第50話 良い子悪い子

「ごめんなさい、冒険者様。お金、全部使ってしまいました。ルーナは悪い子です」


一泊して、半日ほどかけて彼女の家に行ってみると、そこにはボロボロになったルーナが姿を現した。その姿を見ただけで、僕は自分が犯した失態を悟った。

僕と別れた時よりもボロボロになった服、生傷の残った頬。そして、腫れて痛々しい手足をして、立っているだけでも辛いだろうに。彼女はいったい、いつからこの痛みに耐えていたんだ。


「そう、わかった。ルーナ、まずは君の体の治療から始めよう」

「冒険者様、ルーナが全部使ってしまいました」


僕はいったい、彼女になんて言葉をかければいいのだろうか。この結果を見越せなかったのか?阿保なのか、僕は。

あんな大金を渡せば、この町でどうなるかなどわかりきっている。ましてや、僕は余所者だ。当然だが、注目されている。


「お金は理解した。僕の方も、任務をこなしてきたんだ。君の治療をしたのち、君の母を治療しよう」

「あっ………あ、あのっ!私はっ!?」

「うん、大丈夫。お母さんが元気になって、最初に見るのは元気な娘の姿が良いだろ?」

「っ!………あ、ありがとう……ござい、ます」

「ん、君は立派な子だな。さぞ、良いお母さんだったな。いや、前に少し話した時に、それは理解できたけど」


さて、早く治療をしよう。他人の治療は正直言って大の苦手だけど、無理とまでは言わない。丁寧に彼女の肉体を過度に損傷させることなく、明日の体調にも影響がないようにしなければな。


「少し傷むかもしれない。先に誤っておく、ごめんね」

「い、いえ」


手に魔力を込めて、自分の自己治癒を行うときよりも丁寧に、魔力を通していく。身体強化の応用で、自分の体を治すことができるが、それと同じだ。

本当は適性のある回復魔法が使えると一番いいが、それは僕には無理だからな。今できる最前手を選んでいくしかないだろう。


数分を要してしまう結果になったが、なんとか治療することができた。これならまだ、魔物を討伐する方が楽だぞ。あれは、結構雑に戦っていいからな。それに、自分の体なら、悲鳴を上げているのかどうかも明らかにわかる。でも、この子は我慢強すぎる。もっと我儘で、自由に楽しそうな世界を見てほしいのに。


「さて、これで大方大丈夫でしょう」

「うん。ありがとうございます!お母さんをっ!」

「そうだね、これから薬草から薬を作るよ。ルーナは、お母さんの看病を頼む」

「はいっ!」


自分が大変だったというのに、母親のことになると彼女は一段と元気になる。それだけ、心配で大好きなんだろう。早く安心させてあげたいが、実は薬づくりの、最後の行程がまだなんだよねぇ。

申し訳ないが、少しだけ待ってもらうことにしよう。


「ごめんね、ルーナ」


ちょっとだけ、行かないといけない所があるんだ。


僕は、パパっと荷物をまとめて家を飛び出した。必要最低限の装備だけで、十分だろう。どうせ、相手は町のチンピラか、その元締めだ。ダンジョンの魔物よりも強いなら、逆に相手になってやろうじゃないか。

あはは、楽しみだなぁ。


「君たち、子供の夢を希望を奪っておいて、ただで済むと思うなよ?」


僕は自覚あるあくどい笑みを浮かべつつ、町に繰り出した。

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