すれ違い
すれ違い
タマは午後の時間は何してるんだろう。
一人で回ってるのかな。
それって寂しいな。
今日で桜光祭も終わるのにな…。
…逆に私は出店を回ってすらいないけど。
そういう私のがもっと寂しいか。
「なぁ、ポチにシヅ。」
ウッチャンの呼び掛けに少し我に返った。
お客のピークはとっくに過ぎており、当番の半分は準備スペースで暇を潰している。
私達3人も適当に座って過ごしていた。
そうだ。
もうすぐ終わりって言っても店番はまだなんだ。
気を抜くところだった。
「俺、このあと後夜祭の準備あるから少し早めに抜けるんやけどいい?」
シヅは「あぁそっか、後夜祭。」と相槌をうった。
「後夜祭はカジヤン先輩とチセ先輩とかが中心になってやってるから、ポチ達も他の生徒とおんなじ様に準備せんでいいと思うで。」
「え?普通に楽しんでいいの?」
「うん、いいよ。」
ニコッと笑うウッチャンに私も笑い返した。
よかった。
せめて後夜祭だけでも桜交祭らしいことが出来そうだ。
タマにも伝えよう。
せめての思い出に…
…なんか急にタマのことばっか考えてる気がする。
なんでだろう?
ウッチャンが教室を出ていってから、スマホを触っていたシヅを見た。
スマホを打つ手を見て、やっぱりタマを思い出した。
タマの手。
「シヅ…」
「ん?」
「メール?」
「うん、マー君に。」
飲み物を飲んでいたら吹き出したかもしれない。
なんか動揺した。
「た…タマに?」
「うん、お礼メール。」
「お礼?」
「当番変わってもらったし、そのおかげで…」
シヅはチラッとこっちを見た。
「…菜月ちゃんと話が出来たし。」
照れたように笑ったシヅを見てキュンとした。
「猫かぶりのシヅも素直なシヅも好き!!」
感極まってシヅに抱き付くとシヅは「ちょっ…」と戸惑った声を出した。
シヅのスマホが震えた。
「ん?」
「あ…マー君から返事。」
心臓がまたドキッとした。
タマの名前を聞くだけで反応してしまう。
…なにこれ。
「シ…シヅ?」
「ん?」
「タマから何て…来た?」
さりげなくを装おって聞いてみた。
するとシヅは一瞬キョトンとした顔で私を見た。
でもすぐにシヅはニコッと笑った。
「気になるの?」
「気にッッ…」
言葉を詰まらす私にシヅは首を傾げた。
「私、菜月ちゃんはてっきりウッチャンのことが好きなんかと思った。」
完全にむせた。
おっさんばりの咳が出た。
「げほっ、がっ…何言って…」
「うーん…なんとなく。でも別に付き合ってるわけじゃないんだから、二人同時に好きになっていいんじゃない?この際。」
は…話があらぬ方向へ進んでる気がする。
いたたまれず席を立った。
「と…トイレに行ってくる。」
ウッチャンのことは…好き。
タマのことも…好き?
それはよくわからない。
…いっそのこと、シヅに相談してみる?
ウッチャンの時はてっきり二人が付き合っていると思っていたから、何も言わなかったけど。
トイレの中で長い息を吐く。
よし、恋のことはちんぷんかんぷんだから素直にシヅに相談しよう!!
何でも言い合える仲になる一歩として!!
教室に戻れば、クラス全体的に終わりと片付けの雰囲気となっていた。
桜光祭も終わりだ。
よし、周りもお喋りモードだから、今相談しても…
「あのっ…シヅ。」
「あ!!菜月ちゃん!!このあとの片付けなんだけど、」
「相談が…って、え?」
「お化け屋敷の備品返却受付のためにジチシコ室に居てって。」
的確な指示を出すシヅの言葉で私の言葉なんか小さく消えた。
瞬きだけしてシヅを見た。
「えっと…お化け屋敷?」
「うん。菜月ちゃんがトイレ行ってる間にマー君が来て、そう伝えといてって言われた。」
「た…タマ来たの!?嘘!?今!?さっき!?」
「う……うん。」
まくし立てて聞く私にシヅは少したじろいだ。
「…で、マー君それだけ言って出ていった。」
「…そう、です…か。」
慌てた自分に自分でビックリして、シヅも瞬きだけして、妙な無言の時間が数秒流れた。
…えーっと、なんでこんな大声出しちゃったんだろ?
