あつい

あつい


体育祭当日。



放課後のHRどころか、朝のHRにすら現れなかった。


それは誰なのかなんていうまでもなく、あのだ。



だがクラスに3人もいるからか、3人が独特のせいか、決して地味シコではなくなっている。


…悪い意味で。



今朝のHRが終わったらトイレに入ってチームユニフォームに着替えた。

各チームカラーで揃えた手作りのTシャツ。



歩美はウォーミングアップとか言ってさっさと行ってしまったので

咲ちゃんと一緒にチームの応援席へと移動した。



今日は見事な快晴で、体育祭日和。


昨日の予行演習後に全校生徒の準備で立てたテントにすぐに入る。


暑くてたまらないのだ。


テントの中で同じチームの人たちが始まる前から、写真撮ったり寄せ書きしたりと、すでにテンション高い!!


その気持ちが伝染したかのように、私も咲ちゃんもワクワクした。



高校生初めての体育祭が始まるのだ。



開会宣言を終え、次々に始まる競技で盛り上がっていく。


あんなに忙しく準備したのに今が本番という実感が何一つない。


ただ唸りをあげるグランド全体にワクワクとした。



私が出る競技も近付いてきたのでそんなフワフワとした楽しい気分で咲ちゃんと一緒に入場門まで歩いた。



「なんか楽しいね!!」



思ったことをそのまま口にした。



「だね!!体育祭始まったぁって感じだね♪」


「そぉ?私は逆に実感ない!」


「まぁ菜月ちゃんは準備多かったからね。」



なるほど…


そういうもんなのかな。


咲ちゃんの言葉に納得して、一週間の自分の頑張りを振り返り、一人満足した。



「帰宅部でしたから!」



咲ちゃんに自己満を報告することもないので、ただそう言った。



「そういや結局どこに入部すんの?内野君のとこ?」


「あぁ。あそこは…」



やめた。と続くはずの言葉は大きな声で掻き消された。



「棒引きに参加の人はこちらに並んでくださーい!!!チーム順に並んでくださーい!!!」



メガホンで大声を出す内野君の呼び掛け。



咲ちゃんもそれに気付いたみたいで内野君をさした。



「内野君いるよ!!やっぱジチシコで忙しかったんだね!」



彼は始まったばかりなのに、頭にタオルを巻いて汗だくである。



咲ちゃんが言ったことに「ホントだ。」と相槌をうち、内野君のいるところまで近づく。



席が前後なのに全然クラスに帰ってこないので、なんだかすごく久々だ。



内野君も近づく私らに気付いた。



「よぉ!!ポチ!」



ニカッと笑って声をかけてくれた。


タオル巻いて、袖を肩まで捲り、汗かく姿は、むしろ何故か爽やかを倍増させる。



「よっ!」



片手を挙げて挨拶をかえす。


久しぶりのせいか、いつもと違う格好のせいか、なんかカッコ良く見える…かも…



って内野君相手に何ときめいてんだ!!!!



一人突っ込みも無視して内野君との会話を続けようとした。



「内野君そういえば今朝、教室来なかっ―――」


「ごめんな!!今、忙しいから!」



笑顔の内野君はすぐさま振り返り「ハードル走の方はあちらへ!!」とか「並べた方から座ってくださ~い!!数えま~す!!」とメガホンで叫んでいる。



本当に忙しそう…


さっきまでのフワフワとしたウキウキ感が消えた。



同じように忙しく準備をしたつもりだったけど、ジチシコは当日までもが大変そう。



見学をして、知ったつもりでいても、なんとなくしかわかってなかった。


わかってなくて安易に声をかけてしまった申し訳なさもだけど、話を切られて視線を外されたのが少しショックだった。


わざとじゃなくて、しょうがないことなのに何故か悲しくなってしまった。



あまりにしゃべる隙間もないので、内野君にごめんも言えずに彼の背中を見ていたけど、我に返って参加の競技の列に行こうとした。


咲ちゃんに「行こうか…」と言ったら内野君がこっちに向き直った。



ポン



内野君の大きな手が頭にのっている。


!!!!!!



「マジごめん、あとで!!今日昼休み空けといて♪メールする!」



お得意の人懐っこい笑顔でわしゃわしゃっと頭を撫でられた。



え?


えぇ??



混乱して何されたか理解する前に内野君の手がスッと離れた。



それと同時に入場門へと進みながら「ハードル走の方は前の人に続いて行ってくださ~い!!」とメガホンで叫んで行ってしまった。



日差しが…暑い


とても


…熱い…



「菜月ちゃんと内野君って仲良いよね。」


「へ…ふぇ!!?」



咲ちゃんにニコニコしながら変なことを言うから、変な返しをしてしまった。



「そ…んなことないし!!」


「ん?そぉ?」


「うん!」



そうだよ…きっと



動揺してしまった自分を誤魔化した。

満更でもない自分も一緒に。



「そっか~」と呟いた咲ちゃんはレースが私より先なので少し前を座り、私は咲ちゃんと離れて後ろのレースの位置についた。



次の競技まで体育座りでぼんやりと待った。


よく見たら入場門近くに内野君だけでなく、梶原先輩もいた。


内野君と同じで、忙しそうに教育実習生達に指示している。


詩鶴ちゃんも辻田君もどこかで忙しそうにしているのだろうか。



なんかジチシコ…

思ってたのと…



違う…



生徒会の仕事のイメージから離れてないし、内野君が言ってた説明通りっぽいけど…


何が違うんだろう?



