第2章 夏

巻き込み注意

巻き込み注意


「ジチシコってミジンコと響き似てない?」


「…全然似てねぇだろ。」



私のふとした思いつきをバッサ切りにしやがったのは…


そう…タマこと辻田マサトである。



期末試験が終わったばかりの7月上旬。



蒸し暑い視聴覚室はさっきまでのザワツキとは打って変わって、今は広い教室に4人しかいない。



「うんうん!!わかるよぉ。あっ後、メキシコとかも似てない?」



優しくフォローしてくれたのはシヅこと富永詩鶴。


暑いのか、お団子頭にしていて今日も可愛らしい。



シヅに対するタマの評価を待ってみれば…



「確かに似てる。」



と何故か同意した。



「ちょッッ!?私のは似てないってのに、なんでシヅのはOKなのよ!!大差ないでしょが!!」


「"シコ"が一緒だから、半分は一緒だろ?」


「私だって二文字一緒じゃん!!ジとコ!!」


「位置が違う…。」



タマとのやりとりをずっと可笑しそうに笑ってるのはウッチャンこと内野君。


お腹を押さえて、ほんとに楽しそうに笑う。



「あ~…おもろ!!自分らマジで最高!!」


「そこまで笑わなくてもいいでしょ…」


「だっておもろいもん!!コンビ名は"ポチタマ"で決まりやな!!それでM-1出てや!!」



そう、そしてあの体育祭からジチシコに入って一ヶ月…


ポチこと乾菜月とは私のことである。



体育祭が終わったからと言って、ジチシコは気が抜けないのだ。


期末テストが終わってすぐ、つい先程まで、この視聴覚室で文化祭の説明会が行われたところだ。


いや…この学校では文化祭ではなく、“桜光祭(オウコウサイ)”と言うらしい。



ジチシコといい、桜光祭といい、独自の名前が紛らわしい…



先輩達は早々にジチシコ室に戻り、下っぱの一年は黒板、プリントと後片付けをしている。



「夏休み挟んで、準備するわけだから気合い入ってるよね。」



プリントをまとめ終えたシヅは楽しそうに笑っている。



「せやなぁ!!まぁ…当日俺らが参加出来るかはわからんけどな。」



黒板を消し終わった内野君は手についた粉を叩きながら落としている。


それを聞いて私は慌てた。



「え!?参加しちゃダメなの?」


「いや…準備ばっかでフルは難しいかもなって話!!俺はずっと体育館にこもるやろから確定やけど、ポチはタマと一緒なんやからなんとかなるんちゃう?」



私は大きく溜め息をついて頭を抱えた。



「それが余計に心配なんだよ~。」



タマはこっちを睨んで「なんで?」と不機嫌になった。



それはテスト始まる前まで遡る。



…ー


第一回桜光祭実行委員会


体育祭と違って体育委員みたいな委員がないので桜光祭の間、各クラスから男女二人を必ず決めなくてはいけない。


それを発足する前に、各担当をジチシコ室で集まって決めることになった。



…と言っても三年生と噂の前島さんは掛け持ちしている部活の方へ行ってしまった。


つまり結局1年4人とかじやん先輩・志方先輩といつも見るメンバーだ。



桜光祭でやる項目は全部で5つ。



劇や合唱の“舞台”


食べ物や手作り小物などを売るもしくはフリマの“模擬店”


研究発表や縁日・ゲームを行う“展示物”


プチアトラクションの“お化け屋敷”


そして“後夜祭”



その項目の担当を決めるといっても、先輩達は去年の担当の繰り上げがほとんどなので、決めるのは1年の行方だ。



決める前から志方先輩は唸り声をあげた。



「う~ん…今年はね~不作の年なんだよね…。」



ジチシコに入ってから知ったことだが、志方先輩はジチシコの現部長さんなのだった。


シヅはきょとんとして聞いた。



「不作…ですか?」



復唱してみてもその真意に気付いてるわけでもなかった。


先輩は困ったふうに笑った。



「今年はね、入ってきてくれた1年の数が少ないから担当の割り振りが大変だな…って思って。2、3年だって少ないし。」



そんな志方先輩にかじやん先輩は後ろからモタれて肩に顎を乗せてた。



「ほんとだぜ!!お前らマジでやめんなよ!!これ以上減ったら桜田高校は破滅だ!!」



なんて大袈裟な…



「まぁまぁ、ポチちゃんが入ってくれただけよかったじゃん?」



先輩達はヤイヤイしている。



「不作って2年生の方が少ないじゃないですか?」



内野君は不思議そうに言った。



「ばぁーか!!これでも一年の時は俺らの学年8人いたんだぞ!?」


「「「…8ッッ!?」」」



その数だけで今のジチシコ室にいる人数を越えた。



私はおずおずと尋ねてみた。



「…ちなみにですけど今の二年生って何人なんですか?」


「んぁ?俺と志方と前島の3人!!」



どこいった!?5人!!!!



