偽善?

偽善?


◇◇◇◇


「うーん。」


「…」


「うぅ…」


「…」


「うぅーんー」


「うるさい。」



タマにそう冷たく言われたが、唸らずにはいられない。



だってシヅは実は高校デビューだったなんて…


だからなんだって話だけど、シヅにしてみれば昔の自分は隠しておきたかったわけで…


それがクラスでバレちゃったみたいだし…



…シヅはそうして自分を黙っておくことに何か悩んでたのかも。


最近様子がおかしかったのってそれ?


いや…岡崎くんともなんかあったのかもだし…



午後からの当番を代わるために教室にタマと歩いてるわけだけど、頭の中はシヅのことでいっぱいだ。


…と思ったら、頭を捕まれた。



「…うるさい。」


「ご…ごめんなさい。」



って反射で謝っちゃったけど、そんなタマに責められなくてもよくない?


あからさまにブスッとした顔をすると、タマが鼻で溜め息をついた。



「ポチはすぐ一人でゴチャゴチャ考える。」


「…え?」


「前みたいに変になる前に言え。」


「前?変?」


「桜光祭前に変だった時あんじゃん。」


「…あぁ。」


「あのウッチャンのも結局はポチの勘違いだったわけだし…」


「なッッ!?元はと言えば、タマがややこしい言い方をしたから…」


「だから言え!!」


「…うっ?」


「何唸ってんだ。」


「…」



言いたいけど…言っていいのかな?


だって人の秘密をバラすようなことだし。



でも言いたい。


一人で悩むのに疲れたのと少しの野次馬心。


タマ知ってた?って。



でも…


言葉を選ぶうちに無言となってしまった。


静かになってしまってもタマは気にしない風にそのまま歩き続けて教室に着いてしまった。



シヅは…結局あれから帰ってきたのだろうか。


ジチシコ室にもいなかったし。



入ってすぐに私の考えが浅かったことに気付かされた。



歩美がすぐに私達に気付いてやってきた。



「菜月!!聞いた?富永さんのイメチェン高校デビューの話?」


「ぶっ!!!!」



あっさりとタマの前で言ってのけた歩美に思わず吹き出した。


可笑しかったのではなく、なんとなくの条件反射だ。


タマが眉をひそめた。



「ポチ、汚い。」



まず言う第一声がそれかよ!!


しかし一度むせた咳は止まらずゴホゴホ咳き込んだ。


なんとか自分で落ち着かせて歩美に勢い良く聞いた。



「それ!!誰から聞いたの!?」


「誰って…クラスみんな言ってる。午前中にその話が出たんだって。」



小沢さん達が言いふらしたんだ!!


なんか最悪な展開に…



「し…シヅは!?見なかった!?」


「いや…私は知らない。」



二人で話しているところをタマが過ぎ去った。


え?この話スルー!?



どうしよう…


やっぱりもう一度シヅを探しにいくべき?


はっ!!てかもう家に帰ったとか?



迷っていたら…



「ポチ!!」



タマに呼ばれた。



反射でタマのところへ駆け寄った。



「何?」


「呼んだら来るとか……ホント犬みてぇだな。」



すかさずタマを脇腹を殴った。



こいつはマジで何がしたいわけ!?



タマが自分の脇腹を押さえながら悶絶している。


その横で笑い声が聞こえてきた。



「あはは、マジ自分らウケるわ~。来年の学祭では漫才ホンマしてやぁ。」



エプロンをしながら内野君が私達の間にやってきた。


なんでいつもタマと言い合ってる時に内野君はいるのだろうか。



少し恥ずかしい。



内野君はチラリとタマを見て、タマも少し内野を見た。



「よぉ。」


「…おぉ。」



少し気まずい空気でお互いに声を掛け合う。


そしてそのまま内野君は別のところにいる友達に「俺何したえぇの?」と行ってしまった。



タマをチラリと見た。



「タマは…」


「…ん?」


「内野君と仲直りしないの?」


「…別に喧嘩したわけじゃねぇよ。」



いや…おもいっきり殴り合ってたじゃん


…とは言えなかった。



「ただ向こうが勝手に気まずくなってるだけじゃない?」


「でも…」


「向こうが普通になるの待つだけだし。」


「ま…待つだけじゃなくて、タマから気軽に声掛けて普通になれるキッカケを作ってあげたら…」


「やだ。」


「は?」


「向こうが話かけるまで俺は喋らない。」


「……やっぱ怒ってんじゃん。」


「…別に。」



子供か!?


いつもだったらシヅとかに相談して、シヅが仲介になってもらえるのに…


…逆に二人が喧嘩してなかったら、シヅのこと相談出来るのに。



…どうしたらいいんだろうか。



「タマ…」


「なんだ?仕事すんぞ。」


「そうだけど!!」



クラスのお揃いTシャツを手にタマは眉をひそめた。



「だ…だけど、シヅのことクラスに変に広まってるし…」


「…」


「…シヅを探しにいけないかな?今から。」


「俺らジチシコは…」



話が飛んだ?


