このゲームにはまだ名前がない

榊巴

序章:プロローグ

序章:第一話 転生


あ゛あ゛......


あまりの疲労にしわがれた声が出てしまった。

カツカツッと疲労に似合わない軽快な靴音が妙な苛立たしさを感じてしまった。


「倉吉〜これおねがーい」


「おい倉吉 さっきの議事録は録ったか?」


「倉吉せんぱーいこれ分かんないだけど」


「おい倉吉 取引先とのメールは届いたか?」


「あー倉吉 社長のスケジュールを整理しておいてくれないか?」


「くーらよし! 前やってた企画のレジュメって出来た? 会議に使いてぇんだけど」


「くらちゃんさー 人事の仕事ちゃんと出来てる? サボってない?」


「はぁ倉吉さ なんで外部設計出来てないの?」


「倉吉ぃ? 取引先の要件定義出来てる?

遅すぎて全然作業進めれないんだけど」


「あのさぁこんな内部設計書じゃ出来ないんだけど... 社長からの命令?

倉吉おまえいっつも犬みてぇなことしてんな楽しいのか?」


「一体上流工程どうなってんだよ...

毎回毎回期日やら要件やら変わりまくって

こっちの体がもたんわ 分かる?やってほしいこと」


「倉吉さん あなた方貴社のお陰でこちらの計画も十分に進むことが出来そうです。

大変感謝させてもらっています

なのでですね 納期の期日短くさせもらってもよろしいですか?」


「いやいやーほんまにすまんね

こちとらプログラミング?とかように分からんに色々苦労させてもらて

そんでなこっちの要件ちぃと変更させてもらへんか?

ん? 設計書が出来上がっとる?難しい?

あープログラムっちゅうのはパソコンでちょちょいでしょ?そんな難しいもんちゃうってわしゃ知っとんねん

....シラ切ってもわかんで

パソコン仕事は事務仕事

ええもんやな かたんかたんとキーボード打ってたら金が手に入る

ええか? うちらは依頼人や こっちが金が払っとるんやから簡単な仕事すら出来んようなら潰れるんはあんたらや よう気いつけや」


今日の仕事のセリフ台本はこんなもんだった。

あいつら、なんで俺にだけ仕事を割り振るのかほとほと分からない。

この会社の人たちは練度不足や意識が低すぎて取引先に嫌われており唯一話せる人間が俺だけ、他にも上流工程は書きたくない人、ひどすぎるものが多くこちらに押し付けられ描くハメとなったり様々な要因が重なった結果

事実上のワンマンになっている。


まぁ社長はというと

「いいかい倉吉くん! 私には夢がある!」

と嬉々として語っていたが、

お金はあるがプログラミングは出来ない

あるのは饒舌な口でうまいこと契約書を持ってくるので信用性は高かったの話。


はぁ....


そうしてふらりふらりと風にのせられるように体を動かし、帰路へと辿たどる。


帰ってきた部屋はなにもなくあるのはベットと時計のみである。

ばたりとベットに倒れ込む。

静かになるとかちりかちりと音が聴こえる。

その音は不思議と心に平穏を与えてくれたが

それと同時に体がどんどんと落ちてゆく感覚が強くなっていく。

その先が分からない不安が次第に恐怖心がふつふつと噴き上がる。


ふいに目に映る光景が懐かしく感じた。


そこにはテレビの前に座る子供が居た。

その子は振り返るとテレビに指を指し笑う。


ああ....そうだ そうだった 忘れていたな


「せめて ゲーム・・・だけは触ってみたかった」


――

―――

――――


おんぎゃおんぎゃあ


雄叫びがきこえる 世に挨拶する雄叫びを

この小さな藁葺屋根の家から響いてくる。


(ここは?)


ほーれよしよし お父ちゃんだぞー

そう嬉しそうに言う精悍な西洋顔の男性。


あらあら カーター そんなにはしゃぐとクレスが驚きますよ

ひどく疲れているがその顔はやさしさに溢れていた。

その西洋風の女性は整ったやさしさが美しく花を添えていた。


どうやら俺は噂に聞く転生というものをしてしまったらしい。

不思議な気分となる俺だが、

(第二の人生ってのも悪くないか....)

そうは おんぎゃ

やば おんぎゃ

考え おんぎゃ

てか息がぁ おんぎゃ


おんぎゃおんぎゃかんがえさせろ!




――

―――

――――


時が経つ....


