第10話 護衛依頼

「本当に連れてきてもらえるとは、思ってもいませんでしたわ」

「条件が変わりますが、よろしいでしょうか?」

「一応、リーダーに確認してきますわ」


そう言って少し離れたところで腕を組んでいるアイシャさんのところに、セラ様は向かっていった。アイシャさんは諦めが良くて正直でまっすぐ、一方でセラ様は貴族としての性質か、裏工作まで徹底している。何より、交渉で手を抜かない。


「でも、意外だな」

「何が?」

「ラナーが今回の依頼を受けたことかな」

「この間会話できなかったからね。どのみちついてくる予定だった」

「なるほど」


この間ってことは、炎熊の時かな?確かに、ラナーサイドも忙しそうだったけど、数回言葉は交わしたと思うんだけどな。その時の再会も結構久しぶりだったっけ。

最近は僕はもとより、ラナーも活動が適当になりつつあるからなぁ。


「それで、セラ様との会話の結果は?」

「彼女一人の問題であれば即了承を貰える内容だけど、実際にはわからない。だって、彼女たちはパーティーだから。普通、こうした内容はパーティーメンバーで折半するのが常識なんでしょう?」

「そうは言うけど、僕はともかく君にした依頼報酬を全額支払うのは、彼女たちには厳しいと思うよ?」


僕の指摘に「それはちがない」と言いつつ、ラナーはゆっくりと彼女たちのもとに歩き始めた。その背を見届けようとしたが、それを邪魔するように、後ろに一つの気配を探知した。

これは、ゴブリンだな。あと、その後ろにコボルトが隠れているか。速攻で片づけて来るか。


「ちょっと戻る」

「はい、お願いします」

「ん、よろしく」


まだ話し込んでいる彼女たちに声だけかけて、僕は速攻で敵を排除した。二つの魔物が落としたアイテムを回収し、僕は来た道をのんびりと引き返した。

帰ってくると、パーティーメンバーの中にラナーが紛れ込んでいた。楽しそうには見えないが、ある程度受け入れられていることは理解できた。


「あっ、帰ってきた!」

「ああ、久しぶりですね、アイシャさん」

「といっても、前回はこっぴどく振られたんだけどね」


アハハと、豪快に笑い飛ばして見せるが、その瞳の奥には不安が見える。当たり前だ、前回手ひどく断って、ラナーのことを進めたのだから。何か裏があるとか、別の目的があるのかと、考えてしまって当然だ。

でも、それは今回は意味がない、いい警戒心だとは思う。


「今回僕がセラ様から受けた依頼は、護衛のみです。そしてラナーが受けた依頼は、僕の勧誘です。ただ、僕は面倒だしアドバイスなどを要求されても、受け入れる気はありません。そこで、彼女に一つ条件を出しています」

「そう、今回護衛をするのは私。私が守るから、ルインさんが守るよりも安全……………………な予定」

「そこは断言してくださいませんかっ!」

「断言してくれ、ラナー」


僕の声とセラ様の突っ込みが同時にダンジョンにこぼれ落ちたが、ほかのメンツは口を開けて驚いていた。当たり前だ、何がどう転がれば、CランクどころかBランクという一握りの天才の領域に足を踏み入れた人に護衛をしてもらえることになるのか。

それこそ、Cランクはまだ国全体で見ればかなりの数がいる。だが、Bランクなど国単位で見ても、ほとんどいない。Aランクなんて、手で数える程度。

そんな領域にいる少女に、無料で護衛をしてもらえるなど破格すぎる。ただ、それ以前に僕の捜索及び勧誘の依頼をしているので、その報酬は必要になるだろうが。


「あの、本当にいいんですかっ!?」

「え?」

「私たちみたいな低ランクの護衛なんて」

「かまわない。ルインさんがいるし」

「そ、そう」


なぜ僕がいると許可が出るのだろうか、期待したまなざしでこちらを見ているラナーの真意は僕には理解できない。まぁ、こうして彼女が回りと関係を構築していくことができれば、有事の際には安心だろう。僕の場合、完全に敵認定されてるから、孤立、孤軍奮闘はあたりまえだけど、できるだけそれは少なくしていきたい。


「う~ん、僕のほうを不思議そうな目で見てもだめですよ?理由は知りませんし。あ、もちろん戦い方のレクチャーとかはなしですよ?」

「まぁ、今は護衛してもらえるだけでもうれしいかな。私たち、今回は特例で許可されたけど、本来はだめだしね。それに、特例が出た理由も、すぐにBランクのラナーさんが合流してくれるからだしね」

「いや、僕もまさかラナーの名前を出すだけでダンジョン先行が許可されるとは思わなかったですよ。いや、さすがはBランクですねぇ」

「いざとなれば、上階層のすべてを凍らせれば間に合うからね。当然だよ」


淡々と、なんでもないように言ってのける彼女の言葉に僕以外のメンツは顔が引きつった。今回ばかりはセラ様も想定外なのか、ちょっとだけ顔を青くしている。

これだからBランクの人外は嫌なんだよね、どんな干渉力、魔力、コントロール力をしているのだろうか。やめてほしい。僕にはそもそも、そんな魔力も何もないのだから。


「さて、長話をしている時間はここら辺にして移動しましょう。皆さんのパーティーの護衛は、この通りラナーがします。依頼料は既に確約されているので、支払いの詳細は後程、パーティー間で話し合ってください」

「え、ええ。承知いたしましたわ」

「ああ、わかったよ」

「「うん」」


放心している皆さんの背中を押して、僕とラナーはゆっくりとダンジョン攻略を開始した。




「へぇ、思ったよりはできるんだね」

「そうだな」

「でも、うん。決定打があるのに、それをうまく使えてないね」

「そうだな」

「シーフをしている子の動きは良いけど、ちょっと邪魔してるね。彼女を中心に組み立てるほど、動きが良くないから、皆がフォロー損してるね」

「そうだな」

「リーダーのアイシャも、指示が少し遅いね」

「そうだな」

「むぅ、そっけない」

「当たり前だろ」


暇なのだろうか。ひたすらに彼女たちの戦いに文句を言いつつ、僕にアドバイスをさせようとしている。ラナーは、こんなこと慣れないだろうに。彼女の言っていることは間違ってないから、否定はしないけど表立って肯定もしない。ただ、その飛び火は僕ではなく、彼女たちに突き刺さっている。後ろから、自他ともに認める天才からダメ出しをされているのだから。割と自覚あることを。


「ルインさんは本気で何もしないんだね」

「え?うん。これは付いていくだけでお金が貰える、それだけの仕事だから。だから、許可したのにそれ以上仕事したら、損するでしょ?」

「うん、その通りだけど卑怯だね」

「なんでもいいよ、稼げれば」


僕のやり方は汚いけど、完全合意の上だからなぁ。卑怯だし褒められた方法じゃないが、今回の依頼は受けて大成功だ。ピクニック気分で、ゆっくりと歩くだけ。散歩がてら適当に会話して、報酬だけでは足りない金額を稼ぐために時折炎熊などの強敵を討伐する。

今回の依頼内容だと、僕が倒した魔物の報酬は僕が貰えるんだ。ボチボチ稼いでいこう。

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