夏休み
夏休み
タマからメッセージが届いていた。
―――
見取り図のチェックどうすんの?
―――
夏休みに入って3日…。
タマは手を振り払われたことも忘れたかのように何事もなく、ただの業務連絡を送ってきた。
あー、3日前のあの日はお化け屋敷をやるクラスからの内容提出の確認するはずだったっけ…
忘れてた。
締め切りとかに厳しい私としてはありえないことをしてしまった。
タマに任せっきりにもいかないので『わかった。今週中にチェックするから渡して』とだけ返信した。
…タマには何も考えずにこんな風に5分と打てるのに3日かけても一文字も進まないメールがある。
内野君からのメッセージだ。
―――
今日は大丈夫やった?
先輩達にはきつく
説教したったからな笑
明日から夏休みやし
みんなでどっか遊びに
行かへん?♪
いつとか空いてる?
―――
完全な既読スルーをしてしまっている。
3日たった今だと尚更返信しづらくなってしまった。
あの日の言い訳すべき!?
遊びに…行く?
みんなって、ジチシコメンツだよね?
空いてる日って…
色々考えて嫌われないように丁寧に打とうとして、余計わからなくなって…
こんなチャンスを自分で潰してしまうなんて…
あ~私のばかー!!
部屋で机に突っ伏してるところに共同部屋となっているので花陽姉ちゃんが入ってきた。
「お?勉強!?感心感心♪」
ダミーでおいてあった宿題を広げていたのを見て花陽姉ちゃんに「偉いね」と頭を撫でられた。
…花陽姉ちゃんって長くて綺麗な指だけど内野君と比べると、やっぱりちっちゃいかも…
なんて内野君を意識してしまった今ではバカみたいに内野君のかけらを集めてる日々である。
「宿題をいまのうちにして桜光祭の準備しないといけないしね。」
白々しくそれらしいことを言って花陽姉ちゃんに顔を上げた。
体育祭が終わってジチシコに入ってすぐ、テニス部をやめてジチシコに入部したことは家族に伝えた。
お母さんは「生徒会って受験とか、内申に有利じゃない!!」と賛成してくれた。
生徒会って…ジチシコを少し誤解してるようだ。
休みに部活練習とかもないので、そのぶん勉強も出来るとテニス部にいた時よりも喜んでいた。
まぁインターハイに行った花陽姉ちゃんも同じテニス部だったから無理もない。
敵うはずもないのに比べられていたからな…
お母さんの私への評価が低いのは当たり前だ。
花陽姉ちゃんがいるから。
なんで同じ姉妹でここまでの差が出てるんだろうか…
大学へ行くために着替え始めた花陽姉ちゃんの華奢な背中を見ながら昔から思っていたことを今さら考えた。
でも花陽姉ちゃんでさえ出来なかった生徒会を(正しくはそれに似たジチシコだけど…)やることになった自分を思い返すと、心に感じたモヤモヤは退いていった。
着替え終えたお姉ちゃんを見てピンときた。
「今日は帰りに
私はニヤケながらそう言った。
スタイルのいい花陽姉ちゃんのファッションはお姉ちゃんの体を活かして無駄がないシンプルなシャツやタンクトップにジーンズとかが多いけど珍しくスカートを履いたり、ポイントにアクセサリーをしてるのでわかりやすい。
「ふふ…まぁね!!あんたも勉強ばっかじゃなくてたまに彼氏と遊びに行きなさいよ。」
いつものように"彼氏なんていないもん!"と言おうした時に内野君の顔が脳裏によぎった。
『夏休みやしどっか遊びに行かへん?』
じわっと顔が熱くなってきた。
いつもと違う反応に花陽姉ちゃんは目をキラキラさせながら食い付いてきた。
「何何何!?もしかして彼氏出来たの!!?」
「ちっ…違う!!いないよ!彼氏とか!!」
「じゃぁいい感じの人がいるとか?」
熱くなった顔がどんどん火照っていく。
「ほんとに~!?今まで菜月からそんな話聞いたことないよ~!!教えて教えて!!」
「~…ッッ!!お姉ちゃん!!遅れるよ!!」
「ちょっと~!!話そらす気だな!!」
かなりはしゃぎだした花陽姉ちゃんに言うのはちょっと…いや、かなり面倒だ!!
