歩んだ道歴史が好きなのだが、確かに【エルテメール帝国史この本】には道程中身がなかった。


ただ こう書かれていた。


帝国暦 363年

『各国の協力のもと、アルテメリア学園の建設を着工』


帝国暦 364年

円形図書館ビブリオテークのために保管する資料や書籍を各国代表とともに会議をした。』


帝国暦 366年

『アルテメリア学園 完成を機に、学徒を募集し歓迎セレモニーを始めた。

生徒のなかには....』


細かいものは必要がない と言えばそうなのだろう。だけど、私は知りたくなった。

この保管するに決めた資料とか何を条件に取り決めたのかを知りたくなってしまった。


またを思い出してしまった。

『これもまた何かの』


ミカエラ

「『縁だ』 か....」


少し彼を探しみようと思った。

気付いたら、足は円形図書館の外へと向けていた。


―かつりかつりと授業の合間に合間にへと、

彼を探したが依然見つからない。

アルテメリア学園は広く、ちょっとやそっとでは見つからなかった。

ミカエラははて、どうしたものかと考える。


すると奥から、アリスたち3人が計らずも現れた。

横目からミカエラが見えたのか、回廊からこちらへ向かって歩いてきた。


アリス

「ご機嫌よう」


アリスは先日何事もなかったかのようにミカエラに挨拶をした。

つられて後ろについていたクレアとヘルナも

「ご機嫌よう」と口を開ける。


ミカエラ

「ご機嫌よう アリス様、クレア様、ヘルナ様」


ミカエラはアリスの階級差あってか、丁寧にスカートの裾と足を交差し礼をした。


アリス

「ふーん 言えばできるじゃない」


そう少し色が入った言葉を発する。


ミカエラ

「アリス様 私は用向きございますのでここらで」


だがミカエラは先日の出来事に苦手意識があり、その場から離れようとする。


アリス

「待ちなさい」


ミカエラはその言葉を聞かざるおえず、ミカエラが居る方向へ振り向いた。


アリス

「あなた クレス様をご存じありませんか?」


ミカエラ

(クレス?.....)