いや…タマはいつも真剣に言葉を選んでるわけだから、最後まで聞こう。



「いつもジチシコの仕事をやって、クラスの手伝いも満足に出来てないんだ。」


「だから?」


「今ここでポチが仕事抜け出したら、またジチシコのイメージが悪いだろ?」



カッとなった。



「タマはシヅが心配じゃないの?」


「…その詩鶴だってジチシコだろ?」



ダメだ。


こんな公私混同せずに切り替え出来る奴に相談なんてバカだった。



「バカッッ!!」



気付けば実際にバカと言い放って、Tシャツをタマに投げつけていた。



いい!!


私一人でもシヅを探しに行く!!



考えなしで教室を出た。



ホントそんな感じ。


だってシヅがどこに行ったかなんてわからないし…


午前中にだって探しても見つからなかったわけだし。



しばらく歩いて人通りが少ない渡り廊下に差し掛かって立ち止まった。


すでにどうすればいいのかわからない。



とりあえずスマホを開いてシヅに電話してみる。



出てくれるかわかんないけど…



『…はい。』



…出た。


いや、出たって心霊チックに言うのは失礼?


でも電話に出てくれるとは思ってなくて、予想外の出来事に次の言葉が出てこない!!



『…菜月ちゃん?』



シヅに呼ばれて喉を鳴らした。



「い…今、どこ!?」


『校門あたり…』


「行く!!」


『え?』



もう走り出した。


途中で帰られたら困るから、電話越しでずっと「行くから、電話切らないでね!!」を繰り返した。


シヅは何も言わないけど、電話を切らなかった。



校門に近付いて、シヅの姿を確認して、ようやく電話を切った。



「シヅ!!」



シヅは何の荷物も持たずに靴だって上履きのままだった。



シヅはニコリと笑わずに「何?」とだけ返した。



その冷たい視線が怖かった。


何か気に障ることをしてしまったのだろうか。



「シヅ…ずっとどこ行ってたの?探してたんだよ。」


「…別に。適当に。」



上履きの学年カラーしか目に入らない。


シヅの目が見れない。



どうする?


何が正解?


なんて言えば、この雰囲気を状況を解決出来る?



「私……気にしてないから!!」


「…え?」


「シヅが中学がどうだったとか、高校で変わったとか、気にしない。シヅはシヅだし、私にとったらシヅはやっぱ可愛いし…別に私は…」



べらべらと喋ってしまう悪い癖。


でもシヅに少しでも安心してもらいたい一心であるのは確か。


言葉が綺麗にまとまってなくても、シヅに伝わるはず!!



「…菜月ちゃん。」



シヅの呼び掛けにようやく顔を上げることが出来た。


そしてシヅに笑った。



「たかが高校デビューとかでシヅと友達止めるとかないからね。」



これだ。


一番言いたいことが言えた。


友達に変わりない。


だから悩んでること全部言ってほしい。



それを言おうしたが、シヅが先に喋り出した。


シヅの口元が微笑んだ。



「離れていかなくてもバカにしてるんでしょ?」



…え?


シヅが笑ってる。


でも笑ってるのは口だけ。



…何言ってるの?



「元・陰キャラが何色気づいてんだって思ってんでしょ?」


「なっ!?そんなの…」


「今は考えてなくても、写真見た時にそう思ったんでしょ?」


「思ってないって!!!!」


「そんで一緒にいて、何食わぬ顔をして優越感に浸りたいんでしょ?だからそんな友達宣言できるんだよね?」


「シヅ!?」


「菜月ちゃんだって、もし私が地味な奴だったら相手にしなかったくせに。」



違うと言いたい。


今すぐ言えばいい。


でも喉が乾いて、空気を吸うとヒュッとかすれた。



「菜月ちゃん、そういうのは偽善者って言うんだよ?」



偽善?



頭を打たれた…気分。


目の前にいる女の子は本当に…シヅ?



シヅは何も言わない私を見て、話しは終わったと判断したようで私とすれ違って校舎に戻っていった。



写真のようなシヅだったら、多分憧れも仲良くしたいという思いも持たなかったかもしれない。


そして高校デビューとしてバカにしたつもりはなかったけど、心の中でホッとした自分がいた。


確かに。



優しさのつもりでもそれがシヅを傷つけた?



それは優しさではなく…偽善だ…。



本当の優しさって、何?


シヅになんて言うのが正解だったの?



肩を落としてトボトボとクラスが催している模擬店に戻った。


しかし足は直前で止まった。



「本当!!ジチシコってだけで許されると思ってんの?」



女子の実行委員の声が聞こえてきたのだ。



「午前中は富永さん。午後は乾さんって次々サボられたら困るから!!」


「「ごめん。」」



扉からソッと覗くと、タマと内野君が頭を下げていた。



「忙しいか知らないけど!!そんな自己中な行動されて周りが迷惑だから!!ってか、ジチシコの前にまず自分のクラスでしょ!?」


「ごめん!!」



内野君がひたすら謝る。


タマも頭を上げない。



足が震えた。



私のせいだ。


軽はずみな行動が周りに迷惑をかけた。



シヅを追いかけたのにどうすることも出来ず、その結果ジチシコのイメージも下がってタマも内野君も関係ないはずなのに私のせいで謝ってる。



一体、何することが正解だったの?

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