第47話 依頼内容の適性はBランク以上

「冒険者さんですか?」


そういう少女は、両足をガクガクと振るわせて、震えた声で言った。


緊張からか、足元を震わせている少女。その少女を見下ろしている、全身黒づくめの大鎌を背負った男。今すぐに憲兵に突き出されそうだけど、そこは安心できる。

だって、この田舎町にそんな兵士なんていないからねっ!でも、二度とこの町に入れなくなることに間違いはないので、ひとまず視線を合わせる所から始めよう。


「ええっと、依頼を見て今日ここまで来たんだけど、あってるかな?確か、依頼者の名前は、ルーナって書いてあったんだけど。君が、ルーナさん?」

「あっ、えと、はい。私がルーナです」

「そうですか。間違ってなくてよかった」


冒険者の証を見せつつ会話を試みると、少しだけ安心した表情をしてくれる。とはいえ、恐怖心はまだ残っているようだけどね。こればかりは、僕にはどうにもできないので、仕方ないな。

本当なら彼女の疑心暗鬼とか怯えとかを解消できるようにしたいけど、それは僕には無理。才能ないもの。

もしもそこまで気が利く性格なら、こんな大鎌を担いで民家に来たりしない。


「依頼をしてくれたのは、君で間違いないですね?」

「はい、そうです」

「ならよかった。僕の名前は、ルインだよ。この大きな鎌を使って戦うんだぁ。実力はそこそこだと思うけど、今回の旅はよろしくお願いします」

「あ、えと、その……。こちらこそ、よ、よろしくお願いします」


礼儀正しい子供で、ぺこりと頭を下げる。そこまでかしこまられても、ちょっと困るなぁ。帝国では、冒険者が下に見られてないということが、よく理解できる。

荒くれもので行く当てのない者の集まりなのにねぇ。

ふと、扉の奥で何かが動くような気配がした。親かな、だとしたら心配させたくないだろうし、今日は帰るか。


「よし、早速依頼の話をしたいと思ったんだけど、それは明日にしようか」

「あっ!はい………、わかりました」


しょんぼりと少し寂しそうにする、ルーナ。どうしたんだろうか、家の中には親がいるから、早く僕のような者は帰った方が良いと思ったんだけど。

今すぐにでも、依頼に出かけた方が良いのだろうか?思案顔で、彼女の前で立ち止まってしまったのが悪かったのだろう。ルーナは、意を決したように僕に話しかけてきた。


「あの、冒険者さん!」

「………あ、うん?」


おっと、意識の外過ぎて変な返事を。よくない良くない。


「どうしたの?」

「その、お母さんの症状を見てもらうことはできますかっ!?」

「あーーーー、なるほどね」


悪化しちゃったのか~。それで、依頼の速度の判断がしたいのか?それとも、依頼の難易度を図って、無理なら諦める感じか?

まぁ、適当に見て必要な薬草などを判断するには必要な行為か。


「いいですよ」

「ありがとうございますっ!じゃ、じゃあ、ついて来て」

「了解」


タタタッと、駆け出してしまった小さな背中を追いかけて家の中に入る。少し埃っぽくて、少しだけ物が散乱している。多分、僕の視点だからこの埃や塵が気になるが、彼女の身長では絶対に見えない場所だ。

なるほど、長らく彼女の母親は体調を崩しているのだろう。ならば、確実に母親の体調は悪化していると考えるべきかな。


「あの、この部屋に……」

「うん、わかった」


どもりながら、心配そうに口にするルーナ。案内されるがままに中に入れば、そこには簡素なベッドが一つ。その上に、痩せて肌の色がだいぶ悪くなっている女性が一人。肌の色素が濃くなり、少しコケているだけではなく所々皮膚が膨張してコブのようなものができていた。髪も輝きを失い、とてもではないが無事とは言えない。

息をしていることがかろうじて認識できるけど、瀕死の人間の方がまだ元気だぞ。


「………ん」


キロッと視線だけが、こちらを向いた。上体を起こそうとしているのだろう、微かに手足に力が入ったのが分かった。

それだけで、骨折した時の何倍もの激痛が走っているだろうに。


「大丈夫です、そのままで。いいですから、楽な体制を保ってください」

「ぁりがとう」

「いえいえ、勝手ながら部屋に入らせていただきました」


会話する量はできるだけ減らそう。掠れた声で返答してくれたけど、そこまで必死になられると困る。僕のような適当な冒険者が来てしまって申し訳ない。

目を閉じて、手足の力を抜いて弛緩する彼女を横目に、僕はこの症状を引き起こす病気に、心当たりがあった。


「魔力溜まりが体中にできてる。それに伴って、体内の循環が悪くなってる。ここまで進行した案件は久しぶりだけど、魔友病だね」

「冒険者様、お母さん大丈夫ですか?」

「うん、薬草を手に入れてくれば大丈夫だよ」


とはいっても、それはこの周辺の渓谷の下側にしかないんだけどね。薬草自体は多く存在するけど、場所が限られ過ぎなんだよなぁ。魔力密度が高く、それでいてキレイな水がある場所。そして、その薬草を魔力操作に秀でた人間が魔力を込めながら煎じればいい。


はぁ、DランクどころかBランク相当の依頼になったなぁ。薬自体は高額な値段を払えば買えるけど、遅いし高いからなぁ。

さっさと行って、さっさと完了させよう。そして、BランクじゃなくてDランクの依頼に偽装して、報告しないとなぁ。

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