「ご存じありません 人...探しですか?」


そうですか...と答えるアリスは少し指で自分の唇を押さえ、何か考えるような仕草のあと、ミカエラに質問を返す。


アリス

「ええ 人探しですわ」


ヘルナ

「はい アリス様が意中にしている方でして」


アリス

「ちょ!? あなた!!」


とヘルナの口を塞ぐアリス。

クレアはミカエラに近づき、その顔つきを覗き込むかのように言った。


クレア

「とまぁあなたにはアリス様には失礼なことをいたしまたが、ですがここで挽回は可能で

す。

今アリス様はお困りしています。

何かクレス・カルエ・デ・サルゴ様をお見かけいたしませんでした?」


そうは言われても...と考えるミカエラ。

目線を左下、右上で記憶を振り返ってもその名前に思い当たる節はなかった。


ミカエラ

「さすがに学園ここに来て、長くはありません 名前だけを聞かされてもただ分からないとしか言えなくて....」


クレア

「.....まぁそうよね 私たちも今困っていまして、アリス様はどうしてもお礼がしたいと言って仕方ない形なのです。

しかも何かひと」


わぁーとアリスは何かを隠すようにクレアの口を塞いだ。

ミカエラは考える。


ミカエラ

「アリス様 そのクレス様には何か特徴があったりしますか?」


ぐむむとクレアをおさえていた手を離すアリスはミカエラの質問にかえす。


アリス

「あーごほん そうですわね

特徴的と言えば、この世の白かと思わすかのような金の髪、自然の調和と呼ぶべき土と緑に彩られた目をしていました。」


クレアとヘルナは目をぱちくりとし、

コソコソと「知的ポエムに仰っておられますね」

「ですね」と会話しているのを小耳に挟んだアリスは少し恥ずかしそうにあなたたち!!と恫喝した。


ミカエラはその特徴に思い当たる節があった。そうだそうに違いない。

そう確信にいたるほどに彼女アリスミカエラの探し人が同一人物だと思った。

ミカエラは口を開く―


「もしかしたら 私もその方を探しています」


アリスは驚く。

「クレス様を知っていて?」

とそうミカエラの手を掴み、キラキラとした瞳でミカエラを見る。


ミカエラ

「あ、いえ 同一人物...かもしれないというお話です。ですが私も探してる方の特徴も一緒でした。

ですがどこを探しても見つからなくて」


そうでしたか...と冷静になったのか、ミカエラの手を掴んでいた手を下げたアリス。


ミカエラ

「アリス様はどこのあたりを探しておられましたか?」


え?っとアリスは口を開いた。

アリスは考えるように口を閉じるが、


クレア

「わたしたちは社交術科エリアでお探しておりました。」


そうでしたかと考える。

ミカエラ

「わたしは授業の合間にへと円形図書館、社交術科区、法学区、戦術考学区と見て回りました。」


ヘルナ

「円形図書館に戦術考学?....貴婦人が行くべきではない場所のような?」


その言葉に少しミカエラの眉間に歪みが生じる。


アリス

「そうだったのですね やはり社交術科区だけでは見つかりませんものね」


アリス

「感謝いたします ミカエラ様 少し他の学区も見て回ってみますわ」


ミカエラ

(あれ? なんで私の名前を....)

そうミカエラから踵をかえそうとするアリス。


ヘルナ

「お待ち下さい いくらアリス様だとしても他の学区を見て回るのはよくないかと」


その道先を通らせないようにするヘルナ。


アリス

「あら? どうして?」


ヘルナ

「貴婦人たるもの 乙女たるようにあらねばなりませぬ ですが円形図書館に戦術考学区に向かうなど周囲からなんと思われるか」


アリス

「そう あなたは私は一にも二にも恩人への礼を返すなと...そう仰りたいのですか?」


凄みがあった。

ヘルナ

「あ、いえ ですがただ返すなとは言っておらず、その乙女のように...」


アリス

「乙女の花のように愛でられよと?