俺は― 自由に歩けるようになり、農村を歩き尽くした。


どうやらここは農民 この時代的に農奴のうどと呼べるか

その農奴達が暮らす村であり、

その名は カルエ村 そう呼ばれている。

ざっと30人程度の小さな村となり、子供は10人となっている。


農村と呼ぶからには必ずある畑がある。

ここでは時代的には新しい三年輪作さんねんりんさくと呼ばれる手法を実験的にも扱っているようだった。

春麦、冬麦、休閑期を経て繰り返すようだが

農作はよく分からず、父にはへぇーと応えるほかがなかった。


他にも水車やぶどう畑などがあり、

比較的に豊かな いや裕福な村であることが分かった。

なぜ裕福かというと建築様式が関わっている。

金を持っていたら家を見ろ

そんな当たり前が目の前にはあった。


私はもちろん建築にも詳しくない私だが、

この家は立派だというのが何件もあった。

その家々は藁葺の屋根にレンガで積み立て、

その壁には白い漆喰が塗りたくられていた。

だが扉は意外にもなく、扉付近を板が吊り下げられており、なんちゃって豪邸を目指しているとかなんとか。

我が家はというと、

糞や漆喰、土を混ぜた壁にレンガ様式

扉はのれんの如く革布を垂らす様である。

昔ながらの農家といった所だろうか。

だがそれはそれで私的には十分に楽しかった。


村を歩き回り、我が家が見えると嬉々として走って帰ることとなった。


バサッ そうのれんを飛び越すような勢いで

「ただいま!」

私は言う。


「お帰りなさい クレス

どうだった? 冒険は?」

そう優しく問いかける女性は母のイルナ


「ううん 冒険じゃないよ! 散策だよ!

お父さんは?」


「お父さんは今クワを持ってお仕事してるわよ」


「分かった!」


ドタバタと走り出す。


「全くヤンチャなんだから」


目的地についたのかその場で座り込みクレスは遠くの畑を見つめる。

畑を耕しているよいしょと大ぶりにクワを振り下ろす男性は父のカーター


両親に名字はない 元々名字というのは高貴な生まれや国に貢献した者などに与えられる勲章みたいなものだからだ。


だがそんなもの私にとってはどうでもいい

そんな一生懸命な両親を見るのがすっごく嬉しいのだから....

にんまりと畑のふちで眺めてるクレスを見つけたのかカーターを手を振る。


そんな毎日を繰り返す。

だが夜は凄く騒がしい。

虫の声が聞こえてくるが、そんなの御構いなし両親は藁葺を敷いた床の上でメキリメキリと音を立ててどんぶらこ・・・・・をしていた。


転生して初めて知ったのだが、

基本的に夜はなにもすることがない

娯楽も光もなにもない


仕事は夕方で終わり、あとは食事時以外は自由行動。

早く寝たとしても、子供なので早く起きてしまう。

いやこれは恐らく私の生活習慣が関わってるかとは思うが....いやいやそれはそれとして声が映像でも聞かないレベルとはなんだ?

こんなにやかましいのか?

騒音被害出るぞと思う。

だが意外にもそっと外を出て、村を歩き回るとそこかしこで声が聞こえてくる。


恐らく昔の出生率の高さはこれが原因なのではないか?

