ウッチャンの関西弁
ウッチャンの関西弁
◇◇◇◇
文化祭2日目になって私達の仲も距離も遠いものになった。
クラスのジチシコに対してのイメージだって最悪だし…
一体どうすりゃいいのよ!!
朝一のジチシコの集会。
私達一年生が放つ気まずいオーラは昨日の比がじゃない!!
悪化している。
シヅとは昨日のままだし、タマと内野君もまだ黙ってるし、そんな二人に私はジチシコとして迷惑かけちゃったし…
それでも4人ともちゃんと避けずに集会に来るあたり、私ら皆マジメだよな…。
うぅー…この空気耐えれない…
「ぬあー!!もぉー耐えれねぇ!!限界ッッ!!」
ビッッ…クリしたぁ。
ってカジヤン先輩!?
そう、空気に耐えれなくて叫んだのはカジヤン先輩だった。
「昨日からなんなんだ!?喧嘩なら早く仲直りしろぉ!!」
「梶原、お前が口出すことじゃないだろ?」
「志方!!昨日から『黙ってろ』って何なんだ!?ジチシコは皆でする!!これ当たり前だろ?なのに1年が空気も読まずに…」
私は言い合いを始める先輩達の間に入った。
「ちょっ…先輩!!違うんです!!これは…」
てか、私らが原因で先輩達まで喧嘩しないでほしい!!
戸惑ってる私なんてお構い無しに言い合いは続く。
「俺らが口出しして解決したところで、」
「でもいくらなんでもこいつらウザすぎ!!きっかけぐらいいいじゃねぇか!!」
「じゃあお前が怒鳴ったところでこの子達の本音が出るってのか!?」
「あぁん?志方!!てめぇはいっつも…」
パン、パン。
二回手を叩く音が響いた。
その音源は前島先輩だった。
「志方君も梶原君も落ち着いて?一年も困ってるよ?」
「……僕は落ち着いてる。叫んでるのは梶原だけだ。」
「あ?志方てめぇ…」
前島先輩の仲裁も虚しく、カジヤン先輩と志方先輩の言い合いがまだ続いた。
二人の様子に前島先輩は少し笑ってから、私達一年の方に向いた。
「大丈夫。こんなんだけど、俺達わりと仲良いんだ。」
私だけじゃなくてシヅも内野君もきょとんとした。
タマだけボンヤリした顔をしている。
「性格もタイプも三人とも違うし、気も合わないけど、言いたいこと言い合えてるからね…」
前島先輩は1年の一人一人の顔を眺めた。
「仲良くする気ないなら、もっと世渡り上手に表面的に流しちゃえばいいよ、人との付き合いなんて。でも…本気でやるなら、仕方ないよね?」
仕方がない?
「傷付けちゃったり傷付けられるなんて当たり前だよね。気まずくなることもあるよ、仕方ない。」
そう言う前島先輩はひどく大人に見えた。
「だからやりたいようにしたら?」
私達4人は思わず、それぞれの顔を確かめた。
いつの間にやら口喧嘩を終えたらしいカジヤン先輩が前島先輩に指差した。
「うぉい!!前島には気をつけろ!!こいつ、爽やかに見えて年下好きの変態エロだから!!逃げろ!!」
「梶原くん、誤解を招く言い方しないでほしい。」
「何言ってんだ!!年上よりも年下のが好きだろ、お前。」
ケラケラ笑うカジヤン先輩の横で志方先輩も笑っている。
もう仲直りしたの?
何度も思うけど、ジチシコの人…っていうか先輩達って変わってるな。
……あ、
そっか。
先輩達は本気で話し合ってたけど、本気で怒ってたわけじゃないんだ。
お互いに信頼がある。
前島先輩の言葉の意味がわかった。
志方先輩が手を数回叩いて注目を集めた。
「さ、それじゃあ話の続きするぞ。このあとの桜光祭の流れだが…」
そう言っていつもの空気に戻った。
もうすぐ9時になって、桜光祭が始まる。
ジチシコ室を出ようとした時、内野君が喋り出した。
「なぁ、タマ。」
呼ばれたのはタマだけだけど、私もシヅも内野君を見た。
内野君は言いよどむ様子で視線を游がしたあと、タマに視線を戻した。
「誰かを傷付けていい理由なんかあらへん、とかって偉そうに言うたくせに殴ってもうて…ごめん。」
タマの眉間に皺が寄った。
「先に殴ったのは俺だし…俺こそごめん。」
しかしそれは不可解だったからとかではなく、タマも申し訳なく思ったから眉間に皺が寄ったらしい。
二人が謝ったのを見て、私は自然とシヅを見た。
シヅもこっちを見たから目が合った。
しかし私達は何も言えない。
そして内野君は私達を見て、目を細めて笑った。
「シヅもごめんな。俺はシヅよりもその場の調和優先させてしもうて…」
シヅは目を見開いてから、溜め息をついて首を振った。
「いいよ、それが当たり前だし。私が言葉悪かったのも事実だよ。」
「でも人に知られたくない自分がおるのは俺もおんなじなのに…それをつつかれたら自分も取り乱す気持ちわかるのに、偉そうな口きいてもうた。だからごめん。」
内野君が人に知られたくない自分?