花は地に根づき、動けずじまいです。

どれだけ素敵な殿方が居ようと目を合わせずして、礼の一言もすることできません。

これこそ 私 カルタミナル家 その家訓

『家名あるもの、ただの一言にも礼節を表せ』」


「私に その家訓カルタミナル家を裏切れと?」


ヘルナ

「そ、それは.....」


少し竦むヘルナにクレアを支えるように手を添える。


クレア

「アリス様 申し訳ございません

ですがヘルナもアリス様の家名を汚すと案じて発した言葉なのです。

どうかご慈悲のほどを」


アリス

「いいわよ 怒っているわけではないわ

ただ ここは学ぶべき場・・・・・

そこに一切のらしさ・・・は必要ないと私は思っているの」


クレア、ヘルナ

「申し訳ございません」


ミカエラはまた驚く。

二人目だ、そんな感覚すら至った。

彼女は私に言いがかりつけていたと思っていた。

ただそこには家名ほこりを持った破天荒な令嬢が立っていた。


ミカエラ

「アリス様」


何?と振り返るアリス。


「恐らくクレス様は学区に居ないかも知れません」


少し目線を下げるアリスはもう一度ミカエラを見る。


「どうして?」


ミカエラ

「私は社交術科区以外に法学区、戦術考学区を受けておられました。

ですが、そこでクレスと呼ばれる人は見当たりませんでした。」


そうしてもう一度言葉を紡ぐ。


「恐らくはクラス教室に入っておられるかと考えています。」


クレア、ヘルナ

「クラス!?」


アリスは目を閉じ、考える。

思い当たる節はある。

魔法の連続使用、世情に疎さ "天才" と呼べき才覚があるのは火をみるより明らかだった。

そして・・・―、


クレア

「クラスってあなた正気!!?? あそこは入れる人すら存在しないっていうのがクラスよ」


ヘルナ

「いいえ 少なくとも私たち子ども・・・は入れない

クラスといえば教授同士のゼミでしか使われないなんてお聞きします」


アリス

「いいえ、思い当たる節があるわ」


クレア、ヘルナ

「アリス様?」


アリス

「今年度は天才が2人入学してきたとお聞きしました?」


アリスの目線の先にいたミカエラはそういった・・・・・噂はとんと耳に入ったことはなかった。

世情に疎いのか、交友関係が少ないのかミカエラ自身に思い当たる節はあった。


ミカエラ

「いえ...あまり噂話には詳しくなくて」


クレア

「あ、聞いたことはあります

確かこの学園初のゼミの教授推薦とそして教会推薦の印をもらった子がいらっしゃると」


ヘルナ

「けど噂は噂でしょ? いくらゼミの教授が推しているからといって、この学園に平民が入ることなんてとても難しいわ」


アリス

「なら 今日からはその考えは変えないといけないわね」


ヘルナ

「アリス様?」


するとアリスはミカエラに指を差す。

「彼女はかの大戦で戦果を挙げたダルトリュート家の御息女よ」


クレア、ヘルナ

「え? ダルトリュート家の者ですか!?」


ミカエラは少し目をそらす。

「はい ダルトリュート家 その一人娘 ミカエラ・ダルトリュートと言います。」


一礼をするミカエラ。

アリスはその仕草を見て、一言添えた。


「なにその言い方?」


ミカエラ「え?」っという言葉も無視してアリスはミカエラの顔を掴む。


アリス

「もっとこう顔を挙げて、はっきりと自身の顔を焼き付かせなさい!!」


ミカエラ

「あ、アリス様?」


その光景を見ていたクレアとヘルナは少し目をそらす。


アリス

「いい? いくら平民上がりとはいえ、貴族たるもの ただの一言にも礼を尽くしなさい

その礼があってこそ、貴族は貴族たるのですから」


ミカエラ

「あ、あの仰るいみが」


もう一度アリスの顔を叩くようにつかむ。

いたっとミカエラは半目でアリスのその動向を見つめた。


アリス

「しっかりとこちらを向くように

はいもう一度」


え?っえっとミカエラは「もう一度」という意図は、先ほど一礼のことかな?と考え、改めて一礼を施す。

だが、顔は依然としてアリスの手があった。

リードするかのように一礼、顔を上げる時につける角度を優しく変えていくように手でエスコートするアリス。


そうそうと呟くアリス。

ミカエラは母に教えてもらった社交術が良くなかったと考えてしまった。

まるで昔のように....


そしてクレアは口を開く。


「申し訳ありません ミカエラ様

アリス様は....その 少々手厳しい方でして」


アリス

「何よ そんなに厳しいかしら」


ヘルナ

「厳しいかと思いますよ かの社交術区の先生でもそこまで指導するものはおりません。」


そう2人はアリスに対する言葉はやや冷たくも感じた。


アリス

「そう? だって仕方ないわ アルメリア様の社交術を見ましたら誰もが厳しくなろうと思います」


ミカエラ

「え?」


今母の名が聞こえたミカエラ。


クレア

「ふふ...そうですね アルメリア様はとても美しい方でしたわ」


ヘルナ

「アリス様はアルメリア様に憧れていらしていました。」


そうミカエラへ目を向けるヘルナ。

アリスはもう一度アリスのほうへと向き、言葉を発した。


「今もよ あの方が社交界へ消えていなくなられたとお聞きしました。

ですがなってません」


ミカエラは目を見開く。


「あなたはまだアルメリア様に遠く及んでいないのです。」


ミカエラは黙る。


「だから私は納得いきませんの アルメリア様らしく美しくなされませ ミカエラ」


ミカエラ

「どうして....私がダルトリュート家の者だと」


アリス

「偶然ですわ」


そうミカエラの顔に添えた手を離し、回廊の外へと目を向ける。


「先日 あなたは私にぶつかり、謝辞をかけ

た。」


ミカエラはうっと顔をながし、もう一度謝ろうと....


