握手する

握手する


「……なっ、なんで私なんですか!?」



3学期。


志方先輩から衝撃的なことを言われた。



「なんでってポチちゃんが一番なんじゃないかなって。俺ら三人の満場一致なんだけど?」



笑顔の先輩達にジチシコ室で叫ばずにはいられなかった。



「いやいやいや!!私が部長なんて!!ねぇ!!みんなも不安だよね!?」



入り口で立ち止まる三人。


だって私達が入ってくるなり、先輩が!!



だけど三人ともケロッとしている。



「私も菜月ちゃんが適任だと思うよ?」


「まぁな、投票の日にあんな演説したんやからなぁ」



シヅもウッチャンも反対する気はない感じで笑っている。


だからって私が部長!?



「だって、一年の中でも私が一番入るの遅かったし!!タ……タマもなんか言ってよ!?」


「……」



しばらく私を見ていたタマがフッと笑った。


駄目だ!!異論なしの顔だ!!



「前部長の指名と全部員が賛成なら諦めなよ。それに、」



タマはまっすぐに私を見ていた。



「みんなも、別にいい加減に賛成してるわけじゃない。ポチなら皆のことを考えてくれるし、楽しい学校にしてくれるって信じられる」



タマの言葉に皆が頷いてくれた。


……私に、そんな力が無いことは自分でもわかる……けど、


一人じゃなく、誰かに助けてもらえることも知っている。


その上で自分に出来ることもわかる。



私にできること、したいこと。



「それにポチのリアクションが面白いから、いいんじゃね。部長」



タマの最後の一言にその場にいた全員がグッと親指を立てた。


いやいやいやいや!!グッじゃねぇよ!!グッじゃ!!!!!



「よっ!!部長!!」


「ポチ部長!!」



私に任せたいっていうか、『面白い』って思ってる割合のが高いでしょ!!絶対!!


ニヤついている一人のかじやん先輩がケラケラと笑い出した!!



「冬休み前に言ったろ?『今のうちに休んでおけ』って。卒業式の準備は実質俺らの最後の仕事だからな。お前ら忙しくなるぞ?」



志方先輩は私に何かの書類の束を手渡してきた。



「もちろん文化祭まで三年も一緒に色々仕事はするけど、2年が中心に頑張ってね?……ってことで、俺らが卒業式の準備している並行で、君達には新入生歓迎会を準備してもらうよ?」


「新入生歓迎会?って体育館でクラブ紹介する……アレですよね?」



私の確認にかじやん先輩はますますニヤァっと笑った。



「結構いっそがしい~ぞ~?」



マジですかい?


私の頭に手がフワッと乗った。



「……やるか」



タマがそう言ったから、私も笑った。



「うん!!頑張ろう!!」


…――



「なんか、結構意外だったかも」



さっきの会議のあと、タマと二人で資料室で卒業式の案内をコピーを取っていた時だった。



「へ?」


「ポチ、部長になることもうちょっとごねるかと思った」


「えぇっ!?ごねる!?てか、タマの中の私のイメージって何!?子供ですか!?」


「まぁ、ポチがいいと思ったのは本当だから」



うっ、そんな風に褒め言葉的ななんとも言えないこと言われると……私も言い返しづらいじゃない。



「あ!!そういや放課後、1年4人でどっか食べに行こうってウッチャンが言ってたよ」


「なんで?」


「えっと……私の部長就任祝い?……的な?」


「なるほど?おめでとう部長」



苦笑している私に目もくれず、コピー機を操作するタマ。



「で、どこでするの?」


「え……多分まだ決まってないけど……、あ!!踏切の向こうファーストフードは使わないよ!!」


「ん……サンキュ」


「……やっぱまだ……怖い?」


「さぁな、まぁ……昼間の踏切に近付く勇気は……まだ……無いな」


「……そっか」



コピー機から出てきた紙を回収したら、タマに頭をチョップされた。



「そんな暗い顔すんな。俺は……ポチには本当に感謝してる。あの夜……本当にありがとうな」



タマに言われて、心の奥が暖かくなった。



「私も自分の劣等感にこれからも負けないように、頑張るよ!!」


「……ところで、ポチに聞きたいことがあるんだけど」


「何?」



タマが私をじーっと見た。


ほ……本当に何?