そう真相に近づいてしまう出来事がここ転生で知った。


だがそんな私には夜の娯楽がある。

ふふーん そう満足げな顔で外を出歩く。


近くのお気に入りの秘密基地へと赴いた。

今日は新月ではあったが、夜目には慣れているのですらすらと歩くことが出来ていた。

そこははれやかな草原に真ん中に大きな木があった。

そこに立つと村を眺めれるいい高台でもあり、お気に入りの場所でもあった。


ごとりと持っていた大きな本を置き、

持参していたろうそくに火打石を叩き火を点ける。

ろうそくは超高級品だが、付近に自生しているセイヨウアブラナをすり潰し、通りがかった行商人から失敗作のガラスのちょうどいい器に敷き詰める。

そして乾燥した麻紐を油に浸し燃やす。

燃焼率が悪い超即席の簡易ロウソクだ。


ただし火付け失敗すると油ごと燃えるので結構危ない。

だがそれでも十二分には光になってくれた。


風除けも置き、夜の読書タイムとなる。

涼しい風がそっと私を撫でて、夜の虫が夜を奏でてくる。

怖いのは蛾などがろうそくに飛び込んでこないかどうかである。

だが今日は大丈夫そうだ。


ふんふーん 嬉しそうにページをめくる。

この本は、我が家が他とは違う理由の一つ。

元々我が家も白い漆喰を塗ろうとしていたらしいが、子供のために本を買おうとしたらしい。

そのときに父は精一杯の大金で買った本がこの羊皮紙の本である。

ちなみに父は文字が読めない。

母もだ。


両親は何かの物語の本だと思っているが、

実際は違う。

魔術本だ。

題名は「魔術理論マギア·ロゴス

どうやらこの世界には魔術、魔法と呼べるものがあるらしい。

私は魔法などとかは良くは知らない。

そういうものには触らせてくれなかった。

だが見ていて楽しいものでもあった。


内容はこうだ。


世界には奇跡と呼ばれる現象が起こる。

水に火の現象が起こる。

風が土を盛り上げる。

土が木を飲み込む。

などが奇跡と呼ばれるものである。


だが実際はこれは油であり、風が岩を切り裂き、地崩れによって木を飲み込んだだけである

人々はこれを奇跡と名付けている。


だが本当の奇跡というのは、

ありえてはいけない現象のことを指す。


無から火を点ける

空に水を作る

土を浮かせるなどである。


そこには火に連なる現象も

風によっては起こらない現象でもある。


これを私は魔法と呼ぶ。


魔術とは魔法 魔法現象を引き起こすための

術式であること。

そしてこれから綴るは歴史が、魔法史が見つけた魔術、私が見つけた魔術に関するある法則を見出したものが載っている。

どうか読むべき人に役立ててくれると助かる。


私はこの文句に惹かれた。

不思議と私は文字が読めた。

この世界の文字は日本語とも英語とも呼べないがとてもシンプルでかっこいい文字であった。

それが逆に魔術書という価値を見出された気にもなった。

これも魔法なのかなと私は難しく考えないこととした。


嬉しさとともに読んでも、この本には私が魔法が扱えない人物であるとも書かれていた。

いやいや予言とかではないよ?

魔法で扱える人、扱えない人の特徴という意味だよ?


元々魔法が扱えるのは、魔法の質に違わず魔法が扱えてしまった者を指す。

つまりは生まれつき出来るかどうかのことだ。

私はその特徴に書かれていた簡易魔術を唱えた。


アレス燃え盛る


そう唱えても火の玉もなにも出なかった。

だがこの文言には続きがある。


たとえ魔法を扱えなくても、諦める必要はない 魔術を知れば自ずと真理へと導く事ができる。


要は頑張って魔法を扱えるようになれるよ

ということだ。

ハハ本にも励まされた。


そうして読み進めていった私は今日で読み終えることとなる。


ふぅ ようやく終わった。

長い月日にかけて油を注ぎ込んだガラスの器はいかにもというほど年季が入っており、それは私が真剣に読んでいったという証明でもあった。


そしてこの魔術本は、

魔法とはこういうものである

歴史と魔法、英雄譚と魔法

そして魔術の法則と勉強になった所が多くあった。


特に魔術には様々な現象を呼ぶための術式が存在しており、

口頭術式、文字術式、紋章術式を基本的とされている。

その他の術式は存在するがそのほとんどは紋章術式として括るとされている。

明文化はされていない。


だが面白いのはここからだ


 これは詠唱魔法が歴史上でもっとも使われており、そのほとんどの詠唱文は聖書から見つけられた文章であること。


そして詠唱文は単語ごとで詠唱魔法が変わるということがはっきりされている。


例えば


汝路で迷える子羊ダグラムドグル

導きは汝の光ルクスサレミタリ

陽よ陽よかの者クレアクレアス

路へと帰り給えエセクレリア


という魔術式があったとする。

これは帰りの詠唱文

帰るべき家へと導く星標を指す魔法でもある。

だがこれを単語だけでも詠唱再現ができるという代物だ。


導きは陽クレアサレミタリ

路へと帰り給えエセクレリア


これをもっと短く。


導きは路エセミタリ


でほぼ似たような現象が起こるのだとか


聞くに魔法とは想像であり、創造である。

想像をしっかりと作り出すことにより術式は完成する。


私が考えるに、脳内のイメージも術式として成立していて必要な文だけを詠唱したら想像通りのことが起こるんじゃないのか?と思った。


そしてこれはが出来るのではないか?という文言すらも書かれていた。

これが魔法なんだとワクワクもした。


そして最後には著者の名が書かれていた。

「ラーテル·メテル·エゼクリス」


誰だろう...まぁそれは知らなくて当然か

そんな疑問は転生した私には知らないことが多すぎた。

そんな疑問に答えてくれる本がさきほど読み終えてしまった。

感無量と呼べる余韻は、既に喉元を通り過ぎてしまい、果たしてこれ以外の娯楽はあるのだろうか?...と悩むがその悩みの前にあの夜の騒がしさをどうするかという不安の大きさが勝ってしまった。


.........

...............

.......................


帰って寝るか


今までの苦労がありとあらゆる出来事から開放された影響なのか少々楽観的な考えになりつつあった。


懐かしいを見た。

病床に伏せるひどく痩せこけた老いた女性が私を見ていた。

じっと じっと見ていた。

そして口を.....


