第48話 渓谷に行こう

本当は付いた日くらいはゆっくりとしたかったけど、こればかりは仕方ない。もう、必要なことは明らかになっているのに、時間を無駄にしても意味がないからな。

ダリアの渓谷にさっさと行かないと、彼女の母親は直ぐに死ぬ。正直、素人の考えだから、何時まで生き残ると断言はできない。でも、これまでに報告されている症状などを加味すれば、数日で死ぬのは明らか。

本人も、生きようと足掻いているようだが難しいだろう。むしろ、よくぞここまで子供に安心を提供しつつ耐えたというべきだな。


その声にこたえた子供、その子供の声にこたえたのが僕で申し訳ないけど。でも、小さな子供の叫びを無視して生き残るような世界にはしたくないからな。


「よし、じゃあ、君はお母さんのお世話を頼みたい。大丈夫かい?」

「うん!いつもしてるから!」

「よし、じゃあ頼んだよ。それと、このお金を渡しておくから、栄養のある食事を作るために必要な2日分の食料を買ってくること。余ったお金は、君のおやつ代金にしていいからね」

「へっ?」


差し出したお金を見て惚けている間に、僕は直ぐに家を出る。もちろん、後ろから「冒険者さんっ!」と大きな声を出している少女がいるが、「絶対に買い物するんだよー」と答えて僕は走り去った。

今更、栄養価のある食事が必要かといわれるとわからない。もっと別の何かが必要かもしれないけど、まずは体内からだ。それと、子供の方も衰弱しているみたいだったから、預けたお金でおなか一杯食べてくれればいいでしょう。


「まぁ、さすがに王都で暮らしていた人の一か月分の生活費は渡しすぎたか?」


この田舎では、まず見ない大金だ。まぁ、大丈夫だとは思うけど、スリなどには注意してほしいなぁ。

何はともあれ、僕はさっさと渓谷に行って薬草を採取してこよう。



全力ダッシュを久しぶりにして、渓谷にたどり着いた。道中、かなりの量の魔物遭遇したが、それは近年誰もこの森や渓谷に侵入は愚か調査もしていない証拠だ。森の中では強弱に関係なく様々な魔物がはびこっていたので、ついでに殺しつくした。生態系が大きく歪んでしまう気がするけど、過去のデータを見るにこの森や渓谷には、強くてもCランク相当。なのに、普通にBランクが出て来るってことは、渓谷の下まで降りたらどこまで強くなるのだろうか。

黒龍ほどの魔物は出ないと思うけど、十二分に脅威だ。


「はぁ、はぁあ、はぁぁぁ…………」


流石に、ここまで魔力が濃いと困るな。ダンジョン内よりも魔力が濃い。ダリアの渓谷が、出現する魔物のランク判断よりも高ランクになるのはこの魔力のせいだ。呼吸ができなくて、過呼吸気味になり活動時間が大きく低下してしまう。体力の消費量だけの話ではない。単純に、魔力の方も消費していくことになる。

外部の魔力を体に取り込んでも良いけど、それはそれで体力と魔力を消費する。結局、力技で押し出してしまうか体内に薄い膜を形成し続けるのが、高効率でよろしい。

これはこれで、精神力を消費するので、やはり渓谷内での活動時間を少なくすることが望ましい。


「はぁぁ、ふうぅぅぅぅぅ。…………さて、早くいくか」


一度大きく深呼吸、それでこの環境に体を慣らす。そのまま、渓谷の奥底に飛び込んだ。目指すは渓谷の一番下。渓谷の中央あたりまでは崖伝いに降りてきたけど、ここから先は道がない。


ならば、飛ぶ方が早い。


「ひゃはははははああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


僕は全力で叫びながら、渓谷の中に飛び込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る