「その時の一礼がアルメリア様と偶然一致したのですわ

ですが頭に血が登っていたのか気づきましたのは宿舎へと帰る道の時ですけど...」


そしてアリスはミカエラへ


「ですから アルメリア様に倣おうならとするあなた様を見て、手心を加えてしまった それだけですわ」


ミカエラはその意図・・というものは読めなかったが、その声色にはどこか優しさがあるのは確かだと感じた。


ヘルナ

「ごほん アリス様 このままだとお話が逸れてしまいます」


アリス

「それもそうね あーどこのあたりで話を折りました?」


クレア

「ヘルナの天才という眉唾の下りにミカエラ様を紹介させていただきました」


アリス

「そう」

まるで慣れた手つきで会話を戻した。


アリス

「では改めてヘルナ その考えは改めなさい

大戦にて戦果を挙げ、もっとも新しき貴族がかのダルトリュートがいらっしゃいます。

ダルトリュート家の御息女も立派な天才だと言うべきではありませんか?」


ヘルナ

「では彼女が?」


ミカエラ

「私は天才だとは...」


アリス

「いえ、恐らくは天才と謳われる方は彼女ではありません」


ヘルナ

「ではなぜ彼女を話題に?」


アリスは少しヘルナを見て、笑った。


アリス

「分かりませんの?」


「偶然というのは奇跡が重なるからこそ偶然と呼ぶんです。」

(そうアルメリア様のお約束お守りいたします)


?っと周囲は疑問を浮かんだが、アリスはミカエラに手を添える。


アリス

「ではまずはクラスがあるとされる教授区へご案内エスコートしてくれませんか?

