ポチの本音
「なんで…私は…内野…君…」
ポロポロと涙が止まらなかった。
「私は、内野君に…釣り合うはずがないから…。」
シヅみたいに気が利く美人だったら…
お姉ちゃんみたいに勉強もスポーツも人脈も自慢に持てるものがあったら…
「私は…ダメだから…」
「何がダメって?」
「何やってもダメなの…それは昔から…」
コンプレックスの塊。
中学3年生の時、受験で苦しくて苦しくて仕方なかった。
勉強が辛かったのではない。
お姉ちゃんに追い付けない自分が辛かった。
『あんたは何やってもイマイチね~…お姉ちゃんを見習いなさい。』
母から比べられる毎日。
頭のいいお姉ちゃん。
インターハイに行ったお姉ちゃん。
スタイルのいいお姉ちゃん。
お姉ちゃんは才能がありながら、ちゃんと努力していて
それは近くにいて知っている。
私はただ努力が足りないのだ。
「私がジチシコに入ろうと思ったのは、自分を高めたいと思ったからなの。」
きちんと仕事をこなし、その中で信頼を築き人間関係も上手くやっていけるコミュニケーション力をつけたいと思った。
勉強じゃ敵わない。
運動じゃ敵わない。
最初に入ったソフトテニス部ではお母さんやお姉ちゃんには見返せないと思って、辞めたのだ。
次の部活にこそ、自分の誇りを持とうと決めて。
だからお姉ちゃんがこなさなかった"生徒会"という分野をして、自分に自信をつけようとした。
「でも私はまだジチシコで何も得られてない。そんな私なんかが内野君を好きになったところでシヅに敵うわけがないの…」
可愛いシヅ。
ヘアもメイクも上手なシヅ。
笑顔が自然で『ありがとう』と素直に言える女の子らしいシヅ。
たとえお姉ちゃんに勝ったところで、こうして素敵な人間は溢れている。
私が変わらない限り、新しい【お姉ちゃんの影】に永遠と劣等と嫉妬は繰り返される。
私が変わらない限り意味がない。
私はどんなに頑張ってもダメな人間なのに…。
内野君がシヅを選んで当たり前なのだ。
「素敵な彼女がいる内野君を好きになったって意味ないんだよ…」
でもそれを認めるのが辛くて、好きでいるのをやめるなんて考えたけど…
余計に自分がしんどかった。
結局ジチシコでもうまくいかなかった。
涙が止まらない。
「タマ…」
「…」
「ごめん…」
「…何が?」
「泣いてて…突然こんなこと言われたって…わけわかんないよね?」
するとタマに頭を撫でられた。
…これは慰められているのか?
「なんか…むしろ俺がごめん。俺が泣かせたみたいで…」
「そんなんじゃ……」
「それに泣いてるポチになんて言っていいんかわかんねぇし…」
そう言ってタマは頭を撫で続けてくれる。
優しい手つきで何度も髪をすいてくれる。
がさつにワシャワシャと撫でる不器用なイメージなのに意外だ…
「あー…なんつーか、自分のことをダメとか高めたいのに何も出来てないとか…ポチは自分を
タマが凄く喋っている。
体育祭の頃は意外に感じたソレも、今はそれがタマだと知っている。
『悪かったよ。』
そしてあっさり謝ったり、こうして慰めようとしたり、優しいことも知っている。
タマはなんで私をここに連れてきたのか…
それは…
『ポチの言ってたことは正しかったんだよ。』
きっと、先輩に言われて、落ち込んだ私にこれを言うためだ。
タマが優しいからだ。
「体育祭の時、ポチはジチシコに合ってると思った。ジチシコにポチが必要かもと思った。だから…お前はそのままでも、充分だよ。」
「…いいよ。そんな慰め。」
「そんなことねぇよ。ウチノも多分そう思ってるよ。だから…告白してみろよ?」
「…え?」
「そんな好きなら、辛いんなら、告白した方がいいんじゃねぇか?」
「なんでそうなんの!?そもそもタマは『やめとけ』って言ってたじゃない!!『無謀』だって!!」
「…そうだっけ?」
…こいつ多分本気で忘れてる。
「というか、彼女いる人に告白するわけないじゃない。」
「ふーん…そっか。まぁ俺、ウッチャンに彼女いるの知らなかったしな…。どんな奴?」
「…え?」
…
…
え?
