スキ
スキ
「お化け屋敷担当を押し付けられたのは、タマが悪いんだからね!!」
「でも決定権は俺には無かったわけだから責任はないし。」
タマと口喧嘩をしつつ、視聴覚室の片付けも終わったので、4人でジチシコ室に戻った。
そこは陽当たりが悪い上に風通しも悪いので、ギンギンな夏の暑さはないものの、ムワッとした嫌~な暑さに覆われている。
唯一ジチシコ室で置かれている冷房機器は何処からか拾ったのであろう扇風機1台。
それで無理矢理に暑さを凌ぐしかない。
余ったプリントを団扇がわりにバサバサと煽ぎながらジチシコ室に入った。
「ただいま戻りましたー!!」
窓を全開にしてもかなり暑い中、志方先輩はいつでもどこか涼しげだ。
「おかえり。さっき佐伯さんが差し入れでアイスキャンディくれたけど食べる?」
佐伯先生はジチシコ部の顧問の人である。
過去一回しか見たことないけど、気の弱そうで優しそうな社会科の先生だ。
志方先輩の向こう側で、すでにアイスを食べているかじやん先輩がパソコンをいじっている。
「ヤッター♪いただきます!!」
シヅと手を取り合ってはしゃいだ。
あとで先生にお礼しなくては…
と思いつつアイスキャンディの箱に群がる。
「ん~?何味があるん?」
そう言って後ろから私の頭に乗っかり、内野君は上から箱を覗きこんだ。
ちょ!!!
近い!!!!!
背中に密着した熱い体のせいで、さらに温度上がる。
うっ…汗かいてるかも…
頭臭うかも…
「う…うー」
ドクドクと心臓か脈かが激しく内側から叩くので私は固まって唸ることしかできなかった。
「もぉ!!ウッチャン!!菜月ちゃんが重たがってるでしょ!!」
シヅはそう言って、私から内野君を剥がした。
内野君の匂いも体温も離れて、2人の間に風が抜ける。
ホッとしたような…
ガッカリしたような…
シヅはそんなことに気付くはずもなく、意気揚々とアイスを選ぶ。
「リンゴ、ブドウ、オレンジ、ソーダとあるよ!!マー君は?どれがいい?」
少し離れて座っていたタマはまだプリントで扇いでいた。
「…なんでも。余ったのでいい。」
欲がないなぁ…
火照った体を冷やすためにすぐアイスをとって口にした。
さっきの熱も忘れて声に出した。
「んー!!冷たくておいしー!!」
「ね!!私のもあげるから菜月ちゃんのソーダ一口ちょーだい?」
ブドウを取ったシヅが笑っておねだりする様は鼻血が出そうなくらいの可愛さだ。
シヅの可愛さにやられている間、ジチシコ室に知らない女の人が入ってきた。
黒髪のショートカットに勝ち気そうな大きな目。
背もスラっと高くてボーイッシュな風貌だ。。
雰囲気からして年上。
だれ?
「シノブいる?」
先輩は入るなり、それだけ聞いた。
え?
誰をお探しで?
「カオ姉!!」
隣にいた内野君がその人に向かって振り返った。
内野君…シノブって言うんだぁ
って、えぇ!?
内野君のお姉さん!!!??
シヅは私に「似てるね?かわいい!」と耳打ちした。
確かに言われてみれば目元が似ている。
「シノブ、鍵持ってる?」
「家の?」
「そうそう!!部活なくなったから、もう帰るんだぁ」
わぁ…ほんと家族の会話って感じ。
そんな内野君が新鮮!!
「…カオ姉、自分のは?」
「ん~…どっかいっちゃった!!」
「うんうん、そっかそっか~♪…で?」
「う~…ごめんなさい!!貸して下さい!!」
なんか上下逆転してない?
「まぁいいけど、早く探さないと困るのはカオ姉だろ?」
…あれ?
「わかってる!!ちゃんと探すもん!!」
「当たり前!俺だってないと困るし。」
内野君に感じる違和感は新鮮さだけではないかもしれない…
お姉さんも"内野君も"…
"関西弁がない"?
内野君はひとつため息をついたあと、私達に向いた。
「しゃぁないなぁ…ごめんやけど俺、鍵と一緒に自分の荷物を教室置きっぱやから取りにいくわ!アイスはもう食べてもらろてかまへんから。」
一瞬の違和感も忘れて私はすかさず首を振った。
「ちゃんとそこの冷蔵庫入れて残しとくよ。何味がいい?」
ふわっと笑った内野君はポンポンと軽く私の頭を撫でた。
「ありがとう。ほんまに何味でもえぇから。」
内野君と一緒に出て行く時にお姉さんはこちらをチラっと見て笑った。
笑ったらほんとに内野君に似てる。
「何?彼女?」
「ちょッッ!!な…~ッッはよう行くで!!」
出ていく直前、そんなことを言われるから…
内野君が顔を一瞬赤らめて出ていくから…
周りにはシヅもタマも先輩もいるのに…
全身が熱く痺れた気がして、でもバレないように「冷蔵庫に入れとこおうか!!」とだけシヅに言った。
「ポチ、食べ終わったら暗幕を取りに行くぞ!!」
タマはアイスキャンディの棒切れをゴミ箱にシュートして私に言った。
通常の教室のカーテンでは全く暗くならないのでお化け屋敷では暗幕を担当クラスに配るのだ。
「げ!!私ら2人で?」
「舞台の人も使うけどウッチャン行っちゃったし。舞台忙しいみたいだから手伝ってあげよう。…ウッチャンのためにも」
今、内野君の名前を強調された気がするけど…
いっか…
「…わかった。」
やっと食べ終わった私もゴミを捨てて、暗幕を取りに旧校舎へ行くことにした。
「「「いってらっしゃーい。」」」
シヅと先輩達に見送られて、タマと一緒にジチシコ室をあとにした。
英語や数学などの移動教室や多目的教室が集まって、授業以外は普段は滅多に人がいないのが旧校舎である。
今や半分倉庫となっていて、桜光祭当日はお化け屋敷として利用される校舎だ。
「うわー…やっぱ埃っぽいね。これは暗幕を一回日干しした方がいいかも!!」
「ポチは、」
「ん?」
「ウッチャンのことが好きなんだろ?」
“ ス キ ? ”
時間が止まった。
顔だけ熱いのに、何かまずいことが起こったように手足先が急激に冷えた。
「なななななななななんで、そそッッそそ、そんなこここと!!!!!」
「いや…見たらわかるし。」
「!!」
「今だってわかりやすく動揺してるし、」
そうなの?
自分では自覚がなかった…
好き?スキ?
私が?内野君を?
好きってこういうこと?
ジチシコ室を出ていった内野君の背中の残像が離れず、思い出す度に胸が苦しくなる。
私…内野君のことが…
「まぁ、やめといた方がいいと思うけど。」
「……へ?」
「いや…どう考えたって無謀だろ。」
無 謀 ?
む ぼ う ?
じゃぁなんで好きなのか?とか聞くのよ!!!!
「別に好きじゃないし!!!!」
「はあ?」
「ただ席が前後だから話す回数多いだけで全くもってそういう好きとかじゃないし!!!」
「……いいわけ?」
「違うもん!!ほんとに別にそんなんじゃない!!」
こんなにタマに向かって叫び続けた私は、本当に子供だったのだと桜光祭で痛感させられることになった。
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