志方先輩はまだ眉毛を下げたまま、アハハと笑った。



「俺らの年だけじゃなくて毎年大体そうなんだよね。春に10人前後入るんだけど、体育祭・文化祭が終わるとふわ~って減るんだよ。部活を掛け持ちしてた奴とか特に。」



ってことは掛け持ちしてない人もやめてるのか…


仕事がしんどすぎたんかな?


それともここの変人っぷりに耐えれなくなったとか…



「へぇー」と返事をしながら、失礼なこと考えているとタマが首を傾げて言った。



「先輩達の性格のアクが強すぎて引いちゃったんじゃないスか?」




空気読めない子キター!!!!!!!!!!!!



チラっと思ったけど!!

私も思ったけども!!!!




ゲラゲラ笑っている内野君と違ってシヅと私はオロオロと冷や汗をかいている。


でも志方先輩も笑っている。


いつの間にか志方先輩におんぶされていたかじやん先輩が上からタマを小突いた。



「こんのタマ助が!!調子乗ったからお前“お化け屋敷”担当な!!」



お化け屋敷担当は規則が一番厳しいから周りから嫌われやすいポジションなのだ。


しかもジチシコの先輩達も少ないので唯一先輩が入ってない担当、つまり指導者がいないのでかなり面倒なポジションでもある。



普段から淡々としているタマですら表情を崩した。



「な!?何勝手に決めてんスか!!調子のってなんかないっスよ!!ただ思ったこと言っただけじゃないですか!?」



ドツボ!!!!



「はいはーい、お化け屋敷はタマ助で決まり~!!」



かじやん先輩はホワイトボードにさっさとタマの名前を書いた。


周りはドッと笑った。



「ちょッッ!!マジっすか!?」


「生意気いう罰じゃ!!」



焦っているタマが目新しくて、とても可笑しかった。



「アハハ!!タマ可哀想!!ドンマイ!!」



爆笑している私をタマは自慢の切れ長の目で冷たい一瞥をしてから真っ直ぐに手を挙げた。



「…はい!先生!!」



内野君は、すかさずタマを指差して当てる。



「はい!辻田君!なんでしょう?」


「お化け屋敷担当にもう一人ぃ、乾さんもつけたら、僕はいいと思いまぁす。」


「…えぇ!!?」



思わず声をあげた。


タマの小学生の発表のようなわざと甘ったるい喋りが鼻についた。


しかも無表情でやりやがって。



何キャラだよ!!おい!!


どっから出てくるんだ!その引き出し!!



かじやん先輩が頷いた。



「…よし!!採用☆」



ええぇぇ!!??



「ななッッなんでですか!!?」



私も焦ってバタバタしている後ろに、タマが小さくガッツポーズしていた。


志方先輩も頷いた。



「うん。採用!!」


「はあぁぁ!!!??」



先輩なのも忘れて暴言を吐いてしまった。



「なんでですか!?」


「ポチのリアクションが面白かったから!!」



かじやん先輩の親指を目の前で出されてグーサインをされた。



なにそれ!?


リアクションと言われたので無言を決め込んだら、



「うん!!ナイスリアクション☆」



と志方先輩までグーサインを出した。



えぇぇ!?



そんな後ろでタマが小さくボソッと呟いた。



「自業自得…」



ムキー!!!


何が自業自得だ!!


巻き込み事故もいいとこだ!!



「…た~ま~!!」



タマに睨みを効かせて威嚇をしたけど、タマは知らんぷりをしてシラーっと目をそむけるだけだ。



それでまた先輩達は笑い、内野君達までもが笑っている。


私がどんなことをしても、今は皆、面白くて仕方のないようになったみたいだ。



こんなんでお化け屋敷担当に決まってしまうなんて!!



最悪だあぁ!!!

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