シヅの秘密
シヅの秘密
◇◇◇◇
「なんだ?お前ら喧嘩か?」
かじやん先輩にそう聞かれるくらい今朝の私達はおかしかった。
ついに桜光祭当日。
…と言っても今日はうちの生徒達だけでやるやつで、一般公開は明日。
朝から今日の桜光祭のための打ち合わせでジチシコ室にはメンバー全員が集まっている。
でも私達一年は黙っていた。
誰も喋らない。
シヅは笑顔を見せずに俯いている。
タマと内野君は頬や口に昨日の傷をつけたまま、ムスッと何も言わない。
そして私はこんな状態に戸惑って、何てフォローすれば…どうしたらいいのかわからない。
何か言いたげな志方先輩はそれでも一つ溜め息をついただけで、いつもの様に打ち合わせ・連絡事項をしはじめた。
「じゃあ…以上!!よろしくお願いします!!」
「「「お願いします!!」」」
志方先輩の締めの言葉を合図に解散していく。
このあとお化け屋敷の最終確認でタマと二人。
…なんか気が重い。
そして開始前にクラスにも顔を出さなくては…
それもなんか気まずい。
私は何をするべき?
内野君と仲直りしなよって促す?
シヅのこと守ったとかやるじゃんって褒める?
タマだけじゃない。
シヅにも内野君にも聞きたいことがある。
なんでタマとキスしてたの?
なんで大阪弁を使ってるの?
考え事をしていたら、知らない間に息を止めてたらしく、そんなつもりないのに大きな息を吐いてしまった。
「…朝から辛気臭ぇ。」
タマがボソッとそう言った。
誰のこと考えて吐いたと思ってんのよ!!!!
タマは昨日のことがなかったのようにいつも通りに見える。
まぁ私と喧嘩したわけじゃないから、当たり前っちゃ当たり前だけど。
前から思ってたけど、タマってほんと冷静だよな。
でもタマみたいに私はうまく切り替えが出来ない。
…だからこそ、早くこのギスギスした空気をなんとかしなきゃ。
「タマ?」
「何?」
「…」
岡崎くんとの別れ話で…
聞いたところによるとシヅがフッたって話だから、シヅには他に好きな人がいたとか…
例えば…タマ……とか。
「シヅは…やっぱ…何か悩んでんのかな?」
でもどこまでストレートに聞いたらいいのかわかんないから『何か』と曖昧に言った。
タマはどこまで真実を知っているのかわかんないけど、一瞬だけ眉をひそめて「そうだな。」と言った。
「私に出来ること…なんかないのかな…?」
タマは昨日の傷を無意識なのかポリポリと掻いた。
「…ポチってほんとお節介。」
「……はあ?」
「間違えた。世話焼きだ。」
どっちも悪口だよ!!!!
睨んでいたら、タマのあの優しい手付きで撫でられた。
「…でもポチのそれは今の詩鶴には必要かもしんねぇから…話は聞いてやったら?」
いつもの無表情な切れ長の目。
でも薄い色素の瞳は優しく見える。
それにタマの"手"にはやっぱり弱い。
顔が赤くなる前に俯いた。
「な…何よ!!お節介のフォ、フォローなら遅いわよ!!大体、頭撫でて誤魔化そうなんて通じないから!!」
「別にそんなじゃ、」
「いつもこっちが調子悪い時、撫でて…なんでいつも撫でんのよ!!」
そこまで言ったらタマが黙った。
黙ったから我に返った。
てか何言ってんのよ、私!!
するとタマが腰を曲げて私と視線を合わせた。
タマの淡い色の瞳がこっちを見てる。
「な…な…何…」
「なんかお前見てると…」
「…」
「…」
タマは歩き出した。
えぇ!?
続きは?
オチなし!?
呆然と立っていたら「最終チェック間に合わねぇぞ。」と当たり前な感じに言われた。
ダメだ。
タマにペースを狂わされんのはもう充分わかってんのに、学習しろ自分!!
タマにまともの反応を求めることが間違ってんだから!!