朝日がまぶたを通り過ぎる。

その光が私のまぶたを開けさせ、くわぁと声を張り、体も伸ばした。


「あら起きたの? 早起きねふふ」


母からの声が聞こえる。


「お?起きたのか? おいクレス 今日は祭事だ 体を清めておけよ〜」


父のカーターからの声に疑問の声を返した。


「さいじ?....お父さんそんなこと言ってた?」


「あら?カーター まさかクレスになんにも説明してなかったの?」


むっと膨らんだ顔をする母。


「い、いや待て待ってくれ

違う こいつにはちゃんと説明したぞ?」


「えっと.....」


「ほらなんのことか分かってないじゃない!」


「あれ?前説明しただろ? 七歳になったら祭事をやるって....」


頭を傾げる。


「七歳になったら祭事....え?今日なの?」


恐らく祭事とは、聖体拝領コミュニオンのこと。

ここでも宗教があった。

以前の世界に似たような出来事があり、その結果出来た宗教であるため共通点が多く、違和感を感じたことは現状ない。


ただもちろん異世界とあってか、神の対する見方が違っていた。

以前の世界では一神教であり、三位一体を表した形を取っているが、

この世界では一神教ではあるもののこの世の全ては神の一部であると考えられている。


そのため、この世の全てを愛す神は我々を形取り、おのが血が水に、おのが身が土となった。

我々は導きなく迷える仔羊ヒト

神はそれを憐れんで、羊飼い神の子を遣わし世界に色を作ったという。


この聖体拝領とは、

羊飼いの導きによって、

神の土から麦が生まれ、神の水がぶどう酒を作り出された伝説にならい、

神と羊飼いに感謝する催しとなっている。


元々この時代では出生率は兎も角として

衛生面などが影響し、

子供がちゃんと育つことがかなり少ない。

日本では七歳までは神のうち、七五三

西洋なら9歳〜10歳で始まる

初聖体拝領|(ファーストコミュニオン)などで無事に育ったことを祝う催事が世界各地に点在していた。

これも似たようなものだろうなとは思う。


ちなみに何故みなが祭事かと言うと、

ここは小さな村 祭司達の教義は厳しくはなく祝い事は村人全員で祝うため、1種の宴として扱っているから祭事なのだ。


私が居た場所だったら、ブチギレて異教徒認定での弾劾裁判だんがいさいばんになっただろうなと思った。


「そう、それ! 今日なんだよ

エルクのとこの娘が無事に7歳になったから祭事やるぞって司祭達が躍起になってる」


「」え.....聞いてない


カッコが通り過ぎてしまうほどの衝撃が走った。

そもそもの話、自身ももう7歳になっていたが一向に宴をする気配を感じていなかったため、それが今日始まるということも知らなかった。


「あなた!?」


「いやさっき言ったじゃん!」


てんやわんやと不思議な顔をしたカーター。


「違うのです...お父さん

エリザが七歳になったというのも、祭事が今日だという説明を前日から聞いたことがないって意味です。」


「はぁ?.....ああそうか 今日だとは一切言ってなかったな」

カーターはクレスの言葉を最初理解出来なかったが、連絡が怠っていたのは確かだった。

顎をさすっていた手を下げたカーターの姿を見たイルナは頬を膨らませた。


「...........」

母が父に近づく。


「い、いやこれはだな

と、とりあえずクレスは一旦川で体を清めてこい」


「はーい」

そうテキパキと家から出た。


後ろから怒鳴り声が聞こえてくるが、叱られて当然のことなので気にせず川へと向かった。


付近にある川は村から少し遠く、林を越えた先にある。

本来なら野生動物などの危険性があると思ったのが、ここらへんは駆除活動や狩りなどでよく使われているため比較的安全らしい。


川に辿り着くと、子供が身を清めるには十分な浅瀬の小川が綺麗な川辺に沿って優しく流れていた。


私は遠慮もなくすぐに身に着けていたものを脱ぎ捨て、すぐに小川に入っていった。

体にコビリついた土や垢などを濡らした手で落としていった。

もちろん石鹸なんてものはない。

タオルもね!

まぁ一応布があるから持っては来たけど、現代基準で行くと衛生面よくはない

高級品は高級品 だから衛生面が悪いんだよ

それは置いておき、.....


キャ~と声が川辺から聞こえる。

そこには木漏れ日で揺らめき透ける赤毛、

魅入られそうな深いあおの瞳の幼い女の子が裸の私を見て体を震えていた。


「なんだ エリザか....」


「なんだってなに!? クレスど、どうしてあなたがここで裸になってるのよ」


そう指を指すエリザ。


「今日はコミュニオンだろ? 体を清めろって言われてるから清めてる」


「なんでそんな冷静なのよ!」


「なにを驚いてるのかが分からない」


「だ、だってクレスあなた...はだかだもん」


ん?よくは聞こえなかった。

だがエリザの倫理観というのは相当に高いものと見た。


「だけど、体を清めなければコミュニオンには参加出来ないよ?」


「それは!...そうだけど.....」


何かもじもじし始めたエリザだった。

まぁいいかとそのまま体を洗い始めたクレス。


くぅう そう何か苦虫を噛んだ顔をした少女は言う。


「もういい 私あっちで清めるもん!」


そうズカズカと奥の方へと向かっていった。

するすると岩の裏側の奥から布が落ちる音が聞こえる。

「..........あ、」

素早くクレスはエリザの元へ走る。

「そこはあぶな....!!」


「きゃあ ひぃ あっち行ってよ 痛っ」


岩の裏側に走ったクレスはエリザを見つける。


「え? クレス!? なんであんたが

てかなんで裸なのよ!