てか内野君とは私が一方的に好きってだけで別にうまくいきそうとかではないし…。
それでも花陽姉ちゃんは食い下がらない。
「ぶー!!帰ってきたら絶対吐かせるんだから!!」
だから吐くものもないんだって!!と突っ込みたい時、ナイスタイミングで私のスマホが鳴った。
「はいはいはい!!いってらっしゃい!!!」
不満そうな花陽姉ちゃんを見送りながら画面を開いた。
え……シヅ…?
―――
菜月ちゃん(≧∀≦)/
素敵な夏休み
過ごしてますか?
今日ひま
してます☆
よかったら一緒に
買い物にいかない??
(´∪`人)♪
―――
買い物?ジチシコのかな?
暇している私は『いいよ(^^)』と返信して約束の時間にシヅの待つ待ち合わせ場所へ向かった。
駅前の本屋へ行くとシヅはまだいないようだ…
…―と思ったけどいた。
シヅは知らない男の子たちの集団に囲まれていた。
え!?ナンパ!?
「あ…菜月ちゃん!!」
私に気付いたシヅは集団から抜け出してこっちに走ってきて、離れ際に向こうの集団に「ばいばい」と手を振った。
向こうもシヅにバイバイと手を振ってどこかへ行ってしまった。
「あはは!気付かなくてごめんね。早めに来ちゃった!!」
「え…えっと。今の知り合…い?」
「…ん?あっそうそう!偶然、中学のころの友達がそこを通って!!」
あ~…なるほど。
歩きながらシヅに話を続けた。
「てっきりシヅがナンパかと思ってちょっと焦った!!」
「え!?焦る!?」
「どうやって助けようか…」
「あはは!!だったら彼氏のふりして助けてね♪」
「彼氏って!?バレるから!普通に!」
「いや…そっち系と勘違いしてくれて去るかもよ!?」
「あはは!!逆に!?私が嫌だよ!!」
二人してバカな会話を爆笑しながら交差点を歩いた。
そこでふと私達はどこに向かっているのだろうかと思ったと同時に、シヅの買い物の目的もなんなのかも知らないことに気付いた。
「で今日はいきなりどうしたの?ジチシコの用具なんか足りない?」
それだけ聞くとシヅはきょとんとこっちを見た。
「え?別にないよ?」
ない?
ないのになんで!?
どこ行くの?
わからないという顔をしたらシヅにそれが伝わったようで、ニコっと私に笑顔を見せた。
「単純に菜月ちゃんと遊びたかっただけだよ。」
「え?」
ジチシコの準備と決めつけてて、というより私は何か理由がないと出掛けられなくて…
頭の固い私と違って柔らかくこんなにも自然に誰かを誘えるシヅが羨ましく感じた。
「むしろどっか行きたいとこある?私トリートメント買いたいんだぁ!!」
ドラッグストアへ歩きだすシヅは半歩遅れて歩く私に振り替える。
「それが終わったら菜月ちゃんの好きなとこも行こうね!」
ふとさっきのタマに送ったメールを思い出す。
それも一緒だ…
仕事とか理由があったのなら、なんて言えばいいかわかるしすぐに返信できる。
…でも
『明日から夏休みやし、みんなでどっか遊びに行かへん?♪』
何か理由とか言い訳がないと動けない。
気持ちが気付かれるとビクビクしてた。
でも案外そんなの気にせず遊んでいいのかな。
理由なんていらない。
何より私が遊びたい。
内野君と夏休みを過ごしたい。
「ねぇシヅ、内野君からメッセ来た?」
「ん?……いや…別に。」
「今度みんなで遊ぼうだって。」
「お…マジで!?」
「うん」
私は内野君が好きだから…
「シヅ、私も行きたいところがある。」
内野君に会いたい!!
「コスメ買うの付き合って。」
可愛くなって彼に会いたい。
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