握手の力
恋人の有無
―――――
「ねぇ…思ったんだけどさぁ、」
「何よ?」
「歩美って彼氏いる?」
漫画を読んでた歩美は顔をあげて目を丸くしている。
「何?いきなり!?あんたが彼氏でも出来たの?」
「いや…そんなんじゃないけど、ふと思っただけ。…で、いるの?」
「いないよ。そもそも好きな人もいないし!!」
そう言って歩美は読んでた漫画に視線を戻した。
穏やかな休み時間。
教室の端でシヅと岡崎君が何かを話しこんでいる。
一見、桜光祭の打ち合わせをしているとも思えるが、真実を聞かされた今は、違うようにも取れる。
『…詩鶴の彼氏は岡崎だろ?』
昨日タマからそう聞いたけど、実はまだシヅ本人に聞けて確認がとれてない。
…というより本人の口から聞いてないプライベートなことを知ってるってなんだか気がひける。
それともう一つ。
内野君と付き合っていると思ってた時から感じたことがあるのだ。
「それに、」
歩美は漫画を読んだまま、急に話しを続けた。
「もし彼氏出来たら、菜月に報告してるよ。普通に。」
「うん。だよね。」
そうなのだ。
友達なら、そのことを話したりするもんじゃないのか。
でもシヅは何も言ってこない。
そこで妙に距離を感じて、余計に聞きづらくなっているのだ。
「私は言えないかもな~…」
そう言ったのは、後ろの席で宿題をしていた咲ちゃんだった。
歩美は漫画を置いて身を乗り出した。
「え?なんでなんで?友達に内緒する気!?」
「いや…じゃなくて、うちらってそんないつも恋バナしないじゃん?」
「…まぁ、そうだね。」
「だからいざって時にちょっと恥ずかしいっていうか、言いづらいっていうか…」
咲ちゃんは照れたような困ったような笑顔をした。
私も歩美のように咲ちゃんの机に身を乗り出した。
「まさか咲ちゃん…彼氏がいるの?」
「え…え…違う違う違う!!!」
「だってさっき言わないって…」
「違うって!!なんて言い出したらいいのかわかんないだけで、黙っておきたいわけじゃないよ!!」
焦って弁解してる咲ちゃんを見てたら、余計に怪しいけど咲ちゃんは嘘はつかないだろうから、本当なんだろう。
「今みたいなキッカケある話があったら、ちゃんと言うよ。」
「え~私なら関係なく言うけどな~。」
歩美は腕を組んで、首を傾げた。
「それはまぁ、性格の違いでしょ?」
そう自分で言ってハッとした。
そういえばシヅと一緒にいる時は内野君とタマも一緒にいるから、そう恋バナをしない。
…そんなもんなのだろうか…。
「菜月も彼氏出来たら報告しろよな~!!」
歩美はそう言って念を押す。
「っていうか、菜月ちゃんは好きな人いないの?」
「…へ?」
大人しい顔して、咲ちゃんも大胆に聞いてくる。
思わず固まる。
そして二人に気付かれないようにタマを盗み見した。
タマは机に突っ伏して寝ている。
『ウッチャンのことが好きなんだろ?』
なんて言えばいいのか迷ってるところに丁度チャイムが鳴った。
「まぁ、またの機会に話そ?」
えへへと笑って誤魔化した。
夏休み明けに席替えをして内野君とは離れてしまった席に着こうとした。
でも内野君がフリーだったってわかったところでどうすればいいの?
告白?
なんかピンと来ない…
『そんな好きなら、辛いんなら、告白した方がいいんじゃねぇか?』
昨日、タマに言われたことを思い出す。
そうなんだけどさ…
告白か…
…ていうか、私だってこうして自分の恋を歩美達にも言えてないのだから、シヅのこと言えないな。
内野君は相変わらず、休み時間ギリギリまでどこかに行っててギリギリで帰ってきた。
シヅも岡崎君と話すのをやめて席に着いた。
二人は昨日のことを特に気にしてる風はない。
それは昨日、家に帰ったあとのお姉ちゃんにも言えること。
何事もなかったように「おかえり」と笑ってくれた。
お姉ちゃんには本当に敵わない。
内野君とシヅが付き合ってなかったとしても、私の中の劣等感がすぐになくなったわけではない。
そんな中で告白をしたって…
私の中で何も解決しない…ような気がする。
無意識に溜め息をつき、先生が来ても眠っているタマの背中を見ていた。
しかし流れる時間はそんな止めどない考え事がまとまるのを待ってはくれなかった。
「ポチ!!」
昼休みにジチシコへ向かう途中で内野君に声かけられたのだ。
「一人なん?タマとは一緒ちゃうん?」
「タマは職員室に行っちゃった。私はジチシコで備品確認しに行くの。」
「そっかぁ。ほな俺も一緒にジチシコに行こうかな。」
そう言って二人並んで歩いた。
てか内野君とのツーショットって久々な気がする。
夏休みからどことなくそれを避けていたのを思い出した。
「どや!!お化け屋敷はおもろなりそうか?」
「…まぁね。当日はなかなかの人気になるんじゃないかな?」
「おぉ~!!自信満々やん?」
しかし話してみると普通に接しれた。
所詮、意識してたのは自分一人だったのだと思った。
「昨日、タマと一緒に回ってみたからね。直々に!!そりゃ自信ありますよ!!」
こうやって軽口もたたける。
それは1学期の時の内野君とのやり取りを思い出す。
内野君とはこんな風にいつまでもいたい…。
しかしふと内野君は間をおいて話した。
「…タマとはうまいこといってるん?」
「…ん?どういうこと?」
「…いや。別に何もないけど。」
「なんもなくないじゃん!!言ってよ!!」
「…なんちゅーか、ポチはさぁ…タマのこと好き…なんかなぁ~って思て。」
「……へ?」
タマといい、内野君といい、すぐ誰かを好きかと聞く。
しかもみんなストレートすぎる。
というか何故そうなる?
ポカンと内野君を見ていたら本人も私の呆然さに気付いたのか、慌てた様子で話しを続けた。
「え、あ…あーと…ごめん!!いきなり変なこと聞いて!!」
「…いや…別にいいけど。」
「なんてか…俺がふと思っただけやから!!あんま深く考えんといて!!」
「う…うん。」
「…」
「…」
「そんでどないなん?」
「え?」
「タマのこと好きなん?」
内野君は何故そんなことを聞くんだろう…
「別に…そんなんじゃ…」
『ポチ!!走れ!!』
『ポチ!!』
『…ポチ!!』
タマの顔が様々に思い返された。
「…そんなんじゃないよ。」
「そっか。ごめんごめん!!」
内野君にそうと勘違いされたことに妙な気持ちになった…と思う。
しかしすぐに、これはチャンスだと思った。
この流れで内野君とシヅが付き合っているのかの確認が取れる。
1学期でも同じチャンスがあって聞けなかったけど、今ならいけそうな気がする!!
「う…内野君!!」
「…ん?」
い…いけー!!
「内野君って彼女ッッ…」
「ポチ~、ウッチャ~ン」
階段を降りながら、タマがこちらに声かけながらやってきた。
…
タマあぁ~!!
タイミング悪~!!!
いや、この場合タイミング悪いのは私か!?
どっちにしても内野君に聞くことが出来なかった。
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