って私も裸だった 見ないで!」


少し情緒不安定な少女。

クレスはまじまじとエリザの体を見つめる。


「見ないで変態!! 痛い」


そんな言葉を無視するように、クレスは呆れた顔で言った。


「エリザおまえ ヒルに吸われてるな」


「ヒルぅう!!??」


幼い少女の色艶がはっきりとした無垢なる体に黒くうねる物体が足腰に貼り付いていた。

だがヒルはあんまり体に良くない。

コミュニオンに出るならなおさらだ。

クレスはエリザの手を引っ張り、朝日が当たるクレスの服が置いてある川辺へ連れて行った。


「なになにぃ? 変態!変態 私をどこに連れて行くの! くぅ....」


少し痛みが走るようだが、あの場に居てもまた噛まれるだけだ。


「ちょっと黙ってろ」


「え?う、うん....」

クレスの言葉で大人しくなった。


服から小さな陶器の容器を取り出す。

「そのまま立ってろ」

「はい....」


かぽんと木の栓を捻り出すと容器の奥から、

爽やかな匂いが漂って来た。


「え?なにその匂い いい匂い」


「ちょっとしみるぞ」


そういうと無造作に容器にある液体を手にかけ、エリザの足腰に貼り付いているヒルに塗っていく。


「ひゃう くぅぅ」


耐えられない何かが体に伝わっているのだろうか悶えるように体を震わせていた。


ことりことりとヒルが落ちていく。

その光景を見ていたエリザは驚いた。


「す、すごい」

この一言の間には体に貼り付いていたヒルが全て落ちていた。


「はいはいこっちに来て」


そうこなれたように少し立っている場所をズラシ、次はヒルの噛み跡を挟むように触る。


「え?何なに....次はなにを」


「次は痛いぞ」

「ひぎゅう」


噛み跡を手で強く絞るように血液を出していった。


「痛ったいわよ! なにするの!」


「ヒルの体液にはかゆみと腫れを強める成分があるから取り出してる

ほれ出したらすぐに水で洗う」


そういうと矢継ぎ早に水を付けた。


「ひゃ冷たっ」


「まぁこれで大丈夫だけど....エリザうるさい」

冷たくあしらうクレス。


「し、仕方ないじゃない! こんなの初めてだもん」


「ヒルはああいう岩陰や湿気のある場所によく居ることが多い

次からは気を付けて」


「.......クレスがこんな冷静だったの初めて見た 同い年じゃないみたい....

