ポチの本音
ポチの恋の自覚
お化け屋敷を準備してる校舎まで来た。
頭に血がのぼって、ここまでタマと一緒に来たけど…これはいわゆる不法侵入なんでは?と不安になってきた。
ここに来て冷静さを取り戻した。
「…タマ?」
「ん?」
「今更だけど…まずいんじゃない?警備員とかいるんじゃない?」
「警備員はいない…いないけどちょっと待ってろ。」
タマはそれだけ言うと壁に付いてる箱みたいなのをあけて、いろいろなボタンを押している。
「…何してるの?」
「ん~?今のまま校舎入るとセンサーに引っかかって警備会社に連絡いっちゃうから解除してんの。」
「…解ッッ!?」
なんかスパイ映画みたいなことになってんですけど!!??
「タマそんなこと出来んの?」
「まさか。学校の事務のおっちゃんからパスワード教えてもらっただけ。」
「はぁ?」
なんで教えてもらえるのよ!?
それじゃあ警備の意味ないじゃん!!
タマはそんな私の思考を読みとった様に笑った。
「俺らジチシコだから!」
…こいつ。
ってかそれでさっそく悪用してちゃダメじゃん。
でも珍しいタマの笑った顔を見たら満足に文句も言えなかった。
「よし。解除出来た。入んぞ。」
「…てか解除出来ても鍵閉まってんじゃない?」
「今日、ここの窓の鍵開けといたから。」
…とことん抜かりねぇ!!!
「今日って今日の学校の放課後で開けたの?」
「そう。」
「ちょっと…いつからこの侵入企んでたのよ!!」
ニヤニヤしていたタマはスッと真顔に戻る。
暗い中、タマを月明かりが照らす。
「ポチが今日帰ってから。」
…侵入ではない。
タマは何か別のことを企んでる。
何を?
カラカラカラー…と窓を開けてヘリにタマは足をかけた。
「さっ、入るぞ。」
「えぇ!?マジ!!??」
タマは身軽に教室に入っていった。
「ちょっと…」
暗い学校に一人残される状況に背筋に寒いものを感じて、仕方なしに私もタマの後に続いた。
窓から入ると当たり前だが、もう教室だった。
お化け屋敷の準備で、机が周りにたくさん積み重なっている。
「タ…タマ?」
「いるよ。」
暗闇の中で思いの外、近くにいてギョッとした。
そして用意周到のタマはちゃんと懐中電灯をちゃんと持って来ている。
電気の付いてない教室を懐中電灯でグルリと照らす。
「すげぇな。もう大体出来てんじゃねぇ?ちゃんと迷路になってんな…」
確かに。
本番も明かり無しでこんな感じで懐中電灯一本で進むんだろうから、すでにその雰囲気は完成しつつある。
思わず「わぁ…」と声が洩れる。
「ポチ、少し進んでみよ。」
「うん。」
積み上げられてる机や椅子。
それを段ボールで包まれている。
迫力ある。
完成したら当日はもっと面白いんじゃないだろうか。
本番を想像してドキドキしてたら…
「ぎゃあ!!」
コケた。
「…痛ったあぁ…」
「ポチ平気か?」
「まぁ…暗いから段差に気づかなかっただけ…大丈夫!!ごめんごめん。」
恥ずかしい…
暗いから顔は見られないからよかったと思った。
タマに懐中電灯で照らされる。
そして私の手を取り、立たせてくれた。
「…ありがとう。」
「ん。ここってポチが今日言ってたとこじゃない?」
「…え?今日言ったとこ…って……あ!」
『これ、無理なんで別の方法に変えてください。』
『決まりは決まりなんで。』
『先輩とはいえ、あのやり方は当日が危ないから…』
ここだっけ…
「さらにここで下から驚かすんだっけ?確かに危ないな。」
「あ…でも…コケたのは、私の不注意だし…」
『あれ…ジコチュー部。』
『キモいよね~』
『何が“規則ですから”よ!!』
今日の先輩達の言葉が頭の中で反芻される。
「本番もこんぐらい暗いんだから、危ないだろ。ポチの言ってたことは正しかったんだよ。」
だからって私はジチシコの皆みたいに何か言われたって受け流せるほど強くない。
それに…
「正しかったとしても…もっと言い方って…あったよ…」
「…」
「ってタマも言ってたじゃない。」
そうだよ…
私なんて…
「私は…こういうの向いてないね。ハハハ。」
お姉ちゃんみたいに上手く出来ない。
昔からそうだ。
何やってもダメなんだ。
暗い教室でタマがどんな風に聞いてんのかわかんない。
これ以上考えてたら、どんどんネガティブになるのがわかったから、慌てて話を続けた。
「まっ、先輩達には私から明日フォローするよ!!夜遅くなる前にもっと見てこうよ!!タマ!!先の道、照らしてよ!!」
「ポチ、なんか焦ってんの?」
「…はい?」
「早口になってる。」
「…」
「ポチはジチシコやめんの?」
え?
「…なんでそんなこと思ったの?やめない…よ。」
「ポチ元気ないから。」
元気?
私ちゃんと笑ってた…よね?
暗闇の中、俯いてる私にタマは続ける。
「やめない?」
「…うん。やめない…」
もう途中で止めることを許してはダメだ。
「なぁポチ?」
「…ん?」
「なんでジチシコに入ろうと思ったんだ?」
校門で聞かれたことと同じことをタマがもう一度問う。
「…それは…」
「ウッチャンがいたから?」
「…え?」
「…ウチノがいたからジチシコに入ったのか?」
顔を上げた。
顔があつい。
内野という言葉に反応して火照ったのか、そんな風に思われて少し憤りを感じたせいか…顔が赤くなるのがわかった。
「ばばッッ…!!!バカ!!違うわよ!!!」
「違うのか?」
「違うわよ!!!内野君がいなくたって入ってたわよ!!!てか内野君がいるいないに関係なく、普通だったらこんな部活入りたくないわよ!!自分勝手な人ばっかだし、変人だし、ダサいし、しんどいし、周りの評判最悪だし…」
そうだ…そんなこと、体育祭の時からわかっていた。
それでも入ると決めた。
内野君を決め手になんかしなかった。
でも…
でも…
「そもそも私は内野君のことなんかッッ……!!!」
『ポチは女の子やから…』
『ありがとう。ほんまに何味でもえぇから。』
『行くで!!ポチ!!特等席までつれてったるわ!!』
「ーッッ!!!」
それでも
私は確かに
内野君が
好きだった。
気付けば涙が頬をつたった。
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