第54話 拉致監禁はお約束

「泣いてるところ悪いけど、ついて来てもらうね?」


とにかく泣いている夫人と娘には罪がないはずなので、攫ってしまおう。生きていることが大事なんだから、大丈夫でしょ。仮にこの夫のことを心の底から愛しているとしたら、すぐさま駆け寄って生死確認くらいするだろうし。

今だって、自分の体を抱きしめるのが精一杯で子供には見向きもしない。はぁ、コレアだから、嫌なんだよなぁ。


「ひぐっ……えぅ?ぃぃいやっ!」

「や、やめなさいっ!」


面倒なので、子供と親の両方の腕をつかんでそのまま引きずる。


「おい、死にたくなければ黙れ。自分で歩け。無理なら首を振れ、そのまま首を切り飛ばしてやる、今すぐ楽になれるぞ。それが嫌なら、俺に復習したいと思っているのなら、早く立ってついてこい」

「……っ!こほっ!」


思わず悲鳴を上げようとして、グッと飲み込んだ影響でせき込んでいるが、大丈夫だろう。とにかく、二人とも歩く気はあるとのことなので、暗闇の中ガラス破片も散り、様々な瓦礫のあるルートを敢えて選択して進む。

そのまま正面まで抜けると、幾人かの兵士の死骸や、闇組織側の残党が死んでいたが、二人とも顔色を真っ青に染めて体調を悪そうにしつつも、必死についてくる。今にも吐き出しそうなのに、頑張ってついてくるのは流石だ。


「お前ら、この後は好きにしていいぞ」

「……え?」

「いやだから、好きにしたらいい。俺を殺すために生き延びてもいいし、このままこの場で野垂れ人でもいい。そうしたら、明日から貴様らはこの土地の住人から笑いものにされるだろうけどな」

「くっ!そこまで貶めて、一体何の恨みが!」

「お父様を返せっ!」

「知るか」


自由になった、命が無事だ。そう思うと、直ぐに吠えるのは何となく想定済みだ。とはいえ、これに関しては当然と言える。むしろ、この場で反感の姿勢を示さなければ、それこそ家族愛とは何なのか、僕が問いただしたいくらいだ。

さて、ここからどうしようかな。何となく、ノリと勢いでこの二人を拉致してみたんだけど、この後の行動はよくわかんないんだよなぁ。


「じゃあな、今後もみじめに地面を這いつくばって生きていくといいさ」

「なっ!待ちなさいっ!」

「まてぇ!」


仮に僕が待ったとして、どうする予定なんだろう?どう考えても、僕には勝てないだろうに。というか、僕に対して殺気を向けてきているのは、子供だけか。

ふぅ~ん、母親の方は知っていたと思っていいのか?


「はぁ」


じゃあ、あれか?この糞アマが、のうのうと生きているとまた、同じようなことが起こる可能性があると?いや、どうせ金持ちになったら同じなのか?

はぁ、嫌だ。ため息しか出てこない。


「なっ!なによっ!」

「ひぃぃっ!」

「なぜ、待てと言われて止まると怯えるんだ?お前らは、怯えた子供たちを殺す直前まで痛めつけて、生きるために必死で稼いだ金を巻き上げ、不当に搾取し、殺しすら許容して生きていたんだろ?なのに、今更俺が怖いのか?あ?んだよ、自分の命が惜しいのか?」

「ひぃぃっ!」

「お母さまを悪く言うなっ!」

「そう?」


必死に反抗している小さな子供を押しのけて、僕はうずくまるようにしてその身を守る母親の頭を思い切り踏みつける。なんか潰れたような音がしたけど、きっと気のせいだろう。うめき声?いやいや、気のせい気のせい。


「母様っ!?おい!離せ!」

「ああ?知らないよ、君の母親は、俺に踏まれても文句ひとつ言わないじゃないか。それどころか、俺に反抗的なお前を止めることもしない。この意味、分かってる?」

「え?」


何だ、この期に及んで状況も理解できないガキなのか?だとしたら、幸せな世界で生きているなぁ、うらやましい。

どんだけ馬鹿なんだ?


「なんで、俺が貴様を殺さないと思った?何故、今自分が生かされているのか理解しているのか?」

「え?」

「ふむ、貴様は馬鹿なのか?」


これだけの殺気を向けられ、親が足蹴にされて。流石に自分の命を心配するのが普通だと思うんだけど。


「だって、お兄さんは私を殺す気はないでしょ?間違いないよ」

「へぇ」


何だ、良い目を持っているだけか。はぁ、面倒な。

仕方ない、これはプランDだな。敵を皆殺しにして、この娘だけ攫って行くか。


「そうか、だが残念だったな。お前の母親は殺す」

「いやだっ!」

「な、なぜですか!?わ、私は貴方の反感をかうようなっ・・・・・・・」

「きゃややああああああああ!!!ううぇっぷ!」


騒ぎ始めた母親の首を容赦なく跳ねる。はぁ、これでまた屋敷の近くに、新しく血生臭い噴水が一つできた訳だ。う~ん、需要のなさよ。

というか、泣き喚いて煩いからそのまま首に顔をつけたけど、大丈夫だよね?真っ赤に染まってるけど、呼吸できてるかな?

まぁ、死んだらその時でいいか。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「おー、生きてた。なら、行くか」

「母様を、よくもっ!どうしてっ!」

「世界を知ってそのうえで反論するんだな」


僕は、泣き喚く子供の口を乱暴に塞ぐとそのまま拉致して、適当な空き家に放り込むとその場を後にした。


さて、適当に血を洗い落としてから帰りますか。早めに治療もしないと駄目だからね。

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ダンジョン探索日記 鹿目陽 @ryuzu_

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