吊り橋効果2
私は岡崎君に喰い気味で聞き出そうとした。
「いつ!?何で!?」
「き…昨日。」
「昨日!!??めちゃくちゃ最近じゃん!!!」
「ま…まぁ。」
「なんでよ!?まさかフッたの!?そんでシヅは傷付いて気まずくて…あんたシヅの何が不満って…」
物理室でギャーギャー騒ぐ私を後ろから抱えるようにタマに手で口を押さえられた。
「ポチ。わかったから落ち着け。」
…う。
その…手を使って黙らすのは…反則じゃないか?
ほのかに赤くなる顔と少し速くなる動悸はタマがいきなり頭を抱えてきたせいだ。
びっくりしただけ!!
吊り橋効果ぁ~!!
自分に暗示をかけてる間にタマが話しを続けた。
「詩鶴はじゃあクラスには寄ってないってことか?」
岡崎君は頷きながら溜め息をついた。
「多分…でもここだけの話、フラれたのはこっちでさ…」
「「え?」」
「フラれて気まずいんはこっちの方なのに…俺はそんなに嫌われたんだろうか…」
温厚なイメージのシヅがフる?
しかし今はそれよりも口を抑えらえているタマの手に気を取られていた。
力なくペチペチとタマの手の甲を叩けば「…あぁ、悪い。」と離してくれた。
…でも少し名残惜しいような…
って、今はそんな場合じゃない!!
「…ポチ、そろそろお化け屋敷に戻るか。」
「…はい?」
反論しようとしたら、タマに無理やり背中を押された。
「ちょっと!!!タマ!?」
「そういうわけで岡崎、悪いけど俺らジチシコに行くわ。」
「おぅ。お疲れさん。」
「詩鶴見つけたらこっち来るよう言っとく。」
シヅのことが何も解決していないから、がんとして動かないつもりで足を踏ん張らせて、粘った。
それをタマが私の腕を掴んで引きずる。
「……ポチ」
「うぎぎぎ…」
「早く行くぞって。」
「だあってーぇー。」
「動かないなら担いでいくぞ?」
「ふぇ?だッッ!!!ストップ!!!わかった!!!歩く!!!自分で歩くから触らないで!!!」
「…なんだそれ。」
だってタマの手で担がれるとかマジで反則なんだって…
そんな私の葛藤に気付くわけなくタマは進んでいく。
「てか!!シヅがどっか行ったかもしんないのに、なんであんたはシレッと仕事出来んのよ!!」
「…違うっての。岡崎の前で詩鶴に電話できねぇだろ。」
タマはさっそく電話をかけはじめた。
なんか…普通になるほど。
タマって結構、頭いいのかも。
「でもさ…出るかな?」
「俺らまで避ける意味ねぇだろ?あ…もしもし詩鶴。」
電話出たの!!??
ジチシコの仕事もせず、クラスの手伝いもせずにどこにいたんだろ?
「うん…いや、どこにいるのかと思って……うん。…なんで?…………何が?……今からそこ行くから待ってろ。」
タマの会話でなんだか不安になってきて、電話を切った時にはおろおろした。
「シヅなんて?てかどこいたの?なんて?」
「…なんつーか、やっぱ様子変みたいだから行ってくる。」
「ど…どこに?」
「ジチシコ室。」
「私も…」
「ポチは悪いけど、お化け屋敷の方行ってほしい。」
「え?何言ってんの!?私だって心配だよ!?」
「うん。気持ちわかるけど、二人抜けるとお化け屋敷担当、誰もいなくなるだろ?そしたら困るし。ガムテープと机のチェックしてほしい。」
こんな時でも冷静で"ジチシコ"なタマが少し嫌だ。
「…何があったかは後でちゃんと言う。」
でもそう言って頭を撫でられたから、何も言えなくなった。
「わかった…こっちは任せて。でも仕事終わらせて私もすぐ行くから!!」
「ん。じゃあ後で。」
タマは少し手を上げて行ってしまった。
私もシヅが心配だからこそきちんと仕事をして、急いでシヅの元へ行こう。
正直シヅから何も恋バナを聞かされてないから、そんな私が出来ることがなんなのかわかんないけど…
まず一年のお化け屋敷へと顔を出す。
組み立ての途中で暗幕が一枚破れてしまったそうだ。
あとで予備の暗幕を持っていくと実行委員に告げて、続いて二年生のお化け屋敷へ。
