加速する
加速する
◇◇◇◇
「例えば、ある人が目から離せなくて」
「はい。」
「てか目から離れてもその姿が思い浮かんで」
「ほう。」
「もうそれって恋かな?」
恋…?
「一概には言えんが、かなりの確率で"恋"だな」
ぎ…ぎゃあああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!
「ん?何してんねんポチ?」
先に言っとくけども、先ほどの会話をしたのは私じゃありません!!
かといって盗み聞きをしたわけでもありません!!
断じて違います!!
かじやん先輩と志方先輩と内野くんがジチシコ室の真ん中で大きな声で話すのいけないのです!!
今日は終業式で午前中で終わり、お昼をジチシコで食べようと思い入ろうとしたら、それが聞こえてきたから入り口で固まってしまったのだ。
扉が半開きだったので、そこを内野君に見つかってしまったようだ。
「いやいや…別になんでもありませんよ?」
固い笑いでズカズカと中へ入った。
「で、それでさっきの梶原の話だけど。梶原の好きな子って?同じクラスか?」
「ばっ!?別に俺のことじゃねーかもしんねーだろ!?てか俺だとしても志方には言わねーよ!!」
「なんで?」
「お前絶対いじって遊ぶもん!」
「…しないよ。」
「顔笑ってんじゃねぇか!!絶対イジる気満々じゃねぇか!!」
「当たり前だろ。こんなおもしろいことを誰がイジらずにいれるか。」
「隠す気もねぇッッ!?」
志方先輩って私達後輩といる時と、かじやん先輩とではなんか違うなぁ…
二年って仲良いね。
二人の様子を笑いながら内野君がこっちに向かってきた。
「あはは。先輩でも恋したりすんのやな!!」
「あ…当たり前じゃん!!人間なんだから。」
「まぁ、せやなぁ。でもあんな堂々とわかりやすい人初めて見た。」
「…確かに。」
そんなかじやん先輩が可笑しくてクスクス笑ってたら、内野君がはっきりとこっちを見て聞いてきた。
「ポチは?」
「…へ?」
「好きな人!!おるん?おらん?」
『ポチはウッチャンのことが好きなんだろ?』
昨日タマに言われたことを思い出して顔がみるみる赤くなってしまった。
「い…いないに決まってんじゃん!!」
「そうなん?」
「そ…そうだよ!!」
心臓が落ち着くことなくバクバクいいだしている。
違う!!
違う!!
これは恋ではない!!
っていうか、そういう内野君はどうなんだ!!
と聞きたいのに聞けない…
「嘘だな…」
…はい?
「ポチちゃんは嘘ついてるでしょ?」
いつの間にか言い争いが終わっていた先輩達はニヤニヤしながらこちらを見ていた。
な、なな、 何で!!?
てか何?志方先輩のその自信は!!?
口をパクパクするけど声が出ない。
そんな様子を見てかじやん先輩が笑顔で口を開いた。
「顔真っ赤だし、怒鳴って否定してんの余計に怪しいし」
「うん、反応が梶原と全く一緒だし嘘でしょ?好きな人いるんでしょ?」
「そうそう、俺みたいに…ってこら!!俺は違ぇよ!!」
再び二年の漫才が始まったところで話が逸れるんじゃないかと思ってホッとした時にジチシコの扉が開いた。
「お疲れ様でー…って何を騒いでるんですか?」
不思議そうにシヅが中に入って来た。
二年の楽しそうな顔。
こんなおもしろいネタを二人が引っ張らないわけがない。
「富永さ~ん…とても素敵なグッドニュースがあるんですよ~?」
「え?かじやん先輩、何ですか!?」
何も気付いてないシヅは純粋に興味をひく。
ただでさえタマが変なことを言うのに、これ以上広まっては私の居場所がない!!