「ポチって俺のこと好きなのか?」


「どわっふぁー!?」



思わず奇声が上がった。


ちょ、タマもちょっと引いた目で見てるし!!


って、タマがいきなり変なこと言うからじゃん!!



「だだだだだだだなななななないいいいいいい、一体ななな何ここここれは」


「落ち着け」



逆にタマはなんで落ち着いてそんなこと聞けるの!?



資料室に二人っきりでコピーする音しか無い。



「あんな夜中にまで付き合ってくれて……なんでそこまでしてくれたんだろうかって思って」


「いや、あれは、その、タマがいきなり電話して断るわけにはいかないっていうか!!いやいやいやいや!!考えてみたらタマだってそうじゃん!!」


「……俺?」


「タマだって私のために夏の夜、学校一緒に忍びこんでくれたじゃん」


「……あぁ、あれね」


「だからお返しというか……タマがしてくれた今までの感謝っていうか、だから!!断らないのが義理堅い人情ってもんでしょ?」


「ポチ、意味不明」


「ばっ、だって、タマが!!」


「まぁ、そうか。義理か……俺の勘違いだな」


「うっ、勘違い……っていうか」



いや、勘違いとかじゃないけど、不意打ちすぎて……



「俺は好きだよ」


「…………………………………………え?」



コピー完了の音がピーッと知らされた。



「えええぇぇっ!?」



今、なんて!?


タマも次のコピー内容をコピー機に挟む。



「普通に。好きじゃなきゃあそこまでしねぇよ?」


「え……え……えええぇぇ!?い……いつから?」


「んー?わりと……前?」


「前?」


「多分、体育祭あたり」


「えええええええぇっ!?」



衝撃的な……ことが今ここで……


え?これは……幻…聴?



「その……タマがいう好きって、いわゆるその……つまり」


「何?」


「え……ええええっ!?」


「ポチうるさい」



だってパニックになるしかなかった。



「タマ、私……」


「ポチ」



タマがスッと手を差し出した。


え……何?



タマのその手にドキドキして、反射的にその手を握ってしまった。



って、私何してんだ!!



「な……なんで私達握手してんの?」


「まぁ、これから部長だったり何だったりで大変だろうけど、頑張れ。ってことで健闘を称える握手みたいな」


「へ?」


「体育祭の時、これからよろしくっつったの。結局ポチに殴られて終わったし。あれはマジで痛かった」


「あ……あれはタマが私の名前知らないとか言ったから」


「もう知ってるよ」


「そりゃあ……」


「菜月……だろ?」


「……っ!?」


「俺も出来る限りのこと、協力っつーか一緒にするし。これからも」


「そ、それは……」


「何?」


「私のことが……好きだから?」



タマは首を傾げたあと、小さく笑った。



向かい合っている私達は握手を交わしたまま、見つめ、私の脳内はフリーズした。



タマの握る手はギュッと強く力を込めたのが私に伝わった。



「それも含め、これからもよろしく」


「えぇっ!?」


「そろそろ温かくなってきたな……春だな」


「ちょ……ちょっと!?」



寒さを乗り越えた冬。


全てが終わったわけではないけど、前に進めた冬が終われば、また新しい春が始まる。



新しい春は……



「おい、ポチ」


「な……なに!?てか、いつまで握手してんの?」


「ポチが認めるまで……かな?」


「何を?」


「俺のこと、本当に好きじゃない?」


「……えええぇっ!?」



また新しい何かが始まる。


握手を交わした、その先へ。



きっと始まる。




~fin~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る