第49話 薬草が………………あった

「うぅぅぅ、叫び過ぎた」


久しぶりの大ジャンプに、ハイテンションで飛び降りたことを早くも後悔している。それは当たり前で、喉が枯れてしまったからだ。うぅぅむ、大ジャンプからの落下はテンションが高くなるけど、こんな弊害があるとは。

今後は注意しなければ。


「むぅぅ」


喉を労わりながら、とりあえず周辺を見渡して探索を開始する。適当に石の裏側とか、崖の裏とか探してみるけど、まぁあ見つからない。当たり前だが、簡単に見える所には存在しない。あまり切り立った崖の場所にあっても、取るのに苦労するし、まずは近場で探す。

平面方向でしばらく探してみたが、これがまぁあ、見つからない。念のため崖の上部なども探しているが、当然ない。仕方ないので、更に奥に進んでいくのだが、徐々に霧が出始めてきてしまった。


幸いにして魔物との戦いは苛烈というほどのものでもなく、出現こそするがBランク程度で済んでいる。これが助かると言えば助かるが、なんだか気味が悪い。この渓谷に来たのは初めてだけど、データで伝え聞くよりも思ったより魔力が濃いと思う。なのに、出現する魔物のレベルがそう変わらないというのは、何かあるような気がしてならないんだけどなぁ。


「んー、実は魔物も魔力密度が濃すぎるのは問題なのか?呼吸しているということは、必要な酸素量があるわけだけど~」


ブツブツ呟きながら、薬草を探しつつ道を探す。徐々に霧が濃くなってきたようで、自分が歩くべき道を探すだけでも一苦労だ。というか、こんなに霧が深くなるとか、聞いてないんだけどなぁ。


「ここまで霧が濃くなると、ちょっと面倒だな。薬草探しも当たり前だけど、これ、帰り道大丈夫だよね?」


一応、人に頼らず帰ることができるようにしているが、それでも怪しい。前が見えないってことは、今まっすぐに歩いているのか、見えている道が正しいのかも、不明だ。

これ、いつの間にか獣道に入っていてもおかしくない。


「はぁ、困った。流石に………」

「グゥゥゥルルルゥゥ」

「ヴゥゥゥ」

「ルルゥゥゥゥゥ」

「ガァァッウ!!」

「なぜこうも、囲まれる」


気が付いたら案の定、魔物に囲まれてしまった。魔物の種類も多くて困るけど、それ以上に各個体のレベルが高いのが面倒だな。ざっと見で20体ほど、全部がBランク相当。

う~~ん、これは面倒だな。


「とにかく。君たちには死んでもらうか」


大鎌を取り出して、とにかく目の前にいる魔物を切り裂いた。四つ足に巨大な牙、そして鋭利な爪。人なんて一瞬で切り裂いて細切れにしそうな爪を受け止めて、口から吐かれる炎のブレスを回避する。


「ゥルァアアッ!!」

「え~、マジ?」


悪態をつきつつ、目の前の魔物を首から切り落とす…………ん?


「マジかあ~~」


切り裂いた瞬間、理解できた。死骸が残らない所を見るに、これは間違いない。これ、贋作だ。本物の魔物じゃない、誰かが作った玩具だな。

マジか、このレベルで魔物を模倣した生物を作り出せるって、ずるくない?体内に持っている魔力と、それを高効率で正しく運用できれば本気でBランクになるぞ。

なるほど、こいつらがここを支配してるから、ほかの魔物が成長しなかったのか。霧があるから、そう簡単に見つからないし、どういう原理なのか不明だけどこの生命体たちはお互いの位置を把握しているっぽいし。


「どうやって、自分の場所を知ってる?味方との距離は?敵の識別方法は?いや待て、自分の味方が認識できるってことは、視界にある何かか、音で判断できるのか。音だと無理だけど……………何を見る?この霧のある世界で」


考えている間も、テキパキと魔物を討伐していく。四方八方から飛び掛かってくる魔物を、手当たり次第に勘で避けていく。僕の場合には、これまでの戦闘の勘と視線で判断できるが、これが魔物になるとなんだ?気配以外で、どんなものがるんだろうか?


考えながら戦っている間に、とにかく僕の周りを囲っていた魔物を討伐する。一応無傷だけど、さすがに疲れた。

それと、ちょっとだけ見えてきた。


「魔力か」


確実に、こいつらが知覚に使用しているのはそれだ。魔力を直接目で見て、その動きと種類で判断して行動している。僕と魔物が放出している魔力は波長が違うから、明らかに色として異なって見える。

そもそも、魔力を肌で感じる機能が付いていれば、肌にあたる魔力の感触が全く違うから、それでもありだな。人がいればその場の空気の流れが変わる、これを検知する人間がいるように、人工魔物たちは眼か肌か耳か不明だが、ここら辺りで知覚しているのだろう。


「でも、原理が分かればなんとかなるし…………おっ、あった」


魔力を周囲にいきわたらせて、広範囲で探索。いつもの魔力探知を、より高密度な魔力と大量の魔力で、この空間でも力押しで行く。眼の魔力強化もいつもの数段上にすることで、視界を確保。


「いやぁ、想像の10倍速く見つかったな、薬草」


手にした薬草を握りしめて、僕は帰路を探す。え?人工魔物の対処?そんなの、一級の冒険者に依頼したら大丈夫。僕は手も足も出ずに引き返したことにしておけば、万事大丈夫ってことだね。

一応、あの町に滞在する必要はあるけど。まぁ、魔物を人工的に作って軍事利用したいと考えている面倒な人は、どこの国にもいるので対処してくれるでしょう。はぁ、帝国もここまで落ちブレたのか?

それとも、他国の侵入だろうか?戦争は面倒だよ?


「さて、薬草も回収したし帰ろう」


薬草を心行くまで(10本ほど)回収して、さっさと撤収する。失敗した時を考えると少しだけ心もとないが………。


「あっ、そうか。この渓谷で調合していけば、大気中の魔力濃度が濃いから簡単に作れるじゃん!」


周囲一帯の魔物と人工魔物を掃討し、僕は薬草を調合して帰路についた。流石に、近くにいた近寄る可能性のある魔物を全部倒したら、結構疲れたな。

日帰りの予定だったけど、渓谷を出たところで少しだけ休んで帰ることにしよう。

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