「次の競技の方は立って!!前の人に続いてくださーい!!」



この違和感が何のかわからないまま、内野君の指示に従った。



◇◇◇◇◇



「やっぱ午後からが本番でしょ!!!これからだよ!盛り上がりは!!」



午前の部も終わって、お昼を教室で食べている時だった。


おにぎりにかぶり付きながら、歩美は威勢良く言った。


それに私も同意した。



「だよね!私、先輩らのダンス見んの楽しみ♪」


「待て待て待て!!菜月!それより私のリレーの応援でしょ!!まず!!」


「別に歩美は応援しなくても大丈夫でしょ?」


「そーゆー問題じゃないじゃん!?お前なんか友達じゃねー!!!」



私はケラケラ笑い、咲ちゃんもおかしそうにクスクス笑っていると私のスマホが鳴りだす。



「え?」



ホントに内野君からメールが来た。



「食堂ヨコの自販機にいる!待ってんで~(^皿^)/」


―――



これは来いってこと?



歩美たちにそれを告げて、食堂へ向かうことにした。


行く前に二人にニヤニヤされながら「いってらっしゃい」と言われた。


二人は何を考えてんだか…



言われたところに着くと、自販機にもたれてスマホをいじってる内野君を見つけた。



「内野君、お疲れ。」


「ん?おぉ!ポチもお疲れ!!」



私に気付いたらスマホをポケットに入れて、自販機に向かい直った。



「おし!ポチもなんか飲む?おごんで?」


「ぇ!?いや、いいよ。…で!何?」


「…?何て…ポチが用あるんとちゃうん?」



内野君はこっちを見ずに小銭をカシャンカシャンと入れながら言った。



「入場門でなんか言いかけてたやん?お昼はすることないから、今なら平気やで♪何?」


「へ!?いや…どーでもいいことだったから別によかったのに…」


「そうなん?」


「うん。今朝のHRの時には教室いなかったねってだけ。ホントそれだけ。」


「お?マジ?」


「あー…むしろごめん。忙しかったのにわざわざ…」



ジュースパックを二つ取りだし、一つを私に渡した。



「え、内野君の奢りは本当にいらないって!大丈夫だから」


「まぁまぁまぁ」


「…ありがとう」


「どういたしまして♪」



申し訳ない上に、奢らせてしまった…。



「ま、えぇやん!最近なかなか会わんかったしなぁ。寂しかった?」



悪戯っぽくニヤっとこちらを見た。



「何言ってんの!んなわけないじゃん!!」



内野君を睨みながらストローをさした。



「え~?冷た~!!俺は寂しかったで?」



アハハと笑いながら内野君もストローをさした。


それを聞いて動きを止めてしまった。


ちょ…


今サラッとなんか言われましたけど…



『俺は寂しかったで?』


いつもならドン引きなこのジョークも、今日はなんだか動悸がおかしい。



私おかしい。


顔が熱い。



さっき内野君に撫でられたところが特に熱い。


あんなんで意識するとか免疫なさすぎるぞ!自分!!



いつもなら「バカじゃない?」と言われるであろう返事がなかなか来なくて、となりも心なしか戸惑ってしまっている。



「え?え?…あー…このあとダンス楽しみやな?」


「う…うん。そだね。」



二人とも気まずくジュースを飲むだけ。

なんだかジュースが酸っぱく感じる…



「そういやクラブは?最初の陸部に入ったん?」



ジチシコ断った手前、余計気まずい話題だよ!


気にしてないのか、テンパりすぎたのか、内野君の話のチョイスミス具合に思わず笑ってしまった。



「ハハ、まだ帰宅部!ずっと体育祭の準備手伝ってた。」


「お?何がおかしいん?」


「ふふ…べっつに~」


「ちょ~!なんやねん!!言えや~!!」



二人の笑い声が響く。

お互い笑ってたら内野君のスマホが鳴りだした。


どうやら電話のようで「ちょっと待ってな」と言ってから電話に出た。


内野君の話が終わるのを待った。


ジュースが冷たくておいしい。



電話切って内野君は焦った様子でこっちを見た。



「やばい!!ポチ!昼休み終わってた!!!」


「え!!?嘘!!?」


「ほんま!!今タマから連絡あって怒られた!!」



怒られたっていうわりに内野君は笑っている。


つられて一緒に笑う。



「行くで!!ポチ!!応援ダンスが始まってんで!!特等席まで連れてったるわ!!」



内野君に手を取られて走り出す。


引っ張られながら彼の背中を見つめてた。


そして視線を繋がれた手に落とす。



熱くなるところがまたひとつ増えしまった。

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