なにぶん私たちは社交術科区以外の土地勘に疎くて」


ミカエラはその意図を汲めぬお嬢様の手を取る。


ミカエラ

「分かりました ご案内させていただきます」


ヘルナとクレアは依然話の流れを汲めずにいた。


―――

――


アリスは道案内してもらう道中にアリスに「各学区の説明をしてもらいたい」と言っていた。

ミカエラは「私のわかる程度でよろしければ」と答えて、歩きながら学区の説明をしていた。


学区とは―

2000人を擁する大学校 アルテメリア学園

通称 学術交易学園都市 アルテメリア

と呼ばれています。

そのアルテメリアでは、

3つの防壁の上で成り立っております。


第一の壁 フェルス

第二の壁 ハンデル

第三の壁 ラーレン


と呼ばれており、各壁内にはそれぞれが役割を持った区画 総称して学区と呼ばれています。」


ヘルナ

「ちょっと待って 区画ならわかるけどどうしてここで学区があるの?」


ミカエラ

「学区と呼ばれる所以は詳しくは存じ上げませんが、恐らくは学術交易と因んでいるとお父様は仰っていました。」


アリス

「各国間の技術を交流する場としての意味での学区なのね」


クレア

「それはわかりますがどうしてこういった場を設けたのでしょうね?」


ミカエラ

「.....それは分かりませんが、ここでは都市に住む者、交易する者、また寄りかかった旅人も含めて学徒とすると言われていますね

それを考えれば、100万は下らないかと」


クレア

「ええ 入学式の際にそう仰っていましたね」


アリス

「それで?」


話を戻そうとするアリスの意を汲み、ミカエラは話を続ける。


ミカエラ

第一の壁フェルスでは、冶金や鍛冶を主とした学区を管理し、

第二の壁ハンデルでは、商業や宝石商を主とした学区を管理し、

第三の壁ラーレンは私たち学徒が居る学び舎 アルテメリア学園とその宿舎を擁します。」


アリス

「私たちは貴族区を住まいとし、この学園を通っていらすものね」


ミカエラ

「そうですね このラーレンでは、大きく分けると宿舎区から 貴族、教会区、宿舎区に分けられています。

貴族区は各国の男爵以上に同等とする貴族が宿舎を借り上げ住まわせてもらう形になっております。

教会区は、十字教に習う敬虔なる者たちが学ぶために集まる学区となります。」


クレア

「ここって教会がいっぱいあるのでしたよね」


ミカエラ

「実際に見に行ったわけではなく、遠目ですが教会が多く並んでいたのは見えました」


クレアはへーと答えた。


「そして宿舎区 ここでは平民、商人が泊まれるようにする宿屋が多いとされています。」


ヘルナ

「平民はやはり宿にお金支払うのでしょうか?」


ミカエラ

「ええ、恐らくは 」


「続けます そしてアルテメリアで私たち学徒が学ぶ学区は

自由七科区 社交術科区、神秘学区、哲学区、医学区、法学区、戦術考学区

に分けられており、

そこへ赴く教授たちは、その宿舎もあるとされる教授区、

そして歴史あるものを収める円形図書館ビブリオテークがあります。」


アリス

「私たちはその教授区へと赴いているのですよね?」


ミカエラ

「はい そして教授区にクラス教室があるとされます」


ヘルナ

「あるとされる? というのはないかも知れないってこと?」


ミカエラ

「ヘルナ様 私は新学年で知らないこともあります ですがクラスがあるのは教授区なのは確かです」


ヘルナ

「そうね ごめんなさい 少し突っかかってしまったわ」


ミカエラ

「いえ 聞けばクラスというのはほぼゼミと同じ扱い方が多いと聞きます」


アリス

「そうね 基本は教授に支持する弟子たちがクラスに入ると聞きます」


クレア

「ではクレス様はこのクラスに?」


ミカエラ

「アリス様が仰るとおりであるなら、恐らくは」


ヘルナ

「アリス様 クレス様を探すというのは異論がございませんが、どうして彼がクラスに居ると? 確か先ほど思い当たる節があるとか」


アリス

「偶然よ ただ彼にフルネームを聞けば、思い当たる節しかなくて」


ミカエラ

「それは....」


アリス

「『クレス・カルエ・デ・サルゴ』

学園ここを創設したかの"賢者"の

ロートリウス・デ・サルゴ様と苗字と一緒なのよ」


一同

「「!!??」」


ヘルナ

「ロートリウス様ってエルテメール帝国を40年支えきった賢者たちの内にもっとも賢しきさかしき者と謳われたあの?」


アリス

「ええそうね 偶然と呼ぶべきには今年の2人の天才が引っかかるのよね」


クレア

「確かに...それはアリス様の仰る通りかと思いますですが "偶然"だとしても彼がクラスに居るというのは些か安直なのでは?」


アリス

「あら? クレアは知らなくて?

