第36話 帰還2(ラナー)

ルインさんが、ダンジョン深部にいるドラゴン討伐に向かった……らしい。この話は、マリーさんから聞いたから、確実なはず。確かに、ダンジョンには異変が起こっているし、ドラゴンがいてもおかしくはない。

そして、マリーさんもルインさんの実力は知っているから、多分大丈夫なはず。


「大丈夫ですかね、ルインさん」

「ルインさんが無理なら、王都が沈むだけ」

「ですよねぇ」


ため息をこぼしそうなマリーさんだが、実際にそうなる。ルインさんが無理なら、正直王都の戦力を集結したって意味がない。私もそうだけど、冒険者ランクなんて意味がないのだから。


「今回のドラゴン、どれくらい強いの?」

「どうなんでしょう?過去の文献を漁ると、たくさん情報はありますが。ダンジョ上場階層に影響が出ているってことは、そこまで強い個体って訳じゃないと思いますが。ただ、本来はもっと下の階層で生まれる個体ですし、昔Sランク冒険者たち10人が束になってやっと追い返したドラゴンは、咆哮だけで威圧し戦力を奪ったと言います」

「なにそれ、強すぎ。対処できないでしょ、それ」

「はい、当時の文献によると耳栓とかは無意味だったみたいですね。敵と定める前の、選定に使う攻撃だそうです。ドラゴンからしたら、ただの遊びですね」

「ただの遊びで殺される人類最強って、嫌だなぁ。ね、マリーさん。やっぱり、私のランク下げない?」

「いやです」

「むぅ」


そんな会話をしていると、オフェイリアがケインを連れて姿を見せる。彼女の話を聞きつつ、いつも通りアドバイスをして、いつも通り訓練の成果を見ている時だった。

一つの冒険者パーティーが、傷まみれで帰還した。


「おいっ、どうした!」

「大丈夫かっ!」

「ヒーラーを呼べっ!直ぐにっ!」

「ばかっ、医者も呼ぶんだよっ!死ぬぞっ!」

「重傷者だっ!手当てできるものは!」


バカ騒ぎで賑わっていたギルド内が、別の意味で騒がしくなる。運び込まれた冒険者を見ると、両腕が何かに焼かれて爛れていた。微かに、白い何かが見えるし、その一団が入ってから人体が焼ける、嫌なにおいが充満している。

オフェイリアは経験のないその匂いと、飛び出た人の骨と内臓、えぐり取られた手足を見て、その場で嘔吐している。これは、一生慣れたくないし慣れたらだめなことだろう。


「どいてっ!」


応急処置を訴える一団を押しのけて、私はその死にかけの冒険者たちの前に飛び降りる。即座に、彼らを凍結処理した。


「おいっ!何してっ!………ガハッ!」


怒り狂った表情で掴みかかってくる相手を、叩き伏せる。面倒な、いちいち構ってる暇はない。


「これで悪化しない。仮死状態にしただけだから、解凍すれば復活できる。だから、早くヒーラーを連れてきて」

「あ、ああ」


冷静になった一面が、再度行動を始めた。こういう、強者の言葉に従う所は、冒険者の便利なところだなと思う。しばらくして、ヒーラーや医者が到着すると、私が部分的に解除していった魔法に合わせて処置を施していく。仮死状態ですべてを凍らせていたため、菌で化膿することもなくなんとか一命をとりとめることに成功した。


「で?何があった?」


彼らを運び込んできた冒険者に話を聞くと、意味が分からなかった。21階層を探索中、急に地面が盛り上がったと思ったら爆発。急に下から攻撃を受けた彼らは、気が付いたら23階層にいたらしい。なんとか回復し、行動を起こした瞬間、ダンジョンが揺れて、再び落下。24階層まで落下した後、なんとか21階層まで戻ったところで、突如マグマのごとき炎にその身を焼かれたみたいだ。しかも、何度もその炎は20階層まで到達し、時には黒い炎がその身を焼き尽くそうと襲い掛かってきたとか。

周りにいた魔物たちは唐突に死に耐え、そのすきを縫ってダンジョンから脱出してきたらしい。


この話を聞いて、私は即ダンジョンへ駆け出した。絶対に、ルインさんがヤバいものと戦っていると確信したから。

負けることは絶対にないと思うけど、あり得ないけど。




ダンジョン内は、異常事態だった。魔物が一匹も出ないし、報告にあったように20階層になると地面が溶けていた。溶けたまま燃え続け、その業火は徐々にダンジョンを侵食してすらいるように見える。

ぽっかりと空いた大穴は、人ひとりどころか、民家10軒程度ならように収納できる程の面積がある。その大穴をよく見れば、溶けているだけではなく削り取られ、抉られ、切り取られ、破壊されているようだった。明らかに、人外による仕業、およそ人間に許される行いであるとは、思えなかった。


警戒しながら、その大穴に飛び込み、ついに私はそれを見つけてしまった。




全身血まみれで、両手足がぐちゃぐちゃになっている、ルインさんの姿だった。しかも、30階層という、意味の分からない階層で発見した。


「やぁ、ラナー。ポーション、ある?」


激痛で今にも死にそうなのに、ルインさんはいつも通りの表情で私にそう言った。

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