知らない
知らないタマ
二人のキスを覗いて…何やってんの?私…
でもそこから動けない。
だってシヅは岡崎君と別れて…
タマは…
タマは顔を真っ赤にしている。
それを見て、前から思っていたことが確信へと変わった。
タマはもしかしたら…シヅのことが好きなのかも。
そんな二人がキスをしていて…
暗幕を取りに行かないといけないが、今はとてもそんな二人をそばを通ってジチシコ室に行けない。
もう少ししてからジチシコ室に行こう!!
ちょっと自分の考えも、落ち着かせたい。
今はまだ…
「きゃっ!!」
「わあ!!」
「すみません、急いでて。」
ぶつかった人は尻餅ついた私の手を取り、起こしてくれた。
見ると爽やかな感じの男の人だった。
上靴の色を見ると…先輩?
先輩はニコッと笑った。
「こちらこそごめんね。まさかこの通りを使う人がいるとは思わなくて…」
「い…いえ、私もジチシコ以外で通ることはないんで…」
「…あれ?」
「…え?」
先輩は目線を私に合わせて繁々と見てきた。
「もしかして…志方君達が言ってた子って…君?」
「…へ?」
「えーっと…ワンちゃん?コロちゃん?」
「……ポチです。」
自分であだ名を紹介するってのもなんだかマヌケかも…
いや、マヌケなのは紹介じゃなくてあだ名自身か…
てか誰?
この人?
あ…でも志方先輩を知ってるってことは、もしかして…
「はじめまして。話には聞いてるよ、ポチちゃん。二年の前島辰夫です。よろしくね。」
あ!!
この人が前島…さん?
「は…はじめまして!!乾菜月です。」
「はじめまして。ポチちゃんは今回…なんだっけ?お化け屋敷担当?」
「え…はい!!」
「そっかぁ。頑張ってる?明日本番だけど!!」
「は、はい!!えっと…前島先輩は、今回どこの担当ですか?」
「ん?僕は模擬店担当。そうそう!!富永さん見なかった?」
「シヅ…ですか?」
いきなりの対面にビックリしたから、忘れてたけど…
向こうにシヅ達いるんだった!!
しかも前島先輩が探してた?
…あ!!シヅも模擬店担当なんだから当たり前か!!
でもだからって、シヅの居場所言えない!!
だってなんて言うの!?
シヅいますよ!!
そこのジチシコ室前でタマとキスしてます
…って?
無理無理無理!!
言えないし!!
返事に困ってまごまごしていたら、前島先輩はニッコリと笑った。
「別にわからないならいいよ。ありがとう。僕、ジチシコ室でノコギリ取りに行くね?」
じゃあねと爽やかに通りすぎて校舎裏を前島先輩は抜けた。
って、そっち行ったらダメだって!!
そう思ったところで手遅れだった。
「あれ、富永さんいたよ!!富永さーん?」
前島先輩は先々と歩いていってしまった。
ちょっ!!
ダメですって!!
だって二人はさっきまで…キ、キスをしていて…
「ほら、ポチちゃん。富永さんいたよ!!行くよ?」
ええええええぇぇ!!!???
先輩は笑顔で私の手を引いた。
この人、もしかして天然で空気読めないタイプ?
しまった…
爽やかな笑顔に騙された!!
改めて、この人は志方先輩やかじやん先輩と一緒にやってきたジチシコの人なんだなって思った。
そんなこと思っているうちにシヅとタマの前に出てしまった。
シヅは私を見て、笑顔になった。
「あ!!菜月ちゃん!!ごめんね?なんか心配かけたみたいで!!」
あれ?
なんか予想と違った反応が…
「別にたいしたことじゃないからね!!」
そして思わずシヅの口元を見てしまった。
って変態か!!私は!!
「…菜月ちゃん?」
「え?あ…うん、うん!!よかった!!」
私の返事にふふと微笑んだシヅ。
そしてその隣で無表情なタマ。
前島先輩がシヅに向かって仕事の話を続けた。
「じゃあ富永さん、あと2ー7と3ー2の分もお願いね?」
「はい!!わかりました!!」
シヅはあっさりとその場を離れた。
「じゃあ二人とも!!残りの準備も頑張ろうね!!志方君見つけたら、前島は2ー7に行ってるって言っといて?」
前島先輩も忙しそうにジチシコ室にノコギリを取りに行った。
呆然とした。
何?
今までのはなんかの幻?
ポカンとしたままタマに目を向けると、タマもぼんやりしている。
でもタマはいつもぼんやりしてるからいつも通りだ。
いつも通りすぎて沈黙が走る。
「えっと、あ!お化け屋敷は今のとこどっちも順調!!1年のとこに暗幕追加ってぐらいかな…タマは?その…えと…シヅ、大丈夫…だった?」
おかしくないだろうか?
白々しくないだろうか?
いつものくせで早口になっちゃった…
…
…あれ?
反応がない?
タマの顔を見ようとしたら、タマはあからさまに顔を背けた。
「じゃあ暗幕…取りに行くか…」
いつも通りじゃなかった。
タマも様子が変…
なんか動揺してる。
やっぱり二人がキスしてたのは…見間違いじゃなかったんだ。
胸の奥がズキンといたんだ。
暗幕を取りに行く間、お互い静かだった。
タマと二人の時はそんなに騒ぐわけでもないが、気持ちの問題だろうか?
気まずく感じた。
その沈黙は一瞬にして断たれた。
スマホの着信音。
思わずビビった私と違って、タマは鳴っている自分のスマホを取りだしてボタンを押した。
電話のようだ。
「…あぁ、何?………え?」
それはクラスの女子とシヅが揉めているというクラスの男子からのSOSの電話だった。
私達が行う喫茶店の教室へと走った。
扉を開けたら人だかりが出来ていた。
「シヅ!?」
怒鳴り声、激しい言い合いが聞こえる。
クラスメイトが輪となって壁を作っていて、様子がわからない。
「ごめん!!ちょっとどいて?ごめん!!あけてあけて!!!」
必死で人だかりを掻き分けた。
「悪い、どけ。」
タマも割り込もうとしてる。
「大体アンタが調子乗ってるからでしょ!?」
「ほんと言い掛かり。」
「はあ?マジムカつく!!黙れよ!!アンタが岡崎君とッッー」
やっと言い合いの内容が聞こえてきた。
最後の人の壁を私もタマも抜けた。
「シヅ!!??」
抜けたその先には、三人の女子とシヅが向かい合っていた。
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