崩れる
崩れる
聞いたよ!!
二人、付き合ってるんだって!?
もぉ、言ってよー!!
ほんと驚いたんだからぁ!!
そしたらもっと気も利かせてあげたのに~!!
いついつ!?
いつから!!?
気付かなかったぁ!!
うんうん
でもシヅと内野君、お似合いだと思うよ!!
ホントに…
……軽いノリで
楽しい雰囲気で
いつもの様子を装って
そうやって聞けばいいのだ。
そうすればいいのに、あれから部屋に戻った後も、カラオケ店を出てからも、そのあとのご飯も、花火も、
何も言えなかった。
楽しいはずの夏の思い出はストローを取ってからのことが曖昧にしか思い出せない。
一緒になって笑っていたと思う。
笑えていたと思う。
って、何をショック受けてんだ!!
シヅに彼氏いるとか、普通に考えて当たり前だし、それが内野君とかむしろ納得だし、二人のツーショットはやっぱりお似合いだし…
内野君のことは…
好きって自覚してから
まだ日も浅いし…
うん…
早めに知れてよかったぁ!!
大丈夫大丈夫!!
……うん、大丈夫…。
夏休み明けの始業式。
教室でシヅに会った。
「おはよう菜月ちゃん!!夏休みどうだった?まぁちょっと前にカラオケで会ったけど……あれ?菜月ちゃん、今日…」
私はすっぴんで登校した。
シヅにそれを指摘されそうになったけど、気付かないフリをして、笑顔で「宿題めんどかったねー」と話を逸らした。
◇◇◇◇
「これ、無理なんで別の方法に変えてください。」
私はお化け屋敷を行う先輩達の教室まで行き、企画書を提出され確認したが、受理できる内容ではなかったので、二年生の先輩にそのまま企画書を返した。
「でも!!こっちのが絶対ウケるって!!」
提出してきた先輩はそう言って粘ったが、私は首を振った。
「決まりは決まりなんで。」
ズバッと言い放った。
お化け屋敷は内装が特殊なせいで規則が厳しいのだ。
「ともかく、これではこちらとしても許可を出せないので諦めてください。」
そして私と……同じくお化け屋敷担当のタマと二人で二年のクラスから出ていった。
とりあえずさっき注意した以外の備品リストのチェックをするために一度ジチシコ室に戻ろうかな。
「なぁ、ポチ。」
「…何よ。」
「何カリカリしてんだ?」
「…別に事実を言っただけでしょ?先輩とはいえ、あのやり方だと当日が危ないことになるだけじゃん。」
「…いつもと逆だな。」
「何が?」
「…『他にもっと言い方ないの』か?」
「…」
そう。
本来なら先輩相手にそんな言い方しない。
まだジチシコに入っていなかった体育祭の頃のタマとすっかりセリフが逆転している。
始業式が始まってから、来月にある桜光祭に向けてHRは丸々使って、その準備にあてられていて、すごく忙しい。
うちのクラスも自分達の出し物の準備をしているわけだが、準備している時間だからこそ、担当クラスへ様子見たり、打ち合わせしなければならない。
体育祭の頃の三人のようにHRを抜けたり、タマに注意されたり、私もすっかりジチシコ部員となってしまっている。
2ヶ月前の体育祭の時では考えられないことだった。
入ってしまうと簡単にジチシコのメンバーと同じような感じに染まってしまった。
「ポチ、どこ行くつもり?」
「二年三組からプリント提出してもらったし、ジチシコ室に戻ろうかと。」
「もうこのまま一年のお化け屋敷クラスも行こ。」
「ん。わかった。」
「…やっぱ変。」
「…何が?」
「なんつーかこう…ポチが素直だ。」
「…」
…
ッッこんにゃろー!!!!
素直のどこが変っつーんだよ!!!!
何か!!!?
私は素直じゃないのが普通ってのか!!?