まずい…なんとか…
「実はポチにす…」
「わあぁぁ!!!詩鶴!!久しぶりやな!!」
なんとか止めようとしたのは私ではなく、隣にいた内野君だった。
いきなり大声をあげる内野君にシヅはますます不思議そうにする。
「…?さっき同じ教室にいたじゃない。」
「そうやっけ?いやいや!!少し見ないだけで俺は寂しかったんや!!」
「ウッチャンまた適当なこと言って…」
呆れながらも、少し笑うシヅは荷物を置いて、棚にあるファイルをひとつ取った。
「じゃぁ、志方先輩!清水先生から判子もらってきますね?」
「はい、わかりました。いってらっしゃい。」
志方先輩はシヅに向かってヒラヒラと手を振った。
特に気にしてなさそうな志方先輩とは対象に、かじやん先輩はシヅが教室を出ていった後すぐに、内野君に突っかかった。
「おい!内野!!何あからさまにポチに
私を見て、かじやん先輩を
「いや先輩達、悪ノリしすぎっすよ?その場におる俺らはともかく、詩鶴にもあることないこと言ったらややこしくなるやないですか。ポチが可哀想です。」
つまらなそうに先輩は口をとんがらせた。
「何だよー!!俺の時は平気でイジってたくせにー。」
「当たり前っすよ!だってポチはー…」
内野君はこちらをはっきりと見て笑った。
「女の子やから。」
ドクッ
嘘…
バクバクバク
何これ?
バクバクバク
かじやん先輩は内野君のほっぺをつまんだ。
「あたたたたた!!なにふんでふくぁ!?(何すんスかぁ)」
「くそぉ!!エセ爽やかめ!!!!差別だぁ!!」
「まぁしょうがない、梶原だから。」
「志方!?ダメだろ!!俺のことも大事にしろよ!!」
「ポチちゃんと梶原だろ?…しょうがない、お前の負けだ。」
「何の勝負で!!??」
バクバクバクバク
誰も気付いてない。
でも誰かに気付かれるんじゃないだろうかと思うほどの脈である。
きっかけはタマからの指摘だったであろうと、
一度意識をしてはダメだ。
迷ってわからない振りをしてもその前になんて戻れない。
誤魔化したって一度落ちてしまえば、
あとは加速を待つだけだ。
何味でもいいと笑った顔が
ダンスの特等席までへと引っ張った手の熱さが
寂しかったと言われた自販機での焦りが
髪が乱れるような撫で方する大きな手が
忙しそうに走る背中が
"詩鶴"と呼んでいると知った時の嫉妬が
『なぁ、あれなんて読むん?』
あの人懐っこい笑顔が
私
内野君のこと
ドクッ
「…―ッッあの!!私帰ります!!」
「「「え?」」」
少しばかりもみくちゃになっていた3人がこっちを見てハモった。
そんな三人を見て見ぬふりしてカバンを持つ。
「では、よい夏休みを!!」
「いや…ポチ。来たばっかやん?」
「急用を思い出した!!」
「お化け屋敷でタマ待ってたんとちゃうん?」
そうだ…
お化け屋敷の件でタマと用意しないといけない資料がある。
でも
どんどんこっちへ近づく内野君に見つめられて、これ以上ここにいるのは
限 界 !!
「さよなら!!」
半ば走ってジチシコ室を出ていった。
出てすぐの渡り廊下でタマがいた。
「ポチ悪い、遅くなっ…」
そこで立ち止まるような余裕もなくて、タマの横を走り抜け…
ようとしたけど
出来なかった。
タマにすれ違い様に腕を捕まれた。
走っていたのに急に止められた反動でガクンと後ろへ倒れそうになった。
それをタマがあっさりと抱き止めた。
「いくら待たせたからって、シカトするほど怒んなくてもいいだろ。」
後ろから抱えられるようにタマの腕の中にいるのに、内野君はもっとがっちりしてたな…なんてどうでもいい比べをしてしまう。
こんな近くにいたら
手首なんて持たれたら
私の脈が早いと気付かれてしまう。
内野君が好きって思っているタマには何故早いのかなんてバレてしまうかもしれない。
タマの前であんな否定をしておいて、恥ずかしい…
「ごめん!!急用が!!だからあとは任すね!!ごめん!!またメールする!!」
「ポ…」
タマの腕の中からすり抜け、再び走りだした。
暑い日射しの中走って、めちゃくちゃ汗をかいてしまうってわかってるけど走った。
この時は、夢中すぎて普段では当たり前にわかることさえも、何も気付かなかった。
タマが鈍感なことにも、
あんな感じで出ていって
内野君が追いかけないはずがないことも。
タマとの一部始終を内野君に見られていたなんて…
気付かなかった。
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