今度こそ『え?』である。
何を言っているのだ?
「ウチノの彼女ってどんなん?同じ学校?」
「いやいや、どんなんも何も…タマが言ったんでしょ?」
「…何が?」
「内野君に彼女いるって…。」
「…言ってねぇよ。」
はああぁぁぁ?
「言ったよ!!」
「言ってねぇって。」
「言ったって!!」
「…いつ?」
とぼけてるわけではなく、本気なの?
でもいくらなんでも言ったことをすぐ忘れるタマといえど、内野君とシヅが付き合ってんのを知らないっておかしくない?
やっぱりタマと喋ってたら訳がわからない。
「夏休み!!みんなでカラオケ行った時に言ってたじゃん!!」
「…言ってねぇよ。」
「いい加減にしてよ!!言ってたって!!」
「あん時は詩鶴の話しだろ?」
「一緒じゃん!!」
「違うだろ。」
「シヅと内野君が付き合ってるんでしょ!?」
「…詩鶴の彼氏は岡崎だろ?」
…
なんだってー!!??
岡崎ってうちのクラスの桜光祭委員の岡崎君!?
声が出ない。
本当に頭の中が大混乱している。
「何を驚いてんだ?そのカラオケの時だってそう言ったじゃねぇか。」
「い…い…言ってないって!!」
「…言ったとか言ってないとか、ポチは訳がわかんねぇな。」
!!!!
タマに言われた!!!
まさかのタマに言われた!!
「絶対"岡崎君"なんて言ってない!!"内野君"って言ったぁ!!だって、だって…」
『でももしかしたら気付いてると思ってた。』
『え!?もしかして知ってる人?』
『あぁ、だって知ってるも何も…ウチノ…奴だろ?』
……
やっぱり岡崎君なんて言われた覚えはないけど…違和感がある。
「…タマって内野君のこと、なんて呼んでたっけ?」
「……"ウッチャン"。」
そうなのだ。
タマは初めて会った時から"ウッチャン"って呼んでいた。
…てことは
『あぁ、だって知ってるも何も…うちの…奴だろ?』
→うちの…クラスの…奴だろ?って意味?
まさかの?
え!?嘘でしょ!?
でも時々…
一人で考えてたらタマは思いついたようにまた喋りだした。
「でも普段は"ウッチャン"だけど、ポチの前だったら"ウチノ"って言うようにしてる。」
「…!!だよね!!そうだよね!?なんで!!??」
「…ポチは"ウッチャン"って呼ばないから、ウッチャンって言ってたらポチは誰のことかわかってないかと…」
「いや、タマじゃないんだから!わかるわ!普通に!!」
こいつはどこまで本気で言っているのだ!?
夜に忍びこんでいるのも忘れて大声を出した。
なんてややこしいことに…てことは何!?
今まで誤解してたってこと!!??
「本当にシヅは内野君と付き合ってないの?」
「…しつこいな。岡崎と付き合ってるって言ってんじゃん。」
びっくりして何も腑に落ちてない。
タマの持ってる懐中電灯が揺れた。
「あ…やべ。」
「…はい?」
途端に懐中電灯を消した。
「え?何何何!?」
「しっ。静かに。」
「へ?…ひゃあ!!」
タマに腕を引っ張られて、しゃがまされた。
「何!?だからどうしたの?」
「静かに…。事務のおっちゃんが外にうろついてるのが見えた。」
「なんで?先生も警備員もいないんじゃなかったの?」
「わかんねぇ。近所の人に校門乗り越えたの見られたのかも。そんで通報されたとか?」
「嘘!?」
「わかんねぇけどな。あ…おっちゃんが向こう行った。今だ!!行くぞ!!」
コソコソと入ってきた窓に近付いて、タマはひらりと外に出た。
タマに続いて外に出た。
まぶしい。
外は日も落ちて、真っ暗のはずなのに目が眩んだ。
「ポチ!走れ!!」
事務の人に見つかる前に、早く学校を出なくては。
でも不思議と恐怖も緊張もない。
走る。
ガシャン!
タマが先に校門に登った。
「ポチ!!」
差し伸ばされるタマの掌。
私は迷うことなく、自然と手を取った。
そのままタマは私を引っ張ってくれ、校門を登るのを手伝ってくれた。
手を繋いだまま、二人一緒に門を飛び降りて、
私達は学校を出た。
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