第3話 炎熊と氷の一撃

元居た場所に再び戻ると、状況はかなり悪化していた。僕がゴブリンと戯れている間に、前衛をしていたメンバーが炎に焼かれてしまい重症を負ったようだ。そのヘルプで、軽装備の戦士が入るもその力の前に敗北。パーティーの前線が維持できなくなり

、三体の炎熊による絶え間ない物理と炎の攻撃を前にして、ついに崩壊が始まっていた。


「大丈夫っ!?」

「ああ、大丈夫だ。それより、アイツのほうがあぶねぇ」

「大丈夫、あっちのサポートは行ってもらってるから」

「そうか、こんなことから初めから協力しておけばよかったなぁ」

「仕方ないでしょ、そんなことを後悔してもっ!」

「そう、だなっ!」


ただ、まだ誰も死んではいない。後方に戻って回復している前衛メンバーが復活してくるのも時間の問題だ。とはいえ、前衛を見てみれば防具類が溶けているので、これまでのように、気合の入ったダメージ覚悟の防御はできないだろう。


「くそっ、すまん!」

「仕方ないよ、折を見て撤退する必要もあるだろうしね」

「ふざけんなよてめえらっ!ここまで俺らの足を引っ張っておきながら、弁償も何もなしに撤退だとっ!」

「仕方ないでしょっ!?私たちはこれ以上戦えないんだからっ!」


片方の女性パーティーはすでに撤退を考慮しているようだ。ただ、スキンヘッドのガタイのいい男がリーダーを務めるパーティーには、その選択肢はないらしい。まだ戦える、もっと戦える。そう言って、メンバーを鼓舞しつつ自分も最前線で攻撃を往なし、回避し、適度なダメージを与え続けていた。

確かに、炎熊一体であれば時間をかけていけば殺せるだろう。ただ、それはやはり無理があると評価するしかない。殺せるけど、ダンジョン内でやっていい行為ではない。


「はぁ!?俺たちでコイツら相手しろっていうのかよ!」

「じゃあ引きなさいよ!それか、あの子にお願いしたらいいじゃないっ!」

「万年Cランクなんかに頼れっかボゲェェェェエ!!」


いや、あんたのほうがランク低いでしょ?僕、Cランクだから君たちが苦戦しているその炎熊なら余裕で倒せるよ?

その男の気合の入った一撃は、見事に炎熊に回避されてしまった。


「ガアアァァァァ!!!」


獣のような叫び声を上げながら、スキンヘッド男は胸元をパックリと引き裂かれた。気合の入った一撃は回避されると大きな隙になるし、それをカバーしてくれる前衛もいない。ストレスに負けたのか、状況判断ができない状況になったのか。

何にしても、冷静さを失い判断を間違えた時点で彼の負けだ。


「ちょ、大丈夫ですかっ!」

「くそっ!俺たちも撤退するぞ!」


自分がやられた瞬間、撤退を判断したスキンヘッドリーダー。仲間には頑張れっていうのに、自分がまけたらアウトなのか。かわいそうに。

でも、撤退とはいうけどどうするんだろう。


「おいっ!万年Cランクっ!テメェなら、どうにかできるんだろっ!相手しとけ!!」

「え?」

「「リーダーっ!?」」

「ちょ、あんたそれが人にものを頼む方法なの!?」


仲間どころか敵対していた女パーティーにすら引かれている。大丈夫かな、この人。いやまぁ、二つとものパーティーが自分勝手に撤退した結果、僕に役割が回ってくるだけなんだけど。

仕方ないなぁ、このまま放置して死なれても困るし。放置してギリギリで助けてもいいけど、どうせ炎熊を討伐すればそれなりの金になるからな。


「いいよー」


大鎌を構えて、二つのパーティーを守るように構える。振りかざされた大腕を弾き、三体に囲まれるように立ち回りつつ、徐々にパーティーから意識を反らして距離をとる。

その場で即座に殺すのは容易だけど、無駄に返り血とか浴びたくないでしょ。僕はすでに血まみれだから問題ないけどさ。


「すご」

「っち!」

「なんでもいいですけど、早く撤退してもらっていいですか?」


観察してる暇があれば、命大事にしてほしいね。僕の言葉にハッとしたような表情を浮かべると、みんなそれぞれが支えあいながら歩いて帰っていた。僕はその姿をチラチラと確認しながら、炎熊相手に時間稼ぎを行う。


「うん、もういいかな」


気配察知の範囲から出ていく所までは確認した。その先は、もう5階層だし多分大丈夫でしょ。さて、問題は僕のほうなんだけどってっ!


「っ!」


パキンッ!

僕が回避行動をとると同時に、眼前にいた三体の炎熊がその動きを完全に停止させた。


「さぶっ」


同時に凍える風がダンジョン内を駆け巡った。僕のいる場所など、特に影響を受けただろう。地面が激しく凍り付き、いくつかの氷柱を形成している。一瞬で冷えた影響か体がすくむような感じがする。


「あら、人がいたのね。ごめんなさい」


氷で作られた道を歩いてくるのは、一人の少女。銀色の髪を靡かせ、自分のボディラインを強調するかのような戦闘衣装。体にぴったりとフィットして、動きの阻害もしない、切れない、防弾とかなり高性能なバトルスーツ。稼いでいる証拠だ。

その銀髪も、その腰に差された宝剣も、透き通る色の奥底に闇を携えた瞳、豊満な体は男児の視線を独り占めする。


「なるほど、君か」

「あっ!ルインさんっ!」


それまでの退屈そうな表情から一転、僕を発見するとパッと瞳に光を携えて犬のように駆け寄ってくる。


「これ、ちょっと寒いんだけど」

「すこしイライラしてて、出力間違えたの。ごめんなさい」

「まぁ、僕には害がないからいいけどさ。この階層にいる冒険者たち、無事かな?」

「軽くだけど、確認したら大丈夫。でも、ルインさんがいるとは気が付かなかった」


僕、今回は時に気配の隠ぺいしてなかったんだけど。それはつまり、デフォで気配が薄いってことですかね?ひどくないですか?というか、Bランク冒険者で僕とは違って深層で活躍している彼女が、どうしてこんなところに?


「まぁ、なんでもいいや。ということは、今この階層の魔物は殺し放題ってことでしょ?」

「うん。凍ってはいるけど、死んでないから。今日はもう少し下で依頼を受けてるの。だから、私は先に行くね」

「ん、了解。気を付けてね、ラナー」


手を振ると、恥ずかしそうに頬を染め、そのまま彼女は歩いて行ってしまった。それじゃあ、僕は彼女の攻撃がダンジョンの異変と勘違いされるよりも先に、魔物を殺して対策しますかねぇ

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