理由

理由1


「自治会執行部の体制を変えたいそうだ」



志方先輩の簡潔な説明から緊急会議は始まった。



「変えたい?一体、誰の提案なんすか?」



ウッチャンは険しい顔をして、志方先輩を問い詰めた。



志方先輩は私達一年の顔を見た。


カジヤン先輩も前島先輩も黙ったままだ。



「まぁ……職員会議で決められたそうだ」



職員会議?


ってことは、先生達が決めたってこと?



……じゃあ仕方ないこと…だよね?



「体制が変わるって、具体的に……」



タマが質問した。


なんか真剣。


珍しい。



志方先輩はタマをちょっと見ただけで、また私達全体に目を配らせた。



「つまり生徒会にしたいそうだ」



私は首を傾げた。


え?


一体どこが変わるってことなの?



ふとした疑問の答えがほしくて、なんとなくシヅを見た。


シヅも同じ様子でこっちを見て、顔を見合わせた。



私が首をひねると、シヅも首を振った。



「俺らの信用がなくなった……ってことですね」



タマが言った。



信用が……なくなった?



話がこれからだって時に、チャイムが鳴ってしまった。


前島先輩が立ち上がった。



「とりあえず授業に出よう?続きは放課後だ」



先輩の言葉を聞いては、さっさと立ち上がって部室を出たタマを慌てて追いかけた。



「ちょっとタマ?どういう意味?信用がなくなったって……」



早歩きのタマにシヅもウッチャンも着いてきた。


タマは速度を落とさないまま、隣に並ぶ私を見下ろすように一瞥いちべつした。



「つまりジチシコじゃなくなるんだよ」


「それの意味はわかるけど、生徒会になるだけじゃん?何が違うの?」


「……」



タマはやっぱり黙っていた。


後ろで着いてきていたシヅがポツリと言葉を発した。



「選挙……しなくちゃね」



……え?


首を捻った。



「選挙って……え?あの、選挙?」


「そう。その選挙」



政治家がワゴン車に乗り込み、拡声器で演説しているのをイメージしたが……


そういやワゴン車には乗らないけど、生徒会でも体育館とかで演説してるイメージがある。


あの選挙をするの?



「それが何か問題なの?」



教室についてからウッチャンが「うーん……」と唸った。



「別に事件ってわけやないけど……」


「だよね?今までもそういうことをしてきたわけだから、何も変わらないよね?」


「やることは変わらない。ただ……」



ウッチャンがタマをチラッと見た。



タマは何も言わず、何も反応することなく、自分の席に座ってしまった。


ウッチャンはタマから目を離して、もう一度私を見た。



「……つまり選挙しなきゃ、俺らは動けないんだよ」


「うん?」


「そうしないと……皆から公開して認めてもらってからじゃないと、生徒会のように皆に指示しちゃダメって……感じやな」


「うん」


「タマは……それが嫌なんとちゃうかな?」


「……え?」



支持されなきゃ指示できない。


まるで言葉遊びのようなこと。



体育祭で初めて笑ったタマを思い出した。



『俺らは生徒会と違って選挙なしでジチシコしてんだ』


『皆が一人一人自分と向かい合って、周りの人間を支えられたのなら、この世に選挙なんていらねーんだ。誰であろうと信頼して又は支えられることを認めれる』


『俺もそういう人間になりてぇ。だから代えてはダメとかそんな決まりより守りたいものを見失いたくねぇ!!』


『形とか知るか!!横暴と言われようがかまわねぇ!!俺らジチシコは皆で皆を守る!!俺らにはそれができる!』



タマは……ジチシコであることに誇りを持っていたんだ。



私はやっとジチシコが無くなることへの不安を感じた。



◇◇◇◇



放課後、さっそく会議が開かれた。



「とりあえず先生達に俺達の考えをまとめたものを提出しようと思う」



志方先輩の提案にみんな頷いた。



そこで前島先輩が言った。



「その前に、今になってジチシコの体制を変えたいと先生達は何故言い出したんだ?」



志方先輩は前島先輩を見たあと、少し目線を落とした。



「クレームがあったらしい」



カジヤン先輩は鼻で笑った。



「俺らにクレームなんて、今に始まったことじゃねぇだろ?」



もともと嫌われ傾向にあるこの部活。


志方先輩も「あぁ…」と返事をするが、その声も妙にいつもの堂々さが足りない感じ。



「今年は特に具体的に大きなことを注意された。体育祭から始まる」



ウッチャンの眉間に皺が寄る。



「体育祭って……指輪探すために種目を変えた……アレですか?」


「あぁ」


「あれはあの時、ちゃんと盛り上がってたじゃないですか!!」



すぐにそう言ったウッチャンの言い分に私も頷いた。


無理矢理の変更だったとはいえ、その場で全員が声を上げて「おぉー!!」と言って納得していた様子だった。


事実、皆はちゃんとルールに従って、ゲームにちゃんと参加していた。


私達の考えがわかっているのか、志方先輩は詳しい説明を続けてくれた。



「確かにある程度は盛り上がっていたし、指輪を探す意図が三年生にはわかったみたいだったから……事情を理解してくれた人が協力して説得してくれてたみたいだった。だから大きな反感みたいなことも無くて済んだんだ」



指輪を無くしたと言ってきた先輩達の顔が浮かんだ。


あの競技の意図をわかってくれてたんだ。


そうか……あの先輩達のおかげでもあるんだ。



「でも……」



志方先輩は無意識なのかなんなのか、小さく首を振った。



「それで上手く得点が入ったチームは何も文句はないが、得点をモノに出来なかったチームは不満が出てくる。たとえ始めはやる気だったのだとしても……」


「……え」


「『今日までに練習したことが無駄になった』『急に競技を変えたせいで優勝を逃した』……とかな」


「そんな…今さら……」



今さら責められるとは思わなかったから、どう反応したらいいのかわからない。


カジヤン先輩はやっぱり鼻で笑う。



「体育祭の優勝ぐらいで、何をワーギャー言ってんだか……ガキが」



前島先輩は溜め息をついてカジヤン先輩に言った。



「俺や梶原とかは高校の思い出ってのに冷めてても、やっぱ高校最後は…とか、行事が好きだって奴らは優勝目指して頑張るんだよ。普通はな」



確かに理不尽に競技やルールを変えられたせいで思い出が潰された……とか言われたら


私はそれに対して上手く言い訳出来ない……全員のために働かないといけないジチシコだから。


勝手と言われたら、そこまで。



「そして桜光祭」



え?


桜光祭なんてつい先週の話なのに?



「これは毎年言われることなんだが……まぁ、クラスに協力的ではないと言われた」



クラスに協力的じゃない



その言葉に胸がズキッとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る