でも…
『今の詩鶴には必要かもしんねぇから…話は聞いてやったら?』
桜光祭が終わったら、すぐにでもシヅの話を聞こうと思った。
校内放送で桜光祭が始まった。
「タマってクラスの当番って午後だっけ?」
「うん、ポチと一緒。」
あと内野君とも一緒だけどタマはそこまでは言わなかった。
…当番までには仲直りしないかな。
それにシヅは…
「シヅは…午前だったよね、当番。」
昨日の喧嘩したギャルがいるかもしれないのに、一人で大丈夫かな?
ソワソワした。
クラスの様子、見に行きたいけどな…。
歩美も咲ちゃんも午前はクラスいないし…
「タ…タマはチェック終わったあと、どうすんの?午前は何する?」
「……ジチシコの待機室で寝るかな。」
「寝るのかよ。」
友達とお店回ったりしないのか?
それもタマらしいから、もういいや。
それよりも!!
クラスの様子見るの、タマにも着いてきてもらお。
「ヒマなら…一緒にちょっと回らない?」
「俺が思うに、」
「は?」
「ポチってあだ名のわりにお前は猫っぽいと思う。」
「…君、会話のキャッチボールって知ってるかい?」
この際、タマのフリーダムにはノータッチだ!!!!
「…で、私とお店回ってみない?」
「……寝る。」
「……あっそ。」
もういいけど!!
お前がそういう奴って知ってたけど!!
人の気も知らないで…
溜め息をついたら、タマに肩を叩かれた。
「女同士で話した方がいい時もあるだろ?」
「…え?」
タマの方を見た時にはタマは背中を向けて歩き出していて、手だけをヒラヒラと私に振った。
…なんだ、私の考えわかってたのか。
マジで掴めない奴。
フッと口元を弛めて、私はクラスの模擬店へと向かった。
生徒達だけとはいえ、お客さんはなかなか来ているようだ。
クラスメイトは忙しそうに接客していたり、裏で調理をしていたりした。
その中でシヅは…
教室で一人窓際に立っていた。
スマホをいじっている。
なんだか良い雰囲気じゃない。
シヅのところへ行こうと思ったら、腕を引かれた。
え?何?
腕を掴んだ人物を見たら昨日のギャルの小沢さんだった。
何故かご機嫌そう…
「乾さんって富永さんと仲良かったよね?」
「う…うん。まぁ…」
返事に対してクスクスと笑っている。
何がそんなにおかしいの?
昨日の様子と違ってやけに余裕な感じだし…
「じゃあさー…仲良しだったら、これも知ってる?」
そう言って目の前に差し出されたのは一枚の写真。
幼い感じの三人の女の子が写っていた。
制服からして中学生と思われてる。
「…これが何?」
私の質問に小沢さん達が可笑しそうに声を上げて笑った。
その時、シヅと目が合った。
「菜月ちゃん!!」
焦った感じでシヅが叫んだが、小沢さんが写真を指差して言った。
「これ、中学の時の富永さんだって。」
そう言われて見た写真の中のシヅは地味で太っていた。
「…え?」
私の驚いた様子を見て小沢さん達がより高い声で笑った。
「あはは!!!!あの人、こんなデブブスだったなんて!!」
「あははは!!高校デビュー?あはは!!イケてる~!!」
「ホントホント!!!!」
信じられない。
これがシヅ?
小沢さん達がシヅをバカにしたい嘘なんじゃ?
でも写真の彼女の垂れた目やポテッとした口元はシヅの面影がある。
ハッと顔を上げる。
「…シヅ。」
「…見た?」
シヅが呆然と立っている。
何て言えばいい?
「シ…」
顔を歪めたシヅは私達の間を割って、教室を出ていった。
「シヅ!!!!」
その一連の流れを見て、小沢さんがまた笑った。
「あはは!!ダサーイ!!高校デビューってバレて恥ずかし~い!!!!」
シヅが高校デビュー?
嘘って思う反面、なるほどって思ったり…
「あ…シヅ!!!!」
思わずボーッとなったが、我に返って廊下に出たシヅを追いかけた。
でも祭りで浮かれる生徒で溢れてシヅの姿はなかった。
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