『詩鶴の彼氏って…』
…
いつもと違ってべらぼうに言い返すこともせずに黙って睨むことしかしない私は確かに変なのかもしれない。
代わりにバカにしたような溜め息を吐いてやった。
別に失恋したわけじゃない。
傷付いたわけじゃない。
…ただ
ただ“あのこと”をふと思い出すと不思議と憂鬱になってしまうだけだ。
なんか良く…わかん…ないけど。
「乾さーん!!辻田ぁー!!」
廊下を歩いてたら後ろから声を掛けられた。
うちのクラスの桜光祭委員だ。
「なんだ、岡崎かよ。」
「なんだはねぇだろ!!」
タマの言い回しにヒヤッとしたけど岡崎くんはハハッと楽しそうに笑ってくれた。
「詩鶴ならどこいるか知んねぇぞ。」
うちのクラスは喫茶店をすることになったから、模擬店担当のシヅはうちのクラスを受け持っている。
打ち合わせがなんとも楽で羨ましい…。
「…じゃなくてお前らだよ!!」
「「え?」」
「Tシャツのサイズ!!二人ともサイズ、丸してなかったろ?」
ノートの切れ端に書かれた手書きの注文書を差し出される。
すっかり忘れてた。
「ごめん!!わざわざ来てくれたの?」
私がそう言った後にタマが、
「別に適当でよかったのに。」
と返すから、
「みんながタマみたいにいい加減じゃないの!!」
と突っ込んだ。
人の親切を無駄にするようなことを言うタマを放っといてサイズをMに丸した。
「そだ!!内野に今、連絡とれたりできる?」
「……え?」
「あいつも捕まらなくて!!俺、番号知らないし。悪いけど乾さん、内野にサイズどれか聞いてほしい!!」
内野君に…電話!?
「た…タマ!!タマが電話して!!」
「いや…俺、今サイズ書いてんだから、ポチかけろよ。」
「多分Lだよ!!Lって書いちゃいなよ!!」
「…みんながみんな、俺みたいに適当じゃないんじゃなかったっけ?何、適当に決めてんだよ。」
「…」
…だってあれから、内野君とどうやって喋ったらいいのか、今更わからなくなってしまったのだ。
岡崎君でさえ「え?何?内野とケンカ中?」と違和感を感じたみたいだ。
ってことはタマには余計、怪しがられてるだろうな。
一人黙ってテンパってたら、タマはため息をついた。
その様子にビクッと震わせたが、タマは何にも言わなかった。
何にも言わずに内野君の欄に【L】と書いた。
「書かなかったアイツが悪いんだから、サイズ合わなくても文句言えねぇよ!!てか多分Lだろ。」
それだけ言って「じゃ!」と歩き出した。
岡崎君も特に気にせず、「ありがとなー」と教室へ戻っていった。
思わず呆然としたが、タマがお化け屋敷をする一年クラスに向かっているのを見て我に返り、小走りでタマに追い付いた。
…ー
もうすぐでLHRも終わろうとしている中、タマと二人でジチシコ室にいた。
「あーもうすぐ終わるけど、もういっか!!HRサボって備品用意と資料作ろっか!!」
自分でそう言っといて、HRをサボろうなんて、本当に私はジチシコに馴染んだのだな…と改めて思った。
「ポチ。」
提出してもらったプリントをコピーしていたタマはこちらを向きもせず、声をかけた。
「何?」
「俺のせいか?」
「…何が?」
「ウッチャンのこと。」
「…」
タマの言わんとしてることがさっぱりわからなかった。
だけど『ウッチャン』というワードだけで胸がつまった。
「ウッチャンのこと避けてるの、」
「別に避けてなんか…」
「俺が余計なこと言ったからか?」
「…」
余計?
