第11話 貴族にはなりたくないね
「まさか、本当に一度も手助けどころかアドバイスもしてもらえないとは思っていませんでしたわ」
「下心出すぎなんですよ、セラ様」
「ルインさんが守ってくれるなら、期待しないのは無理だよ」
「そうか?お前がいれば十分だろ」
「はぁ」
グダグダと会話しながら、僕たちはダンジョンから引き返す。この依頼ももう、4日目だ。そろそろ炎熊と遭遇することも減ってきており、今日はただの一度も討伐できなかった。仕事がなくて簡単でいいけど、その反面収入が減るんだけどね。
今のところ、むしろお金が余るほどあるからいいけど、ちょっと困る。
「それにしても、ラナー様」
「なに?」
「ルインさんがいれば、貴方は結構おしゃべりになるのですね」
「そうかな?」
「「「うん」」」
セラ様の指摘に、その場にいた全員が頷いた。何なら、近くにいた聞き耳を立てる冒険者たちも、頷いている。確かにラナーは必要最低限しか会話しないけど、こんなにいろんな人にその事を認知されていたのか。
「変えるべきかな?」
「なぜ僕に聞く」
「何となく?」
「それは人選ミスではありませんか?ルインさんの答えなんて、わかっているではありませんか」
「だよなー、初対面のあたしにも、容赦なかったしな」
情け容赦ない言葉が、今度は僕に振りかかる。確かに、僕の言いたかったことは彼女たちの言うとおりだけどさ。この数日で、僕の人となりも簡単に推し量られてしまったようだ。
悲しいかな、彼女たちの言葉に腹を立てることもないけど、言い返せるだけの材料もないんだよね。
「この通り、僕を参考にするのはやめた方が良いよ」
「それは嫌。ルインさんは目標だもん」
「うん、参考にする場所は選ぼうね?」
「?」
コテンと不思議そうにするだけで、絶対に理解できていない。仕方ないので、この日はラナーに対して、ある程度冒険者のマナーなどを教えることになった。なお、「知ってるなら、もう少し協力的になれ」という視線が向けられた。
ただ、そんな彼女たちをしても両手を上げて諦めさせた存在がラナーだ。僕の説明の後、「それは必要?」というだけではなく、小一時間アイシャたちに説得されていた。その説得を抜け、ギルド職員から叱られ、更にお小言を言われても、「私は困らないから大丈夫。ルインさんがいるし」という結論に至った。
「あの、ルインさん?ラナー様に一体どのような教育を施されたのですか?」
「教育も何も、一時期パーティー組んだだけですが?」
「ルインさんが一番強い、だから一番正しい」
「らしいですよ?」
言いつつ、この言い訳には無理があるなと、自分でも理解できる。ラナーの発言に疑問を感じる人が出る前に、僕は一足先に解散することにした。
まったく、ラナーは時折余計なことを言うからなぁ。万年Cランクでのんびり探索していれば、僕は十分なのに。
絶対にBランクなんか目指さない。
翌日、待ち合わせ場所である冒険者ギルドに足を運ぶと、何やらいつも以上に視線を感じる。なんだろう、昨日何かした?具体的には、ラナーとか?
ジトーッとした視線を向けると、そっと視線をそらされた。これは確信犯だな。
「ラナー、一つだけ聞いていいかな?」
「な、なに?」
「視線を合わせなさい」
「このままで大丈夫です」
抵抗して見せるラナーのほっぺを両手で挟み、強制的に視線を合わせる。「むぅっ!」と少しだけ抵抗して見せるが、僕は決して手を緩めることはしない。
「それで?昨日僕が帰った後に、何を話したの?」
「いや、ちょっとだけね、聞かれたことにこたえてたんだ」
「へぇ?具体的には?」
「う………」
徐々に問い詰めてくと、ラナーは居心地が悪そうに逃げる。一歩一歩距離を縮め、実力に関しては今更とばかりに、逃げ出そうとする彼女の首根っこをがっしりとつかんだ。
「それで?何を話したのかな?」
「その、実力を認められない人が多いから……だから、その。えっと………」
「そのこ、貴方の為に自分のほうが圧倒的に弱いって宣言したのよ」
「アンジェっ!」
「マジか」
間に割って入ってくれたアンジェさんを希望のように見るラナーだが、僕は逆に絶望しかない。どこにBランクに「強い」といわせる存在。しかも、もうすぐAランクに手が届くのではないかと、ひそかに噂されているラナーだ。
誰ともつるまず、基本的にソロプレイでどんな魔物でも確実に討伐して見せる存在。この町どころか、国を挙げて彼女を目指す冒険者やあこがれる貴族は少なくない。そんな、雲上の存在であり稀代の冒険者でもある彼女をして「強い」といわせる冒険者。注目されないはずがない。
しかも、その相手がレコードホルダーなのだ。何をしても、無視などできようはずがない。
「それで、僕は今日は注目されているのか。しかも、どう頑張っても取り戻せない感じで」
「ちなみに、これは私だけじゃなくてマリーさんが協力してくれた」
「もういいや」
冒険者ギルド側も動いているとなると、もう僕にはどうにもできない。マリーさんは僕の担当だし、情報なんてすでに出回っているだろう。彼女の几帳面な仕事ぶりは、セラ様が僕の実力を買っている時点で納得だしなぁ。
「はぁ、諦めたよ。でも、僕はCランクとしての活躍しかしないからね?」
「ん、実力をどれだけ発揮するかは、ルインさんの自由」
「ええ!冒険者で実力があるのに勿体ない!どこまでも稼げるし、有名にだってなれるかもしれないのに?貴族だってっ!」
「いや、興味ないし」
「うん、私もそれには興味ないかな」
「冒険者は誉ある勇敢な者の証ですが、貴族はやめた方が良いですわよ」
うん、貴族だけは嫌だ。責任とか面倒だし、人の上になんか立ちたくないし、期待もされたくなんてない。冒険者として目立ちたくないことには同意してもらえないけど、何故かセラ様含め同意を貰うことができた。
うん、セラ様それでいいのかな?
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