気まずい気分でその場の椅子に座ったら、シヅがプッと笑った。
「もしかして自覚なし?」
「へ?」
「まぁ、おもしろいから黙っとくけど。」
「…何が?」
「それに…」
シヅが流し目をよこした。
「自分で気付いて、初めて意味があるんだから。」
本音を見せてくれるシヅの笑顔はどこかニヒルだった。
◇◇◇
「え?さっき?」
お化け屋敷の片付けを見廻りにきたら、すでにタマが来たと聞いた。
お化け屋敷担当の2年先輩が思い出すように唸った。
「え~っと、ホントついさっき。『何かあったら、あとは女の子の方に言ってください』って言われて、どっか行っちゃった。」
どっかというか、タマはおそらく後夜祭の方の手伝いに行ったんだろうけど…
すれ違いになったんだ。
「あ!!そうだ!暗幕で使ったネジのことで聞きたいことがあるんだけど…」
先輩の話に相づちを打ちながら、違うことを考えた。
って、とりあえず早く片付けを済ませよう!!
それが第一だ。
うんうん。
貸し出した備品を預かって、それをジチシコ室に戻しに行った。
ジチシコ室を開けると、
「タマくん…じゃなくて、ポチちゃんか。」
志方先輩がいた。
「志方先輩!!お疲れ様です!!」
「うん、お疲れ。お化け屋敷は片付けもう終わったの?」
「え…いえ、あと少し。」
「あー、そっか。さっきまでタマくんがいたんだけど、」
またすれ違い?
なんでこう…タマと会えないんだ?
「タマくん、レジュメ忘れたまま体育館に行っちゃったんだよ。持っていってほしいんだけど、ポチちゃん忙しいよね。どうしようかな…」
「先輩!!」
「…ん?」
「あの…私、お化け屋敷クラスにこのあと戻ります…けど、」
「うん。」
「体育館に…寄りましょうか?忘れ物、届けに…」
気付いたら、そう言っていた。
志方先輩は「ありがとう!!よろしく。」とプリントを渡してきた。
なんで遠回りを自分で提案したのかはわからないけど…タマが体育館にいるんだ、って意識はあった…一応。
しかし…
「タマならジチシコ室にレジュメ取りに戻ったけど…もしかしてポチが持ってきてくれたん?」
体育館に着いたら、ウッチャンにそう言われた。
「え…タマ、いないの?」
「あはは、タマの奴…無駄足になってもうたな。ポチが持ってきてくれたのに。」
またもタマに会えなかった。
別に会う約束したわけじゃないけど。
なんか…こうも会わないと…なんかムズムズする。
たかだか半日の話なのに。
朝会ったのに…、すごく会ってないような気がする。
ウッチャンはニッコリ笑った。
「ありがとう。助かった。タマにも言っとくな。」
結局、ウッチャンにプリントを渡しただけで、体育館を出ていくことになった。
タマ、なんで会えないんだろ。
タマ…
『探すに決まってんだろ?』
『だから…お前はそのままでも、充分だよ。』
『ポチ!!走れ!!』
『ポチ、いけ。』
ふと思い出される…タマの言葉は、ちゃんと私の中で残っている。
大事な時、いつもタマがいた。
私は
私は…
その言葉の続きが何も思い付かなくて、自然と息を飲み込んだ。
そうしたら息が苦しくなった。
なんでだろう。
お化け屋敷の片付けの様子を見に行ったが、最後まで終わってないのにクラスのほとんどは後夜祭へ行ってしまったようだった。
委員会の人達ももう明日でいいやってムードみたい。
…まぁ、いいか。
せっかくの後夜祭だもんね、これから。
廊下から空を見上げる。
薄い黄色が地平線に落ちて、紺色が覆う。
「…桜光祭、終わるんだ。」
長い間、準備してきたことがやっと終わるんだ。
なんだか…
なんだか…
なんて言うんだろう。
この感じ。
「ポチ。」
「……え?」
振り返った廊下の先に
「タマ?」
なかなか会えなかったタマがそこにいた。
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