第37話 秘密裏に

ラナーにひとしきりの手当てをしてもらって、僕は何とか体が動くようになった。とはいえ、戦闘を熟すにはまだまだ治療が足りないんだけど。正直、足とかなんとか治っているだけで、力入れたら激痛が走る。


「それで、何と戦ったらこんな戦闘跡が残るの?」

「ドラゴン退治」

「伝説の領域に踏み入れてる」

「そんなに?」


正直、ダンジョン内のドラゴンって個体差ありすぎてよく判断ができないんだよね。僕が今回戦った個体は確実に強い部類のドラゴンだとは思うけど、正直もっと上の存在もいるだろう。

とはいえ、僕がその個体たちと渡り合うことはないと思いたいんだけどさ。


「?把握してないの?」

「え、何が」

「ダンジョン、10階層全部突き破ってるよ」

「へ?」


え、は?そんなにぶち抜いたの?

聞いてないっていうか、はぁ?上の階層も下の階層も、同じくらい破壊してるってことか?何それ、絶対にCランクが討伐していいレベルの個体じゃない。


「というか、30階層のここもところどころ撃ち抜かれてるし。これ、どこまで下は行ってるの?」

「知らない、僕もこの階層に落下してきただけだからね」

「派手にやりすぎだよ、まったく」


幼い子供をあやすようにラナーは僕の頭をそっと撫でるけど、いやいやそんな簡単に済ませていい状況じゃないでしょっ!

これ、絶対に地上が大変な騒ぎになってる!


「な、なぁ。地上はどうなの?」

「ダンジョンで魔物が活発化したと思ったら、一瞬で死ぬ現象が起こったんだ。それで、一時的に立ち入りが禁止されてる」

「お、おぉぉ」


マジか、あのドラゴンの支配領域はこのダンジョン30階層分ってことか?いや、この分だと、もっと下の階層でも魔物が死滅してる可能性があるな。確か、現状Sランクの冒険者たちが潜っている最新階層が、60階層くらいだったっけ?

流石に、そこまで影響はないと思うけど、この惨状を見るに周囲の魔物は大抵死んでるしなぁ。35階層くらいだったら、殺しつくしているような気がする。


「え、どうしよう」

「んー、目立ちたくないならもう少し潜伏する?」

「それだっ!」

「今日明日は休んで、ダンジョンが修復されたら戻ろう」

「了解っ!」


異論はない。むしろ、速攻でダンジョンから出て行ったら、其れこそ僕の成果だと証明しているようなもんだしね。ダンジョン内で怪我をして、こっぴどく負けた様子で帰ろう。うん。


「そういえば、その大鎌以外の武器は?というか、それ………」

「あ、ああ、これか?」


今回大活躍してくれた大鎌を、見せびらかすように掲げる。この大鎌、ラナーにも見せたことなかったんだっけ?


「これ、僕のメイン武装なんだ。頑丈で、魔法が使えない僕でも身体強化で適当に振り回せば結構敵を殺せるんだよ?」

「この惨状を見て実力を疑うバカはいない」

「ですよねぇ」

「というか、なんで全身焦げてるの?」


それは、まぁ。確実に、自分の魔法の影響だよね。魔力で全身をカバーしてたけど、最終的に無理だったし。体を覆っていたはずの強化も、最後は全部解除するしかなくて、半分くらい焼けてるんだよなぁ。


「うーん、聞かないでくれると助かるかな」

「そう」

「そ、というか剣も何も溶けてるし。え、本当に何もなくね?」

「ん、この道中何もなかった。流石に、消し炭になったかと心配した」


はぁ、装備一式買いなおしは免れないか~。今回のドラゴン退治は極秘裏だから報酬はもらえないし、圧倒的なマイナスっ!全身痛いから、さすがに治療院通いは必須だし、え?

ゆったりとした、僕のダンジョン生活はどこに行ったんだ。これだから、未知っていうのは困るね。


「でも、ルインさんが冒険してるのは久しぶりだね」

「うん、本気でギリギリすぎて困る。もう、無いようにしたいわ」

「いいじゃん、冒険者なんだし」

「目立って変なことに巻き込まれるのは御免だね。どうやら、英雄の卵も生まれたみたいだし」

「あー、其れか。私のところにも、話が来てたよ。帝都に召集かけられることになってるんだけど、断ってる」

「そうなのか?」


「うん」と言いながら、興味なさそうに自分の髪をいじる。クルクル巻いて、直ぐに話すとパラパラと髪は散布していく。サラサラなんだなぁ、なんて思いつつBランク冒険者にはならないことを、改めて決めた。

絶対に嫌だろ、帝都招集とか。何されるかわかったもんじゃない。


「ダンジョンがないし、帝都にはいい思い出がないしね」

「ん、お前帝都から来たのか?」

「うん」


へー、知らなかった。付き合い自体は長いけど、意外と僕らはお互いのこと知らないんだよな。

まぁ、詮索するようなことはしないけど。冒険者なんて、訳アリの集団だし。巻き込まれたくないし。



僕らは、3日ほどダンジョン内に籠ってから、何事もあったかのようにボロボロの姿で帰還した。

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