けどありがとう」


そう少し髪を顔で隠すようにいじる。

エリザは足元を見るとクレスの足にもヒルが付いていることに気づいた。


「クレス!! クレスの足にもヒルが!!」


ん?っと何食わぬ顔で瓶の液体をかけてヒルを退散して、速攻血を絞り出した。


「手際いいわね....」


「まぁしょっちゅうだったし」


「しょっちゅうなの!? 大丈夫なの?」


「ん? まぁまだ病気にはなってないし大丈夫だと思う」

そうなんとも思ってなさそうな顔をした。


「・・・」

エリザはその顔に何か思うような気持ちになった。


クレスは自分の傷口も絞り出し、手にあったエールが入った小瓶で傷口を濡らす。

そしてエリザの傷口にもかける。

その間に不思議な間があった。


「..............」

「....................」

だが、


「てか! 私達裸じゃない いやぁあ」

そうまた体を隠すような仕草をし、そそくさとその場を離れた。


「ん?またか何を恥ずかしがる必要があるの?」


「逆に恥ずかしがらない理由ってある!?」


変なツッコミだなと思ったが、話の流れのまま体を隠したエリザをまじまじを見ている。


「何を見ているの!!??変態ッ!!」


だがエリザの声はクレスには響いてなかった。

逆にぼーっとしていた。


かーごめかごめ かごのなーかのとりはー


そう声が頭に響いてきた。

なつかしいこえがきこえた。


クレスの体は全身に鳥肌が立っていた。

「クレス!!クレス!!」

気づくと裸のままのエリザがクレスを揺さぶっていた。

「あ、ああ ごめん」

「え? ええいいわよ けどどうしたのさっきは?」


「ん?ああ エリザは綺麗だなって想って思わずね」


バチンッと叩く音が森に響く。


――

―――


「いい加減にしろ!」

そう叫ぶ初老の男性。


「いやしかし ぜひともこれにはあなたには携わってほしいのです!」

そう呼び止めようとする二人の神官。


「ええい、私は先ある子供達の聖体拝領があると聞いたから教会に寄ったまでのことだ

そんなわけの分からないものに手を出すわけがないだろう!」


「いやしかし たとえあなたが旅する者であれど高名なお方なのはお間違いありません

この偶然も神が導いてたもうたしるべと想っています。」


「神が導いたのであれば、何故今までにその理論は完成しなかった? 賢者を気取ろうとしたお前らを

それは神は正しくないと言っているようなものだろ」


少し不機嫌な顔をした一人の神官は返す。

「おや珍しい あなたは賢者であれど、神は信じないのでは?」


「図星か? 小童こわっぱ とうに貴様ら羊飼いどもは神を愚弄せねば諦めないたちだからだろうが」


少し抑えていた神官は言う。

「おやめください

ここは争う場ではありません

ましてや今日は子供たちを祝う祭事であるのです。

デリウス あなたも賢者様の挑発に乗る必要はなかったはずです」


ちっと舌打ちをする神官。


「はなせ」

そう二人から離れる初老の男性は言う。

「とりあえずだ 貴様らの理論に乗る理由は私にはない! ただ聖体拝領は見させてもらう いいな?」


「はい それで大丈夫です 賢者様」


そしてふてぶてしい態度をとるもう一人の神官はこう嫌味のように言った。

「今はそれで大丈夫です ですが気が変わりましたらいつでも連絡をください」


「はっそんな日が来たらいいな」


そう初老の男性は教会から出ていく。


「デリウス 賢者様にあのような態度を取るべきではありません

隣人を愛すのが我々の十字教の教えです」


「すみません エデリ様

しかし改革派でもない保守派でもないあの革新派・・・であるのであれば我々の理論にも乗るのが常識かと

我々もかの革新派を愛しているからこそ、

あの理論をていしたのです。

しかしあの者は、理論を否定した挙げ句、我らが羊飼いましては神を愚弄したのです。

到底許せずにはいれません」


「気持ちは分かります ですが賢者様は教会のしつこさを追い払うために言った言葉なのです。 何事にも経緯がある

恐らくは度々私達のような者が居たからこそあのような一言を発した。

そう考えると彼も迷える子羊には違いないのです。」


「それは....そうなのですが」


「しかし革新派は一枚岩ではないのも確かです。 それが分かるだけでも御の字と呼ぶべきでしょうね」


そう二人の神官は教会の入口の扉を見ていた。


―――――

――――

―――


時が経ち―


教会の長椅子にて子供を見守るとある父親は、自分の息子の頬の赤さに疑問を感じていた。

「クレスのほっぺ なんか手のひらの跡がないか? 聖体拝領だぞ? 怪我したのか?」


そう相槌を取るように言う隣の女性は言った。

「あの子、川で身を清めてたら偶然エリザに出会ってしまったらしくてね

それで頬を叩かれたんだって」


「エルクのとこの娘か これは幸先いいな」


「どうして?」


「イルナとの出会いも、川での出来事があったからだろ?」


「まぁあなたったら

あのときは流石の私も襲われるとは思いもしなかったけど、クレスの時とは逆ね」


うぐっと喉をつまらすようなそう話を広げないように言うカーター。


「あのときはあまりにもイルナが美しかったから.... だ、だがクレスもいつかエリザとも....ち、血だとは思うな」


「そうね そのさがを抑えつけられない血がなかったら私はもっといい男に出会えたかも知れないのに・・・」


「」イルナァ!!??


そう驚くカーター。


「うふ 冗談よ まぁあなたの墓穴を掘る話はいいとして、エリザの話を聞いたらクレスも私的には心配だわぁ...」


少しほっとしていたカーターはイルナの一言に疑問を感じた。


「それはどうしてだ?」


「クレスって案外人たらしの才能あるかもねってことなんだけど」


「人たらしか? それはとてもいいことじゃ」


「それはそうなんだけど、ほら?人たらしがあるってことは女の子として大変そうだなーって」


「そうなのか?」


「ええ、あなた 私がモテモテだった時ヤキモキしてたでしょ?」


「え?ああ...いやそんなことはない!

俺はお前に告られたからそんな」


カーターの口を指で抑える。


「嘘言わないの・・・ 正直他の男の人に取られないか心配してたでしょ?」


「そ、それは....」


少しどもるカーターを意気地なしというようにイルナは


「ちゃんと言わないと別れるよ?」

「してました」


「正直でよろしい」


そう口元を抑えていた指を離し、ゆっくりとクレスのいる場所へと体を向ける。

「だからね あの子モテモテになりそうだなーって私思って」


「.....まぁあいつはイルナの息子でもあるんだ そこは仕方ないだろ だがクレスは俺の子でもある きっといい女引っ提ひっさげて俺達紹介してくれるだろ」


そう快活に笑うカーター。


「あらやだ野蛮ね けどそうね あの子は真面目だからきっといい人を連れてくるわね

全然まだ先だろうけど」


「あいつはまだ7歳だからな 人生まだまだあるから俺達はゆっくりと待つかな」


そう二人で肩を寄り合い、クレスを見守る。


――


(痛い)


赤く手のひらの跡がヒリヒリとする頬をさするクレス。

いくら冗談でもというが、彼女にとってはやりすぎたのかも知れない...クレスは彼女に対する対応をもう少し考えようと思った。


ここは教会、村にある建物の中で一際立派な建築物。

石レンガと木材を扱った内側がトンネル状になっており、石柱がそれを支えるように広がっている。

よく見ると、石柱には|レリーフ《浮き彫り

》が彫られており、教科書で見るような荘厳さがあった。


(なんだっけこれは? バロック様式?

