モットー知ってる?

モットー知ってる?

「…―我が校において、そもそも我々は"生徒"ではなく"自治部員"なのである!」


「はぁ…」


「だからこの学校では"生徒会"でなく"自治会執行部"なのである!そこまではわかる?」


「はぁ…」



私は今、ジチシコについての説明を受けている。



何故そうなって…

誰にかというと…





―…30分前




「さぁさ!菜月ちゃん!!遠慮せずに中に入って!」


「えぇぇ!?詩鶴ちゃん!?てかジチ部って言われても意味わかんないんですけど!?」


「わかんないならやっぱり入らなきゃ!この建物、見た目良くないけど入っちゃえば案外普通だから!!」



詩鶴ちゃんは仮設住宅を指さしては後ろから私の背中をグイグイ押してくる。


見かけによらず力強い…


結局詩鶴ちゃんに押し切られ、中へ入った。



「…富永さん?その子は誰…?」



そこにいた一人の男の人が問いかけてきた。



「志方先輩!!」



詩鶴ちゃんにそう呼ばれた先輩なる人はいかにも生徒会らしい風貌だった。


中肉中背の眼鏡にシャツイン。

真面目で賢そう。

何かしらのプリントの束を持ってる様が似合う!



志方先輩は不思議そうな様子で近づいてくる。

なんだか優しそうな人だ。



「先輩!この子は乾菜月ちゃん。私達のクラスメイトで今日はジチシコの見学に来たんです。」




うわ…


見学に来るつもりだったとはいえ軽い気持ちで来たから、いざこうして見学といわれると妙に現実的というか緊張するというか…



ちょっとテンパってきた…


志方先輩がこっちを見て少し微笑んだ。



「あぁ…それは嬉しいね!こういうの興味あるの?」


「あ…はい…興味は…まぁ少し?でも生徒会とかそんなすごい仕事が出来るかどうかまでは…ってか生徒役員選挙とかも普通もう終わってますよね?それでも大丈―…」



不安や疑問をそのまま素直に言ったつもりがちょっとした愚痴っぽくなってしまった。



先輩の目の色が変わった…



めちゃめちゃに怖い!!!!

どうされたのだ!?



とりあえず謝らなくては!!



「あの!すみません!!ダラダラと喋ってしまい…」


「……君は…」



志方先輩は私に睨みをきかせたまま近づきボソッと呟かれた。



「…はい。」


「君は我が校のモットーを知っているかい?」


「…はい?」


「言ってごらん!我が校のモットー。」









……エト…?




「きみいぃぃぃ!!!!!!!!今すぐそこに座りなさいいぃぃぃ!!!!!」


「は…はいぃぃぃ!!!!!」



第一印象からは想像つかない豹変をした先輩。


そこから始まるジチシコの説明会…



「じゃぁ志方先輩!私ちょっと倉庫に行って板取りに行きますんで菜月ちゃんのことよろしくお願いします!」



あれええぇぇぇぇ!!!!??


詩鶴ちゃん!?

置いて行かないでぇぇぇ!!!



―…とこうして、長いことジチシコの説明を聞いている。


そこらへんにあったイスに座っている私に向かって、豹変した志方先輩はずっと熱弁してくれている。



…が


何言ってるのか2割ぐらいしかわかんない…



説明の上で必要なのであろうなんかの資料を取りに、先輩が背を向けたのを見計らって、あたりを見渡した。



外見以上に建物の中も汚い…


たくさんの棚には資料とプリントで溢れかえり、部屋にある全ての机の上もプリントとファイルで山ができ、本来の机の板が見えることなく埋もれている。


この机で物書きはできないな…


やたらとある黒板とホワイトボードもゴチャゴチャ書かれていたり、プリントをマグネットで留めていたりとして黒くもないし白くもないことになっている。


その端に何故か縄跳び、ノコギリ、三角コーンなどと小数の用具があちらこちらにある。


床も消しカスだらけと何故か木屑だらけ。



マンガを読んで想像していた生徒会室とは、かけ離れている。



いや…生徒会でなく


"ジチシコ"なんだっけ…



ともかく校長室みたいにソファーがあり、綺麗で、他の教室よりも優遇されている良い感じの部屋……とかではない。


断じて違う!!



