握手の力
「よぉ!!タマ!!お化け屋敷いい感じなんやって?」
「まぁ別に俺らが頑張ってるわけじゃなくて、クラスがすごいだけだから。」
「それもそうやけど、お前らもやって頑張ってんのやろ?」
タマが入ったことにより、話題がそれた。
ジチシコ室も、もう目の前。
チャンスを完全に逃した。
「そういう意味では詩鶴はすげぇよな。自分のクラス担当だから。」
「せやな~。俺らはジチシコ一本に絞れるけど、詩鶴は両方頑張らなあかんからなぁ…」
「…そういや知ってた?」
「何が?」
「詩鶴と岡崎が付き合ってんの。」
「「はあ!?」」
内野君とハモった。
思いの外に知りたかった核心に急に近付いた。
「マジで!?全然知らんかったし!!タマはそれ詩鶴から聞いたん!?」
「いや、俺は岡崎から聞いた…かな?」
「そんなんやぁ!!全然気付かなかった……ってポチ?どないしたん?」
力が抜けた。
両手を膝に着いた。
内野君とシヅは
付き合ってなかった…
簡単なこと。
最初から聞けばよかったのだ。
バンと背中を叩かれた。
タマだ。
しっかりしろってことだろうか。
それに気付いて体を起こした。
「ウッチャンよ、ポチが話したいことがあるって!!」
「はい!!??」
返事をしたのは私だった。
何を突然言い出すのだ?
しかしタマは私達に何も言わず一人でジチシコ室に向かっていった。
内野君も状況がよくわからず、話しがあるらしい私にどういうことなのかと言わんばかりに見つめてくる。
…なにこれ?
一体どういう状況?
私の聞きたかったことをさらりと内野君に聞いたと思えば、私にもわからないことをさらりと言ってどっか行く。
ほんとにタマは厄介な猫だ…。
タマの言葉を思い出す。
『そんな好きなら、辛いんなら、告った方がいいんじゃないか?』
…まさか、今?
今のタイミング?
「ポチ?」
「わっ!!」
内野君がいつの間にか至近距離で私を見ていた。
内野君と一緒にいることを一緒、忘れていた。
「なんなん?話したいことって?」
「えっ!?いや~…」
…告白?
…
…
無理無理無理無理無理!!!!!!!!
私、そんなつもりないし!!
「あは、は!え~っとね?内野君…わ…忘れちゃった?」
「忘れたん?アハハ!!ポチってアホやな~!!」
内野君と一緒に力なく笑った。
「ってかポチは知ってたん?詩鶴が岡崎と付き合ってたの…」
そのまま内野君は話を戻した。
きっと本当に知らなかったのだろう。
「え…えっと。し…知らなかった。」
「やんな!!なんでタマは知っとんねん!!」
その話題に関して昨日まで色々な誤解や嫉妬があったため、思わず嘘を言った。
深い意味はないけど。
そんな風に話す内野君を見て、ふとした疑問を口にした。
「好きってなんだろう?」
「…へ?」
「………は?」
何聞いてんだ!!
あたし!!
「い…いやいやいや!!!シヅの話しで付き合うってなんだろうな~って思って!!!な…なんとなく!!」
「や…やっぱ、お互い好き同士やったらなんちゃうん?」
挙動不審の私を見て、内野君もちょっと引いている。
…恥ずかしい。
顔から湯気が出そう。
「そ…そうだよね。」
「まぁ逆に言えば、付き合いたかったら好きってこととも言えるんちゃう?」
「…え?」
「いや、ポチが好きってなんやろうって言うから…」
「…ごめん、ホントそれ忘れて…。」
恥ずかしさのあまり項垂れた。
でも内野君の言葉が引っ掛かってもう一度聞いてみた。
「付き合いたかったら…って付き合ったら何すんの?」
「…へ?」
マンガとか読んで好き同士が付き合うってなんとなくわかってるし、付き合うのがどんなかわかってるつもりだけど、いざリアルに自分に置き換えて考えると想像できなかった。
「付き合ったら何があんの?」
「何って…」
何故か内野君は顔を赤らめだした。
…なぜ?
内野君はコホンと一度、咳払いをし話しだした。
しかし何故か顔は赤いまま。
「せやな…え~…やっぱ、一緒に遊んだり、手繋いだり、チューしたり……仲良くイチャイチャしたいんちゃう?」
「ふーん、そっか。」
まっ、普通そんなもんか。
私は内野君とそんなんがしたいのか…よくわかんないし、やっぱ想像もつかない。
手繋いで、仲良く…
『ポチ来いよ!』
『警備員のおっちゃんが外に…』
『今だ!走れ!』
ん?
んん?
『ポチ!!』
そういやタマとは昨日、成り行きとはいえ、既に手繋いで走ったな…
別に普通だったな…
むしろ安心したっていうか…
ん?
んん?
私、いまタマと手を繋いで歩くの想像しちゃった!?
おいおいおいおい!!??
「う…内野君、入ろう!!ジチシコ室!!」
「お…おう!」
お互い不慣れな恋バナをするんじゃなかった…
プレハブ小屋に入るとタマ一人だった。
「ん?なんだ、ポチとウッチャンか。話しはもう終わり?」
「タマ、あんたね~?ワケわかんない無茶ブリにも程が…」
そこまで言ってプリントを持つタマの手に目がいった。
…
ドキン
…あれ?
ドキン
ドキン
ドキン
あれ
あれあれ?
心不全が!?
気のせいじゃない?
「ポチ、そういえばさぁ…」
ドキ!!
「な…何よ!?」
「昨日の肉マン。」
「…肉マン?」
「135円な。」
「…金とんのかよ!!!!」
まさか…ね?
…あり得ない。
その手の熱さの
余韻を残したまま
夏が終わり
秋が始まる。
ジチシコで
過去と想いが絡まる
桜光祭の
秋が始まる。
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