第4話 買いものと教師役

炎熊押し付けられて、ダンジョン6階層丸っと凍り付く事件から数日。結局、僕は冒険者ギルドで、何故か冒険者を見殺しにしようとしたということで厳重注意を受けた。スキンヘッドパーティーが死にそうなのを見ていたのは事実だけど、嵌められてしまった。

とはいえ、今回に関しては女性パーティーのほうがフォローしてくれたので助かった。彼女たちの助言のおかげで、双方厳重注意になったし罰金もなかったし助かる。


「もう、あまり変なことしないでくださいね。私もフォローできない案件はたくさんあるんですから」

「すみません」


僕がこの国で冒険者を始めた時から担当してくれる、マリーさんには小言を言われてしまった。ついでに「それと、最近私のところに来てくれなくて寂しいです」と、子供のように言われると、なんだか罪悪感で死にそうだった。


まぁ、そんなこともあったが今日の僕は月に一度の定休日だ。今日は、ダンジョンで痛めてしまった大鎌以外の道具を修理してもらう。いつも通りの鍛冶屋で、いつも通りの注文をする。鍛冶屋のおじさんとは懇意にしているわけでもないが、「今日もいつも通りだな」「ええ、お願いします」「金はそこにおいておけ」「了解です」という、短いやり取りですべて完結するのは助かる。

そのほか、小物の補充と適当に新しい装備を確認していると、自分が想像しているよりも時間がかかるものだ。

女性の買い物が長いと、冒険者ギルドでは愚痴をこぼしている人も多い。ただ、こうして実際に一人で買いものをしていると、いろいろ目移りして長くなってしまう。そう思うと、彼女たちの気持ちもある程度理解できそうな気がしなくもない。


「あっ、ルインさん」

「ん?ああ、アイシャさん。先日はどうも」

「あれはこちらがお礼を言うべきですよ。でも、そうだなあ」


町中を探索していれば、見知った顔を見ることも少なくない。でも、こうして声をかけて来る人は一握りだ。今回は、例の一件で助言してくれた女性パーティーのリーダーである、アイシャさんだった。


「何か、僕にやらせようとしてます?」

「あはは、ばれた?実はね、君に戦い方を教わりたいんだ」

「戦い方、ですか?」


彼女たちは既にDランクに近いパーティーだと聞いている。結成してまだ数か月で、炎熊相手に善戦するし、ちゃんと引き際を見極める戦闘計算もできる。正直、僕に何を教わりたいんだろうか。ただ、「はい、お願いしたいんです」という彼女の目は真剣で、どこか思い詰めているようにも見えた。


「そう言われても、あなたは何を使うのですか?」

「わ、私は片手剣がメインだよ。サブで短剣を使用中!パーティーには、シーフがいて、その子は短剣での戦闘がメインで、攪乱するような戦闘が得意かな」

「な、なるほど」


食い気味に返答してくれる彼女をドウドウと、馬をなだめるようにしながら僕はどうしたものかと考えていた。正直、この話を受けても僕には何もメリットがない。メリットがないし、報酬をもらったとしてもそれは10階層より下で得られるものよりは少ないだろう。

デメリットとしては、時間と金と、そして悪評だ。彼女たちのサポートをしたいと思っているギルドのメンバーはほかにも沢山いそうだしなぁ。


「一つ、聞いてもいいですか?」

「何かな」

「これは、誰の入れ知恵ですか?絶対に、あなた一人の発案じゃないですよね?」

「あはは、本当にばれちゃうんだ。今回は、マリーさんに言われて、来てみたんだ」


マリーさんか、なら仕方ないかぁ。彼女の使用武器が、片手剣という時点で何可変だと思ったしなぁ。それに、万年Cランクに教えを乞うことは、上を見て頑張ろうとしている彼女たちからしたら、目標にはなりえない存在だろうし。

でも、そうか。マリーさんに頼まれたら、即座に行動できたのかな?


「それで?マリーさんに頼まれた事は、うん。この際理解できましたけど。でも、決め手は何?知ってると思いますが、僕は万年Cランクですよ?」

「そこまで見抜かれちゃうんだ。これは、手厳しいね」


潔く自分の落ち度を認める彼女は、素直に「ごめんね」といった後に僕の預けた短剣を盗み見したということを教えてもらった。気が付かなかったけど、あの時にはすでに僕のことを観察していたらしい。で、遠目にあの短剣とすり減り具合を確認して、即座にギルドに行ったらしい。マリーさん僕の過去を聞き出し、その実力の確認も済ませているのだろう。


「それで、今この店の外には貴方のパーティーメンバーがいるのですか………なるほど、最近感じていた視線はあなた達だったんですね」

「それはごめんなさい」

「それで、なぜ教師役が必要なのですか?」


この人たちのパーティーは、そこまでバランスが悪いようにも見えなかった。それに、僕の勝手な感想だけど個々人のレベルもランク相応でDランクとして活動する分には困らないと思うけどなぁ。


「簡単だよ」


彼女はそこで一度言葉を区切ると、深く息を吸い込んで決意を瞳に携えて、燃えるような決意と意思を隠すことなく僕にぶつけた。


「Aランクパーティーになる。そのために、必要なんだ」

「ですが、僕は万年Cランクですよ?」

「そんなの関係ない。君の実力は、少なくとも私の目にはCランクに見えた。でも、私の知り合いの一人が、君のことを高く評価しているんだ。その子は貴族でね、多分彼女の判断は間違っていないと思う。私は、あなた本人のことは直接的にはよく理解してないし、わからない。でもね、貴方を知っている第三者を二人知っている。そのうち一人は、私の仲間だ。もう一人は、信頼も信用もできるギルド職員」


パーティーメンバーと、ギルド職員か。しかも、片方は貴族ってことは、僕の過去を徹底的に調査しているってことだろうか。でも、僕の過去なんて調べても、僕の実力を把握できることなんて、大会のことしかないと思うけどなぁ。偽名で出て対策はしたけど、すぐにばれることは間違いないよね。

ま、何はともあれ逃げられないことは理解できた。


「なるほど、承知いたしました」

「ほんとっ!」

「ええ」


瞳を輝かせて嬉しそうにしている彼女には悪いけど、それは勘違いだよ。


「なので、お断りさせていただきます」

「なんでっ!?」

「んー、多分できないからですねぇ。実力不足ですよ、誘うならラナーを誘ったほうがいい」

「彼女は確かに強いけど、規格外すぎて参考にならないよ」


確かに、階層丸ごと凍りつかせる戦闘方法なんて、真似しようにもできないこと。少なくとも、僕にはその技能はないし、真似しようとしてもできないことだな。


「でも、ごめんなさい。僕は教師役には向かないよ」

「そう、ごめんね。無理を言って」

「いえいえ、それでは」


貴族の調査などからは、多分逃げられない。でも、監視されるのは嫌いなんだ。


今度、マリーさんには抗議だけしておこう。

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