そう思っていたら内野君が決心したように深呼吸をした。
「
「ばめん…かんもくしょう?」
そう復唱した私に内野君が頷いた。
意味がわからなくて私は首を傾げるしかなかった。
「それって…何?」
眉を下げて、それでも内野君は笑った。
「それが俺が人に知られたくない自分。」
ドキッとした。
その場にいた誰もが真剣な面持ちになった。
「それがホンマは関西出身じゃない俺が関西弁で喋ってるワケや。」
誰も口を挟まず、ただ聞いていた。
「ざっくり言うと、まぁ…人前で喋れない。そういう病気。」
喋れない?
そんなことがあるの?
でも今は普通に喋れてるし、それと大阪弁と何の関係があるんだろう。
よくわからないからこそ、やっぱり黙っていた。
あとの二人はどうかわからないけど、多分同じ理由だと思う。
「ちっちゃい頃、俺も気弱でからかわれやすかったんやけど、友達もいたし普通に過ごしてた。でも学校で盗難事件が起こった時、ほんのたまたまな事で俺が疑われてもうたんや。」
無意識かわからないが内野君はしきりに自分の首を撫でた。
「先生達に囲まれて、問い詰められ、責められ、怒鳴られ…俺んとこ、親父がいない家庭だったから、大人の男にそうされたんが余計に怖くて怖くて…。それから声が出んくなった。喋れなくなった。家族の前だと普通に喋れんねんけど、一歩家を出たら、もう声が出んかった。」
首を触る内野君は私達一人一人との顔を見た。
「喋れるきっかけとなったのが大阪弁やった。大阪弁で俺と友達になってくれた子の影響。」
きっとその間にも色々あったんだろうけど、内野君は言葉を選ぶように簡潔に話していく。
「方言で喋ったら、自分に一枚ベールを被せて守ってるみたいで安心した。それに大阪弁なら陽気なれると俺は思えたし。」
「…」
「今は普通に…話せるはず。大阪弁使わなくても病気は治ってんだ。でも…緊張する時は癖で使っちまうんだ。」
内野君との出逢いを思い出した。
『なぁあれ。名字なんて読むん?"かん"やとその席にならんよな?』
きっと…入学式、緊張してたんだな。
でも…
「おかげで私は…内野君と仲良くなれたと思ってる!!」
内野君も、タマもシヅも突然言い出した私に驚いた顔を見せた。
でも一番ビックリしたのは私である。
「え!?えっと…だから、内野君が大阪弁使っても、使わなくても…気にしないかもしれないというか、実際はそんな、もし…」
「ポチ、早口。」
タマに淡々と焦っている癖を指摘されて、「…うん。」としか言えなかった。
内野君はいつもと違って、笑わず私を見た。
「俺が大阪弁使うってことは本音みせてないってことやで?責められたら黙ってまうメンドイ奴やで?それでえぇの?それに、もしも大阪弁じゃなかったら…」
もしも?
…もしもなんてわからない。
でも過去にあったこと、傷付いたことをこうして打ち明けてくれたのに、わからないなんて言えない。
なんて言うのが一番か…わからない。
だってそれじゃあ…
『菜月ちゃんだって、もし私が地味な奴だったら相手にしなかったくせに。』
『菜月ちゃん、そういうのは偽善者って言うんだよ?』
昨日のシヅと同じになってしまう。
言葉ひとつでがっかりさせちゃうかもしれないのに…なんて…なんて言えば…。
なんとか間を埋めようと何か喋ろうと思うのに、喉がカラカラで一文字目が出ない。
どうすれば…
何が…
その時、頭がフワッと撫でられた。
ビックリした。
でも確認しなくても誰の手かなんてすぐにわかった。
だって私は…
「…タマ。」
その手が好きなんだ。
だから勇気をもらえる。
タマはジッと私を見た。
「ポチ、いけ。」
その手が熱くて苦しくて優しく温かいから…
大きく深呼吸ができた。
仲良くする気ないなら、もっと世渡り上手に表面的に流しちゃえばいい
でも…本気でやるなら、仕方ない
傷付けちゃったり傷付けられるなんて当たり前
「私は仲良くしたい!!みんなと!!」
だからやりたいようにしたら?
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