ロマネスク様式? 恐らくバロック様式だろう)


正解はロマネスク様式の原型のようなものではあるが、周りには様々な聖典の出来事を象ったモチーフが飾られておりそこが神聖なものであることを示しているかのように感じた。


そんな周りを見渡すと、ふとこちらを見る赤毛の少女が居た。

ぷいっと頬を膨らませそっぽを向いた。

エリザだ そう思うのもつかの間、子供達で聖歌を歌うときが来た。


皆で歌う聖歌を歌う最中、この村で行う聖体拝領の内容を振り返ようと思った。


まずこの教会に入る際には 、神官が祝福を施すために教会の石盆にある聖水で私達子供達の額を十字に濡らす。

そのあと、この聖歌を歌い神官達が聖典にある祝福の言葉を皆に言う。

そこからは賛美会という宴が始まるといったものであるらしい。


そうして式が終わり、皆で食事会が始まった。

この宴で出されたものは、

子供達には儀礼用の小さな薄く丸いパンと赤い果実を絞った赤いエールを渡される。

ちなみにエールはアルコール度数4%ぐらいだとされているが、今とは製法が違い、一旦麦芽を粉にしパンにさせたあと粉々にして地下水に漬け煮沸しゃふつする。

あとはたるに積め、時間を経たせる。

するとエールの完成だが、他に水で自然発酵のやり方もあるため、恐らく実際の度数は低く相当飲まないと酔っぱらうというにはなさそうな感じであった。


今子供の私が言うのだから間違いは少ない....はずだ。


父であるカーターが木のゴブレットで赤紫に煌めくワインを飲んでいる姿を見て、ふと不思議に思い疑問文を出してみた。


「お父さん」


「お?どうした?」


「どうして僕たちは普通に川の水を飲まないの?」


「急にどうした? コミュニオンに関係あるのか?」


「あるっというか....どうしてエールとかばっかり飲むのかなって」


何を言ってるのんだ?というような顔で言う。

「何を言ってるんだ?川の水は汚いから飲むものじゃないぞ?」


「え?川の水透き通ってたから飲めるものじゃないの?」


「んじゃ川の水飲んでこい 速攻で腹を壊すぞ」


「え....」


そうだったのか....そんな風に驚いた。

いつも不思議に思った疑問がそこはかとなく把握することが出来た。

初めて飲んだ飲み物がこのエールであり、飲んだ瞬間、あまりの苦さで吐いたものだった。

しかもエールだから飲んでもいいんかよ!?とは思ったが、ここでは小さい頃から飲んでいたから下手なアルコールが入った飲み物でも酔うことは少なくなった。

西洋の人達がアルコールに強い理由が分かったことも多々あった。


「水はなそのまま置いといたら、すぐ腐っちまって飲めやしねぇ

だから俺達はエールにして長く飲めるようにしてるんだ」


......そうかそうなんだ

ハッキリと分かった。

元々水やらも何もかもが長持ちがしにくかった。

だけど、エールにはアルコール このアルコールは消毒作用があるから菌が繁殖しにくい

それで発酵によって栄養価も高い。

だからエールが重宝されているんだ。

そうアハ体験を感じた。


「ははは すまないね 本当ならワインも飲ませたかったが如何いかんせん少々子供にはキツいので難しかったのです 許してほしい」


そう話を聞いていたのか黒の装束に緑の首掛け布を掛けた程よいブロンドのヒゲをこさえた30代であろう男性はエデリと呼ばれている。

彼はここで神官だが、立ち位置で言うのだったら牧師様かな? 規律が厳しくないし....

そんなとりとめのない説明は置いとき、

少々お門違いのような会話が暫く続く。


カーター

「ワインは仕方ないですよ エデリ様」


エデリ

「すまないね クレスくん いつもエールだと大変だと思ってね 少し甘い赤い果実を絞って入れてみたんだ どうだい?

おいしいかい?」


クレス

「あ、はい エデリ様」

私が聞きたかったこととは違うが聞き流すことにした。


エデリ

「ですが、代わりに珍しいものを取り寄せました」


カーター

「珍しいものですか?」


エデリ

「ええ、そうですね 皆様どうぞ来てください!」


そういうと村の人達を呼んでとあるものを取り寄せた。

ぞろぞろと皆が集まると机の上に、どかんと木の桶が見えた。

なんだろうと皆がガヤガヤとし始めた。


エデリはゆっくりと蓋を開けると、何か獣臭いような匂いが辺りに立ち込める。


くさ 民衆の中から声が出る。

一人は鼻をつまみ、一人はその場を離れたりと様々な反応をした。

その蓋の先にあったものは、白い味噌に似たいやカスタードとも呼べるような獣臭い物体であった。


カーター

「あのエデリ様 これは?」

エデリ

「これはソープです」


(ソープ?...ソープ!!??)