なんか誇りっぽくて倉庫みたい…



校舎の中にあるものでなく、独立した建物のせいか教室とは造りがそもそも違う。



関係ないけどなんか天井高い…




「ちわーす!招集説明会終わりましたぁ…ってあれ?ポチ?」



くりくりの黒目が見開いてこちらを見た。



「…内野君~」



ホッとした。


いつもは言い合いみたいに教室ではふざけたり怒鳴ったりしてたのに、こんなにも内野君に安心してしまった。


心なしか懐かしさまで感じる。


内野君の後ろからプリントの束を丸めて肩に置いている人も部屋に入ってきた。



「ただいま~ってあれ!?女の子がいる!?えぇ!?女の子だ!!」



金髪に染めて制服を上手に着崩しておりネックレスなりリストバンドなりと、所々のセンス良さから感じる軽さがあり、志方先輩とは逆に生徒会に似合わない人だ。



「お~内野お疲れ!それからついでに梶原もお疲れ!!」


「俺ついでかよ!?まず俺に言えよな!!」



ずかずかと志方先輩に近づいて机を丸めたプリントでポコポコと叩いた。



「どっちでもいいじゃないスか~」



半笑で内野君がそう言った。


志方先輩の様子を見て、この『梶原』って人も先輩っぽい?


机を叩くのをやめた先輩らしき人は急にこっちを向いた。


驚いて思わず立ち上がった。



「んでこいつ誰よ?」



丸めたプリントの先は机ではなく私を指した。



「あ!自分っス!!同じクラスの子を自分が誘ったんです。」



内野君は「ねっ!」と私をのぞきこみ同意を求めた。


慌てた私はただ頭を下げた。



「あっそのっ…はじめまして!!」


「あっそ!俺は梶原。志方と同じ二年ね!」


「はぁ…」



むしろ志方先輩が二年なのも今知りました。



「まぁカジジ先輩でもかじやん先輩でも好きに呼ぶがいい!」


「はぁ…」



多分呼ばない。



「よくこんなプレハブに来れたな!あ!あんた名前は?」


「"乾菜月"さんって言うんだって。」



マシンガントークの中、志方先輩が代わりに言った。



「マジで!?じゃぁあだ名はワンコで決まり☆」



はあああぁぁ!?


なんだ、このデジャブ!!



「ちゃぃますよ!こいつはポチですから!!」



そうだよ!

お前だよ!

このデジャブ!!!


てかポチでもないから!



「いや!こいつはワンコ!ワンコのがいい!!」



どーでもいいわ!



「ポチちゃんって我が校のモットー知らなかったんだよ。」



志方先輩まで普通にポチって呼んでるし!!!!



「はああぁぁぁ!!??なんだと?ふざけんなよ!!」



この人も豹変した!?

怖い!!


ここの生徒はモットーを知らないとキレるシステムなの!?



詰め寄る先輩との間を内野君が入ってくれた。



「まぁまぁ、かじやん先輩も落ち着いて!てかワンコとかあかんっスよ?そこ譲りませんよ!」



内野君はポチそれまだいうか!?

諦めろ!!



「それよか嘘やろ!?何で知らないねん!我が校のモットーわからんてなんでやねん!!」


「…かじやん先輩なんで急に大阪弁なってんですか?」


「いや…内野に真似て"なんでやねん"が言ってみたかっただけ」


「イントネーションちゃいますし俺そんなんちゃいますし…」


「まぁまぁそんな冷たく言うなよ?後ろでポっちゃんビビっちゃったじゃん!」



いや…ビビったのは、かじやん先輩が大声出したせいであって…


てかポっちゃんって何!?


ポチ以上にヤダ!!


ここにはいる皆は本当に生徒会役員選挙で選ばれた人達なのだろうか?


内野君も含めてなんか変な人ばっか…



急に大声あげたり

変なあだ名つけたり

弾丸トークしたり


ここには一体…





…-ガラガラ


再び扉が開き一人入ってくる。




辻田君…




「あ…ポチって人!本当に来たの?すごいね!変わってるとかよく周りから言われない?」




あんたらに言われたくない!!




ここには常識人は



いないのかよぉぉ~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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