…正直、私がいる時にはっきりと『地味シコ』『自己チュー部』と言われたクラスだから行きづらい。
今までの準備や打ち合わせの時はタマと一緒だったから、まだよかったものの…
一人であの先輩のところに行きたくないな…
でもそんなことも言ってられないから、足取り重く二年生のところへ行った。
お化け屋敷に使う教室の入り口で遠慮がちに顔を出した。
「こ…こんにちは。えっと桜光祭実行委員の人…いますか?」
入り口にいた先輩から適当に挨拶をして、実行委員の2人を呼んでもらった。
うぅ…緊張…
先輩の一人がこっちに来た。
「はい。何か?」
「あの、見回りに来ました!!準備は順調ですか、何か困ったこととかないですか、あと何か足りないものもありませんか。」
緊張のあまりやや早口になった。
言葉が業務的すぎたかな…
思わず先輩の目を見れず、視線を下げていった。
「今のとこは大丈夫。途中、机が崩れたりもしたけど…まぁ間に合うわ。……あの、」
先輩が珍しく言い淀んだので不思議に感じた。
「ありがとう。あの案…受けてくれて…」
顔を上げた。
先輩の言う案は真下からも驚かすという斬新なものだったが、そのための段差が非常に危険だから始めは却下していた。
そのせいというのもなんだが、先輩から悪口を言われて私の中で嫌な想いをめぐらせたりした。
でもタマと夜の学校に忍びこんだ次の日、考えた。
私は何故ジチシコに入ったか…
お姉ちゃんに負けたくないからってのも始めたキッカケだけど、ホントの最初は…
体育祭での指輪が消えたあのとき。
私も誰かのためにって思った。
ジチシコってすごいって思った。
だから先輩達のために出来ることはないかって考え直した。
だから段差をスロープにすることと足元照明の強化という妥協案を先輩達に提案したのだ。
「まぁ…色々あったけど、絶対成功させるね。」
先輩はそう言ってニコッと笑った。
先輩に…ありがとうって…言ってもらえた?
…
嬉しい!!!
「は…はい!!!頑張って明日成功させましょう!!」
失礼しますと頭を下げてから教室を出た。
嬉しい!!!
案を考えてよかった!!
今すぐにでもタマにも言いたい!!
すごく言いたい!!
あ…でもその前に一年生のとこの暗幕を取りにいかなきゃ…
急いでジチシコ室に足を向けた。
桜光祭の準備で廊下が人で溢れ、道具とかも広がっているのでいつもと違う道を通ってジチシコ室に行った。
校舎裏を通って抜けたらジチシコ室が見える。
しかしその前に違うものが目に入った。
タマとシヅがジチシコ室前で立って話しているのだ。
そうだった。
タマはシヅがいるジチシコ室に行ってたんだ…
…シヅは大丈夫なんだろうか?
でもこんな途中から入っていいのかわからず、思わず校舎の陰に隠れた。
何の話かわからないし…
もし岡崎君と別れたことなら、そんな繊細な問題…余計にタイミングを考えなきゃなんない。
それにシヅが付き合ってたなんて私は知らないことになってるし、どうしたらいいかわからないし…
二人の様子は見えるが何を話してるかは聞こえない。
…てか、空気読めず入っていくより、こうして隠れて覗きみたいなことしてるのが問題!!??
それに気付いて一人でワタワタしていたら、シヅはタマの首に抱き着いた。
…え?
自分の喉が鳴るのを感じた。
まるでドラマのスローモーションかのように…
シヅはそっとタマに口付けた。
ドクン…
ドクン…
何が…起こってる?
ドクン…
ドクン…
二人の口が離れた。
こっから見ても…タマの顔が真っ赤だ。
そんなタマなんて…見たことない…
ドクン…
ドクン…
何?この変な心音。
これも人のキスシーンを見てしまった…というシチュエーションによる…驚き?
そんな吊り橋効果みたいなもんだとしても
何故か私は泣きそうになった。
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