…いや、何も知らずに不様に浮かれているよりも、早くに知れてよかった。
よかったのだ。
不思議と穏やかに笑うことが出来た。
「そんなことないよ。」
「…そうか?」
「うん。タマのせいでないし、大丈夫だから。てか何でもないから!!」
ジチシコ室の外がガヤガヤと騒がしくなった。
クラスのHRが終わり、放課後となったのだ。
それを機にタマはそのことについて何も言わなくなった。
タマが黙った瞬間に扉が開いた。
「あちー!!!9月やけどまだあちー!!!」
内野君がシャツをパタパタ扇ぎながらジチシコ室に入った。
詩鶴と一緒に。
「あー!!HRサボり組を発見ですよ!!ウッチャン!!」
「ほんまやぁ!!ちょぉ、サボってまでこんな密室二人で何してたん?や~らしい♪」
内野君は両手を頬にあて、腰をくねらせた。
…そんなこと内野君に言わないでほしい。
タマは両手を組んで内野君を見据えた。
「ウッチャン、俺らにそんなこと言っていいの?」
「…なにが?」
「クラスの衣装Tシャツ、ウッチャンの代わりに注文してあげたのに。」
「うぉ!?マジで!!ごめ…」
「S。」
「Sぅ~!!!???」
「そう、Sサイズにしといた。」
「マジで!?うせやん!!」
「一人でピチピチに着こなせばいいよ。」
「アホかぁ~ッッ!!!!ふざけんな」
真顔でやりきるタマに感心しつつも呆れた。
「…大丈夫だから、内野君。ちゃんとLサイズで書いてるから。」
真顔で私を見たタマを横目に、ホーッッと安堵のため息をついた内野君が近付いてきた。
「あぁ、マージ焦った!!!もうタマは敵や!!俺の味方はポチしかおらん!!」
そう言って私の肩を叩いた。
私は…
「タマ!!コピーできた?」
急に呼ばれたタマはきょとんとし、なんの返事ももらえなかった内野君も同じだった。
「え?…まぁ。」
「プリントちょーだい。」
「…ん。」
「じゃあ、帰るね!!」
「「「え?」」」
その場にいた3人ともがハモった。
「え…ポチ帰るん?」
内野君は首を傾げて私を見た。
タマは黙って見ていただけだった。
「うん。お姉ちゃんに頼まれ事があって今から家に向かわないとダメになっちゃって…」
頼まれ事って何?って聞かれたら、どういう設定で誤魔化そうと考えながら、口だけがベラベラと動いた。
ねぇ…
私は今、ちゃんと笑えてるだろうか?
「じゃあね!!」
タマには悪いと思いつつ、そのまま部屋を出た。
みんなの不思議そうな顔は見ないふり。
私…最近ジチシコを早退してばっかだな…
なんだか…忙しいせいか、うまくいかないっていうか…要領悪いよな…
桜光祭の準備で廊下が騒がしい。
「あ…。」
声が聞こえた気がして声の方に顔を向けた。
さっきの二年生達だ。
一応、頭を下げたら向こうも「どうも。」と小さく挨拶してくれた。
実行委員でない人達も一緒にいた。
「え?後輩?」
「あぁ…違う違う!!」
そんな会話を余所に早く帰ろうと通りすぎる。
でも二年生の会話は続く。
「後輩じゃなくって、あれ…ジコチュー部。」
え?
「あぁ、桜光祭の企画通してくれなかったっていう…」
「そう!!キモくない!!??」
「あはは!!確かに!!」
「何が『規則ですから!!』よ!!まじキショい!!」
「あはは!!しょうがないじゃん!!"ジコチュー部"で"地味シコ部"なんだから!!」
それはわざと私に聞こえるように喋ってたのかわからない。
ただどんなに距離が遠のいて、急いで帰ろうとしても、その笑い声はどこまでも耳に残った。
私…キモい。
大丈夫
大丈夫
大丈夫
ずっとそう言ってた“強がり”も崩れるしかなかった。
顔もスタイルも良くもないのに、早退ばかりして仕事もできず、周りに迷惑をかけ、キモがられて、中身もダメダメだ。
内野君じゃなくても…私なんかを好きになる人なんて…出来るわけがないのだ。
シヅを思う。
花陽姉ちゃんを…思う。
私に出来るわけが…ないんだ…。
涙は1つもこぼさず、淡々とそう考えては家へと着いた。
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