第31話 ドラゴン攻略2
「ガァァァッッ!!!」
ドラゴンの咆哮と同時に、その場にいた魔物が一気に襲い掛かってくる。危険であることは承知で入ったが、ここまで待機準備が完了しているとは聞いていない。
咄嗟に回避できたからいいけど、目の前には既にゴブリンキングがウジャウジャいるしなぁ。
「一先ず、お前らから細切れに……っち!」
目の前の魔物を倒そうとした瞬間、遠くからドラゴンのブレスが飛んでくる。なるほど、足を止めたら死んじゃう感じなのね。しかも、あのドラゴンも見たことがない奴だし、新種か?それとも、本来はもっと下の階層にいる魔物なのか?いずれにしろ、全身真っ黒なドラゴンなんて、聞いたこともない。
見たところ、25階層までの魔物をきれいに従えているみたいだけど。
「というか、一番奥で自分は控えてるだけってずるいなぁ」
「ぎゃっ、ギャグギャ!」
「バウゥゥ!」
「はぁ、面倒な」
眼下には考えるのも、数えるのもおっくうになる程の魔物の山。このまま落下していくと、確実に魔物の餌食になりそうだなぁ。
ま、無防備に落ちて行けば………の話だけど。
「はあぁっ!」
真下から真上に、真上から斜め切り降ろしに。柄に触れる時間をできるだけ短くして、大鎌が独立して回転できるようにどんどん回転数を上げていく。バチバチと何かが爆発するような音を立て始め、僕が魔物たちと接敵する距離になった瞬間、バンッ!と魔法がさく裂したような音が鳴る。
「「「「「「グギャアァッ!!」」」」」」
「「「ブバァァッ!!」」」
真下にいた魔物を中心に、かなりの魔物を円形に吹き飛ばした。いいね、やっぱりこうでなくちゃ。大鎌の回転力を維持したまま、走り出す。ここで大鎌の回転を止めるのは愚の骨頂だ。
僕の通り過ぎた後は、魔物たちが切り刻まれてごみのように散っていく。その姿を消していくが、その血が地面に染み渡ることなく広がっていく。常に新しい血が上から供給されてしまうため、固まる時間も流れていく時間もない。
「まぁ、そうくるよっね!」
「ガウゥゥ、ガアアアア!!」
「ほっ!」
放たれた極小ブレス、その散弾バージョンを大鎌を振るってあたり一面にまき散らす。先ほどのブレスは地面に大きな穴をあけて見せたが、今回のブレスは散っていった先で炎となって、その場を焦がし始めた。
「え、そんな能力があるのかよ。聞いてないんですけど」
「ガアアァァァァ!」
容赦なくその連撃は続く。僕が立ち止まって大鎌を振り回し、その攻撃に耐えている間に、魔物たちは統率を整えていく。ゴブリンキングたちも、どこからかゴブリンを呼び出し、コボルトやハウンドも連携が取れるように隊列を組み始めた。
まさか、ドラゴンから知恵を吸収したのか?そんなことが、あり得るのか?
「いや、あのドラゴンが知恵を与えたって可能性はないな」
もしも仮に、知恵を与えているのなら自分の攻撃で大勢のゴブリンたちを殺してしまう攻撃なんてしない。僕ごと焼き付くす予定らしいけど、それは回避したしさっきの散弾だって、殺す気があるようには思えない。
何より、このドラゴン。この階層に来てから、一回も僕に威圧をかけてこないのだ。何がトリガーなのか知らないけど、上階層の生き物にしか聞かないなんて糞使えない条件なんてないだろうし。
「くそっ!」
考えている暇もないっ!飛来するゴブリンの頭部をそのまま大鎌で打ち返し、あたり一面を更に血祭りにあげる。この大鎌、一回振り回し始めて音の速度を超えた後は、ほぼ自動で敵を殺してくれる便利マシーンになるけど、問題が一つだけある。
それは、簡単には僕でも止められないということ。ほぼ自動で回転しているし、ほぼ自動で殺しをしてくれるのだから。編み出した時には天才かと思ったけど、今としては失敗技なのかもしれないと後悔している。
だが、今回はこの技が便利だ。少なくとも、自分のバトル場を形成するのには、必須と言っても過言ではない。
迫りくる攻撃の山、敵の山を際限なく切り刻みつつ、ドラゴンの隙を伺う。正直、隙まみれでどこから攻撃しようか迷っているが……。
あっ………
「カハッ!」
気が付いた時にはドラゴンの太く強靭な尻尾に、吹き飛ばされていた。まるで無防備な体を、思い切り大槌で殴られたような衝撃。胴体一面に、いきなりバカみたいな衝撃が走ったと思った。一瞬、意識がなくなったが、瞬間的に痛みを感じで、痛みをこらえる間もなく壁に飲み込まれた。
一体、どこから?それよりも、何時の間に動かしたんだ、その尻尾。まったく気が付かなかった。
パラパラと壁の破片をまき散らしながら、なんとか体を壁から外し次の攻撃に備える。
「ガハッ!ゴフッッッ!」
吹き飛ばされた時の衝撃で、骨が死んだ。身体強化で回復もできるけど、時間がかかる。その間、僕は一切の攻撃ができないんじゃないのか?
今の一撃を見て、敵の方も士気が上がっている。何より、僕自身が大幅に戦闘力をダウンしている状況だ。
「くそっ!」
ぼたぼたと大量に血を吐きながら、それでも腰から短刀を抜いてなんとか構える。ヤバいな、これは。
グワングワンと揺れる視界、ちょっとだけチカチカしているオマケつきだ。少し気を緩めると意志が飛びそうになるし、ズキズキと痛む折れた胸骨たちは無駄に痛い。集中しなければならないこの状況で、一切合切集中できる気がしない。
これは、キツイ戦いになりそうだ。
こちらをその金色の目で鋭く観察しているドラゴンを見て、僕は大きなため息をこぼすのだった。
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