第38話 冒険者であるが故に

「大丈夫ですかっ!!」

「おおっ!んだよ、手ひどくやられたなぁ!」

「雑魚だからそうなるんだよ。さっさと、降格処分受けちまえよ、カスがっ!」

「そうだそうだ!このゴミがっ!」

「屑はさっさと消えろっ!」


ボロッボロの状態で、ラナーに担がれたまま帰還した僕は、それはもう盛大に歓迎してもらった。いやー、冒険者諸君はこういった時はちゃんと一致団結して、敵を排除しに回るからいいよね。ウンウン、元気そうで何よりだよ。


「殺す」

「師匠、私も加勢しますっ!」

「なんでヤル気なんだ、オフェイリア。止めてくれ」

「むぅ」


頬をぷっくりと膨らませ抗議の視線を向けられても、困る。だって、二人がこんなところで暴れたら、確実に死者が出るし。そもそも、ラナー単体でこの冒険者の山には立ち向かえるのだから、君の加勢は不要だろ?

過剰戦力はよくないと思います!


「はぁ、なんでもいいから報告に行くよ。ラナー、約束通り背負われてきたんだから、そろそろ離して?」

「いや」

「はぁ、それじゃあ仕方ないか。このまま、受付に行こうか」

「それでよし」


ヒートアップし続ける冒険者諸君をしり目に、僕は睨まれ罵詈雑言の嵐の中を運ばれて行く。はぁ、なんでこんなに疲れるんだろうか。

平穏な冒険者生活、それを望んでいたはずなんだけどなぁ。期待されることに疲れて、というかやる気なくして。そのまま、グウタラ冒険者しているのが目標だったんだけど?


「はぁ」

「ため息ばかりついていると幸せ逃げますよって、ルインさんですかっ!?すっごい、傷だらけじゃないですか。何があったんですかというか、その前に治療しないと今すぐ術師を手配しますから」

「いや、傷自体は治ってるんだ。ダンジョンからそのまま帰ってきたところでさ」

「な、なる程ですね。いや、それにしても、傷が多いような」

「あはは」


まさかドラゴンと戦ってきたなどと言えるはずもなく、ラナーの手厳しい視線を無視してダンジョンの異変を切り抜けた説明をした。まぁ、気が付いたら全身焼け焦げた状態で、30階層まで落ちてて、気絶してたところを拾われたってだけだ。

うん、間違ってはない。疑いの視線は向けられたけどね。最終的にあきれ顔で、「はぁ、今日は良いですから、帰ってください。後日、話を聞きますね」と言って、僕は冒険者ギルドから追い出されてしまった。


「さて、帰ろうかな」


追い出された拍子に、ラナーの背中から飛び降りる。僕は自分の家、というか借りている安宿に帰ろうとしたが、それを阻むものが一人。

ガッシリとつかまれた腕は、心なしか熱量が増えていくだけではなくまるで凍てつく氷のような寒さを感じる。うん、というか凍ってる。


「ラナーさん?どうしたのかな?」

「ん、このままだと黙って帰りそうだったから。確保した」

「いや、僕の用事は完了したと思うけど?」

「私がルインさんに用事がある。いい加減、自分の実力をこの世界の為に、有効活用するべき時期が来た。名声を広めた方が良いと思う」

「いやだよ、めんどくさい」

「そう」


諦めたような表情をしているくせに、つかんだ腕を離してはくれない。まったく、どうしてそうも僕に、期待してくるのだろうかねぇ。僕以外にも、活躍している強者は沢山いるし、オフェイリアだって時代を担う戦力だろうに。


「僕にこだわる必要はないだろ?」

「いや、未だにルインさん以上の冒険者を見たことはない。それに、今日のダンジョンでの戦闘痕だけで、理解できる。その大鎌とルインさんのセットは、間違いなく最強だよ」

「まぁ、この王都ならそうかもね」


どうせ、ダンジョンもない帝都に行けば僕レベルの強者は沢山いるだろう。ほかの王国に行けば、初心者育成や、ダンジョンはぐれを討伐して嬉々として戦闘をしているSランクの異常者たちも要るしね。

というか、なんでこの国だけSランク居ないんだよ。困るだろ、僕が。いや、存在したら存在したで、目を付けられそうな気がしなくもない。それは困ったな。


「まぁ、今日のところは僕も帰らせてよ。明日から、また話を聞くからさ」

「………・仕方ない」


流石に疲れている僕を引っ張り続ける気はなかったらしい。素直に開放してくれた。

僕は少しだけ寂しそうにしているラナーに別れと感謝を告げて、今日のところはベッドに入って寝込むのだった。







「あっ」

「遅い」


起きたら、一日が経過していました。

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