説明と拒絶と

説明と拒絶と


「ない!?」


「せや!」


「役員選挙が!?」


「そぉそぉ」


「なんで!?」


「てか俺らが入学してから役員選挙なんてもん、しぃひんかったやろ?」


「…そうだっけ?」



にやっと笑って誤魔化してみる。


ジチシコについての講師を志方先輩から内野君にチェンジして再びジチシコ説明会が開始された。



先輩達は忙しそうにどこかへ行ってしまい、私の隣りに内野君が座り、向かいには辻田君がパソコンを使ってる。



「じゃぁ改めてもっかい聞くけど我が校のモットーは?」


「…自主自律?」


「そう!せやから先生じゃなくこの学校は生徒の自主制を尊重してほぼ生徒が運営してんねん。テスト以外は大体ね。文字通り“自ら治めて執行する”ってこと♪」


「でも生徒会ってそんなもんじゃない?私の出身中学とかもそんなんだよ?」


「いや…他の生徒会と比べられんほど先生なんもせぇへんで?一応顧問おんねんけど…」


「ふーん…」


「決定的に違うんはジチシコは入って運営すんのも自主的なん!」


「…ん?」


「つまりクラスから絶対代表とか決めて、生徒会人数が何人までとかも決まっててとかじゃなくて自由やねん!」


「……ん~?」


「あ~…まだわかりづらい?」


「ちょっと…」


「まぁ委員会じゃなくて部活ってこと!だから選挙なし!!適当にその年に自主的に集まった人の中から、書記とか会計とか決めんねん!」


「え!適当すぎない!?」


「せやけど他の部もそんな感じちゃう?入って、あとから部長決めるやん。」



ニコっと笑って内野君は立ち上がった。


大丈夫なのか!?

この学校は!?

生徒のための自治がこんな軽い感じで決まんの?

自主自律の問題か?


内野君はホワイトボードまで近づいてコンコンとノックをした。


そこには名前が書き並ばれている。



「で!!テスト明けの体育祭に向けて今むっちゃ忙しいねん。」



ホワイトボードにそれぞれ体育祭での係とその隣に名前が書かれている。


その上に体育祭実行委員と記されている。


…?



「…あれ?ジチシコじゃないの?体育祭実行委員って名前になってるけど」


「あ~…一応ジチシコから委員会発足させんねんけど、自主自律で各自に有志募っても誰も来んからほぼジチシコで兼任~。てかかなり前のHRの時に配った募集の紙知らん?」


「…覚えてない」



再びニヤっと笑って誤魔化した。


やっぱあんまり意味がわかんないけど大変そうってことはわかった。



「まぁこんな感じでむっちゃ人手足らんねん!!やからポチお願い!!ジチシコに入って!!」



両手を合わせて内野君はギュッと目を瞑ってる。


なんだか断りづらい空気…


でもこの人間関係の中をやってく自信ない。


部屋汚いし未だにいまいちジチシコもわかんないし…


今日は見学だけって言ってたし…



「ん…ごめん…もうちょっと考えさせて?」



私は保留にした。


内野君は寂しそうに笑っていた。



「ぁ~…やんな!存在すらも今日知ったわけやし、すぐには決まらんよな!ごめんな。」


「うぅん!こっちこそごめん!!出来たら近いうちに決めるね!今日はもう帰るよ。」



内野君の反応にホッとして調子良い返事をして帰ろうとした。


カバンを持って立ち上がった。



「ん!今日はありがと!!」


「じゃあね~!!」



ガラガラと扉を開けてジチシコ小屋を出た。


見慣れない中庭を横切り校門へ向かった。


そういや最後まで詩鶴ちゃんは帰ってこなかったな…



「ポチ。」





――ドキッッ!!!!



振り返ると辻田君がいた。



「…―ビックリしたぁ!!辻田君も帰るの?」



切れ長の茶色い瞳が私を見つめたまま、隣まで歩いてきて、流し目された。



「別に…職員室に用があるから。」



この人ってほんと笑わないな…

でも思ってたよりもよくしゃべる。



「ポチはジチシコに入んの?」



ポチが定着しちゃってる…

もういいけどね!!



「え…あー…考え中?」


「どっちかっていうと?」


「え…?」


「入んのやだ?めんどくさい?」



予想外の切り返しの速さに驚いた。



「めんどくさいってことはないよ!!ただ自信ないっていうか…だから…」


「だから?」


「…もしかして……入んないかも…」


「……ふーん…」



こんなに食い付かれるとは思わなかった。


辻田君に「やだ?」と聞かれて思わず否定しながらも本心を話してしまった。


そしたら急にリアクションが薄くなったので焦った。



「え…あの…どうしても人手足りなくて必要なら考えるけど、多分私には無理だよ!!でも協力はしたい気持ちは本当で…」


「あのさ!!」



話しを遮られた。


急にこっちを向いて近づいてくる。


思わず後退った私は中庭の校舎側に追いやられ辻田君は両手を壁についた。


辻田君の体に覆われて逃げられなくなり校舎にもたれて淡く鋭い目がとても近かった。



「あのさ!あんたはなに?どうしたいの?」


「…え?」


「正直今すぐ決めてほしいんだよね?」


「…何を?」


「ジチシコ!」



腰を曲げて目線を同じくらいにされる。


顔の近さに男の子に対する免疫の薄い私はドキドキする。



「人手足りないのは本当だから入ってくれんなら構わないけどさ、そんな曖昧ならやめてくれる?」


「え?」


「ジチシコはテスト中は部活と一緒で活動できないから今入んなかったらテスト明けに入ることになるだろ?」


「はぁ…」


「そんな体育祭二週間前とかに新しい子入られたらイチからまたいろいろ教えないといけない。すげぇ忙しいのに…」


「…」


「今日だって志方先輩も総務雑務で忙しいのにあんたに対する説明に時間費やした。ウッチャンも一緒!」





「だから今、曖昧にして後からテスト明けに入られても困る。今決めらんないなら逆に迷惑だね!」



ドキドキしてうるさかったはずなのに体が冷えるように心音が静かになった。


近さに慣れたのではなく血の気が引いて息をのんでるのが自分でもわかる。



何も言い返せずにいたら辻田君もスッと体を離した。



「そういうわけだから。」



それだけ言ってその場から動けない私を構わず残して、辻田君は去っていった。

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