そんな! というような顔をしてしまう。


イルナ

「あ、あのソープとは?」


エデリ

「デリウス説明してあげなさい」


デリウス

「え?私がですか?」


エデリ

「はい」


デリウス

「えーこれは遠い西のほうで成り立つ国から流れたものでして、商人曰く汚れた服などを浄化するのに役に立つと言われています。」


エデリ

「たしかそうでしたね」


デリウスはエデリ様を横目で見た。

(え?)

そんな顔でデリウスの説明を聞く。


イルナ

「まぁそれは!? では聖典に書かれていた灰汁アクと同じようなお力を持つということですか?」

(え?)

またもや驚く顔でイルナを見る。


エデリ

「商人は灰汁アクよりはよっぽど効くということだ」


デリウスはえ?そこで入るのですか?と少し顔を歪ませる。

そしてクレスは石鹸じゃん!と驚いた。


「なるほど ではこれはどのように扱えばよいでしょうか?」


(まいった)

そう話が進む中、クレスは自分が考えていた以上に石鹸への知識が少なかったことに心底びっくりしていた。

あんな偉そうに石鹸は高級品!などと恥ずかしい口述をしていたことに少々顔を赤く染めてしまった。


すると服をひっぱる感触を感じた。

その方向を見ると赤毛のエリザが何か思い詰めたような顔をし、こちらを見つめていた。


「どうしたの?エリザ」

「こっち来て」


そう導かれるようについて行くと、

教会の中 教壇の前で二人は向かい合った。

もじもじとするエリザはクレスに向けてこう言い放った。


「ごめんなさい」


そう頭は下げなかったが両手を握り彼女なりの精一杯の態度で謝っていた。

私はわけが分からなかったが謝れる原因もなんとなく分かったが念の為に


「ど、どうしたの急に?」


「あのね その川での出来事 クレスは助けてくれたんだよね?」


そう言うエリザの瞳は少し潤んでいた。


「ああそうだね ヒル噛まれたのは少し危なかったと思うし」


「けどクレス助けてくれたのに私クレス引っ叩いちゃった....」


(いやけど叩かれて当然の行動だと思うが

そんなに気に病むものなのか?)

そう冗談にも限度があったことがあったため 謝れるようなことはしてないと思うクレス。


「いや、いいよ気にしないで」

「私は気にするの!! だって神様は隣人を愛しなさいと言ったのに!

なのに・・・私はクレスを クレスを

私のこと助けてくれたクレスを...」

そう慰めるように言うクレスに対して、エリザは少し声を荒げた。

ガタンとエリザの腕が教壇にぶつかり、教壇にあった聖典が落ちてしまった。


えぐひぐそんなむせび泣くエリザの姿を動揺してしまうクレスは少し困惑していた。

どうしようかと悩んでいると聖典に書かれている文章が目に止まった。


「わたしは....」


「」え?


「わたしはあなたの祈りを聞いた。あなたの涙も見た。見よ。わたしはあなたを癒す。


そう聖典に書かれた文章を見ながらクレスは言う。


「なに...それ?」

少し困惑を見せたエリザ。

少し微笑むクレス。

(なつかしいな)


「このお話はとある王様が病気になって、神様にお祈りにしたときに慰めてもらったってお話なんだ」


「.....」


「少し当てはまらない話かも知れないけど、エリザは少し純粋すぎると思うんだ」


そうゆっくりとエリザの頭を撫でるながら言う。


「だからすぐに傷ついちゃう けどね神様はエリザの祈りも涙もきっと見ているはずさ

だからエリザ 僕は赦すよ」


「ほんと?」

幼いあおい瞳が上目遣いのまま見つめる。

「それに僕だってエリザにひどいこと言った やられて当然のことさ」


「よかった」


そう安心したかのように抱きついてきた。


(さっきまで怒ってたと思ったがやってしまったと思い悩んでもいたんだな

ってまだ7歳か感情に幼さがあるのが当然だったな)

急な展開に驚いていたがどうにか対象でき、安心したように微笑むクレス。


「そういえばクレスって文字が読めるの?」

そう不思議そうな顔で見る。


「ああ、読めるよ」

そう言った瞬間、肩を力強く掴まれる感触が響いた。

驚いたクレスはその肩を掴んだ腕の方向を見ると、白と深いブロンドが混ざった髪と凛々しく整えられた筆のような髭をたずさえた初老の男性であった。

そして彼は口を開く。


「君っ!! 文字が読めるのだな!?」


                  続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る