かのロートリウス卿はエルテメール帝国出身ではないこと」


ミカエラ

「え?っとそうなのですか?」


ふと話に割り込んでしまった。


アリス

「ええ、彼は確かアディス大王国よりも遥か遠くの出身だとお聞きしました

そのため、苗字が大変珍しいのですよ」


ヘルナ

「珍しいからというのは分かりましたがいくらなんでも名前が重なるなんてことは」


ミカエラ

「いえ あります」


周囲の目がミカエラに注がれた。

そして顎を抑え、考えながら発する。


「アリス様たちはご存じないかと思いますが、私のような平民上がりには苗字がなくて当然なのです。」


クレア

「そうですわね 確かに名はあっても、苗字はとんとお聞きしません」


ミカエラ

「ですが名前だけじゃ名前がかぶって誰か分からない形が多々あったのです」


ヘルナ

「そうなのですね それではどこで皆様は名前をお分けに?」


ミカエラ

「基本は生まれた村や土地に苗字にするものが多いと聞きます。

私だと...ダルトリュート地方出身のミカエラですからミカエラ・ダルトリュートとかですね」


クレア

「あれ? そうなりますとわたくしたちエレミナ地方出身のクレアになりますけど...」


アリス

「バカねクレア あなたには家紋があるでしょ?」


クレア

「は!?そうでしたわね」


ミカエラ

「そうですね 自身の身分を表すため、家紋をさらすことが多いと思いますが、貴族と平民では大きく隔たりがあるのです。」


クレア

「隔たり?」


アリス

「男爵以上には地方を掲げた苗字と家紋を

騎士には自身の土地の村を苗字として名乗ることを勧めています

このことね」


エルミナ

「そうですね アリス様」


ヘルナ

「ではアリス様は? カルタミナルは地方ではなく、家名ですよ?」


アリス

「カルタミナル家は古くから法学を主とした生業から昇進してきた一家です。

そして侯爵以上になると自身で立ち上げた生業を家名としてを名乗り上げることが出来るのです。


そうなりますと私は

アリス・アトラス・カルタミナルになるかしら」


ミカエラ

「はい 仰るとおりです」


「ですが、ここはアリステラ学園

苗字掲げないことは恥とお聞きします」


クレア

「そうですね 自身の家名が名乗り上げないのはよくないですね」


エルミナ

「そのため、村の名などを苗字として名乗ります。」


ヘルナ

「では? クレス様は平民だと?」


アリス

「間違いはないけど ここアリステラ学園では商人の子もいらっしゃったりします。

何も平民が珍しいわけではない」


ミカエラ

「はい たしか商人では自分の名前を子にあげたりします。 そうロートリウス様なら、

クレス・ロートリウス か

クレス・デ・サルゴ そのどちらかに


クレア

「ミカエラ様 随分とお詳しいのですね」


ミカエラは少し目をそらし、言葉を噤んだ。


アリス

「それは置くとして、クレス様は"賢者"の弟子として、苗字を与えれた。その考えの元で行くならばクラスに居る可能性が高いってこと 納得がいきまして?」


クレア

「ええはい なんとなくは」


ヘルナ

「はい ミカエラ様の説明もあってしっかりと理解を得ました。」



アリス

「それにほら 彼が牧師なら牧師服を着るのが一般的でしょ? ならね」


それは今年に入ってきた天才とは、のことだったのか....とミカエラは考える。

彼の笑顔が、彼の聡明さが遺憾なく発揮されていたその姿がただ眩しく見えてしまった。

どこか後悔に似た気持ちがふつふつと湧いてしまった。


ミカエラ

「そうでしたのね...わたくし ちゃんとお名前聞いておけばよかったです

私はただ探している彼がクラスに居るのでは?としか考えていませんでした。」


と思わず口に出て、少し残念がるミカエラ。


アリス

「あらそう? なら次はちゃんと挨拶できるわね」


ミカエラ

「え?」


アリス

「人生 何度もやり直せますわ

偶然 奇跡 奇遇 があっても

『縁』があるからこそ起きるもの

そして今回も私たちに『縁』があったからもう一度会うことはできますものね」


そう少し笑顔で言うアリス。

「.......」

ミカエラはどこかその言葉がすっと心に通った。

そして何かを得心とくしんしたのか、

ミカエラ

「ふふっ アリス様はとても夢がある方なのですね」


アリス

「世の中、夢があってこそ人は輝くと私は考えています」


それを聞いたヘルナはすかさず、


ヘルナ

「そうですね クレス様との出会いを知的ポエム風に仰っていられましたものね」


アリス

「ちょ!?///」


クレアは指をかさね、天を仰ぐように

「これは奇跡なのですね とも言っていましたね」


アリス

「クレア!!」


ミカエラ

「ははっ あはは」


そのとんちんかんな雰囲気がどこか優しさを感じた。賑やかな空気があふれた。

不思議と会話を楽しく感じた。


そして―


看板にはロートリウスと書かれていた。

その大扉の前に少女4人が立つ。


アリス

「付きましたね」


ミカエラ

「そうですね」


クレア

「意外にも重厚感を感じます。」


ヘルナ

「では開けましょう!」


アリス、ミカエラ

「「あ、まって 心の準備が!!」」


ヘルナの手は彼女たちの言葉だけの静止では止められずぎぃいと扉が開く。


そこの先に―....。

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