第32話 ドラゴン攻略3 大鎌の使い方
さて、本当にどうしたものか。
大鎌は殺気吹き飛ばされたところに落としたけど、絶対に魔物に奪われていると思った方が良いだろう。ただ、あの大鎌だ。使える魔物はゴブリンキングか、コボルトの強化種に限られ………え、強化種いるじゃんっ!
「最悪だな、マジで」
短刀を正面で構え、迫りくる雑魚を切り伏せていく。まっすぐにドラゴンの胸元めがけて駆け出したい衝動を必死に抑えながら、迫りくるゴブリンキングの一撃を躱してその棍棒を足場とする。即座に飛翔するのではなく、その首を切りさいて押し倒し、背後にいた魔物を押しつぶしつつ、僕はその場から飛びさる。
徐々に体の方は魔力を使って回復しつつあるし、身体強化をし続けてこのまま一週間は戦えるけどその前に体力が尽きる。一瞬で終わる。
「短期決戦はこの数相手にできないけど、少なくともあの目は潰さないと。や書きすぎるな」
ドラゴンの目は、この場全体を監視している。そして、支配系統のスキルのようなもので、アイツはこの場の魔物をすべてコントロールし、俺の行動を一手先で封殺してくる。
今も、右の抜け穴を突貫しようとしたが、即座に分厚い壁が構築された。まるで機械のように意志のない人形として戦っている魔物たちだが、その実自分の意志で戦うよりも強いのだから、笑えない。
「ガアァァァァァッッ!」
「邪魔っ!」
目の前に飛び出したハウンドを切り捨て、コボルトの首もまとめて切り飛ばす。自分の血で汚れた服は、更に返り血で真っ赤に染まる。
もう、なんでもいいや。どうせ、この服は捨てることになるし。
「短刀だけ、守ろう」
刀は切り方を間違えると直ぐに切れ味が落ちる。ただ、剣よりも切れるし軽く取り回しが良い。大鎌で損している分、ここで稼いでいるのだが、あくまでサブウェポンだ。
そこまで頑強で頑丈で、長期戦闘をできる代物じゃない。早く、早く大鎌を………
「どこだよ、大鎌っ!」
一応、吹き飛ばされたところまでなんとか戻ってきたんだけど。やっぱり、僕の大鎌は存在しないし、何ならそれを所持できそうな魔物を周りにはいない。
これは、絶対にドラゴンのせいで反対側にいるパターンだな。僕に大鎌を絶対に持たせないつもりらしい。
「なるほど、でも、そうか。お前、俺でも殺せるってことだよな?」
ドラゴンの行動は、僕にその核心を抱かせるには十分だった。そして、自分でも口の端が、意地汚く盛り上がっていくのを実感している。
これはあれだ、アレ。高揚ってやつだな。
「いいよ、短刀でも殺してやる」
いうが早いか、ドラゴンのブレスを紙一重で回避すると、僕は目の前のゴブリンとコボルトたちを足場に、ドラゴンめがけて襲い掛かる。
その首元へとびかかろうとした瞬間、コボルトの強化種が目の前に出現するが、関係ない。今、お前に構っている時間などないのだから。
「邪魔なんだよっ!」
空気を踏みしめ、回し蹴りで吹き飛ばす。もちろん、ドラゴンの口元にだ。
「ボゴゴオォォォォォ!!」
「ギャウンッ!」
「あぐっ!」
コボルトの断末魔が可愛らしく響き渡ると同時、用意されていたドラゴンブレスは口元で爆発した。余波で俺自身も吹き飛ばされるが、着地した瞬間走り出す。
ち、血がべっとりつきすぎてちょっと滑るな。
「はああぁぁぁ!」
「ガアァァァァァ!!」
ドラゴンの鉤爪を短刀で受け流し、その巨椀に押しつぶされることなく隙間から脱出。そのまま腕を駆け上がろうとしたが、首元でひりつく感覚を覚えて即座に回避。
空中に逃げ込むと同時に、ドラゴンの腕が容赦なく壁に殴りつけられた。
「あっぶなぁ」
安易に敵に乗るもんでもないな……って、運がいいぞ。回避した足元には、まさかの大鎌を持った、強化種のコボルトがいた。てっきりキングの方かと思ったが、たしかにこっちの方が厄介だもんな。
まぁ、僕には関係ないけど。
「僕の大鎌を、返せ!」
着地し、地面と平行になる速度で駆け出す。3歩で、敵性個体を20匹ほど始末し、踏み出した4歩、5歩目で周囲を守っている敵を一掃する。瞬間的に切られた奴らは、自分が死んでいるのか自覚できていないのだろう。
攻撃モーションを取り始めて、ようやく首がその体からオサラバしていく。
「よう、強化種。それ、僕の何だよ。返してもらうね」
「バウウゥゥゥッ、バッ!」
「「「ギャアァァァァオオオオオオオオ!!!!!」」」
「面倒な」
味方の士気を上げると同時に、多方向からの一斉攻撃。しかも、目的の本人はこの場から逃走という、一番面倒な形で。
「止まれ!」
急いで斬撃を数発飛ばし、運よく一発が片足を吹き飛ばした。ただ、その近くにはゴブリンがいるので、まだ安心はできない。
「うぐっ!」
背中が焼けるように痛いっ!何かが止め止めなく、あふれ出して以上に熱を持ち始めた。くそ、切られたか。毒はなさそうだけど、失血死しないよなぁ。
ゴブリンを排除し、大鎌を回収しようとしたことが失敗だったか。いや、でもあの大鎌を前に我慢することは無理だからな。
「いってぇなぁあああっ!」
切りかかってきた敵を、まとめて短刀で切り飛ばす。高さが揃っているからか、面白いように首が宙を舞い、あたり一面に血の雨を降らせる。
おそらく僕の首元を切った主犯も、今の一撃で首が飛んだだろう。
「よし、大鎌回収。ポーションもよし」
体に雑にポーションをかけ流して、傷がいえていくことを感じつつ、僕はドラゴンへと再度駆け出す。この大鎌、奪い取られるのは想定外だったのか、ドラゴンはその金色の瞳を大きく見開き、今度は知覚で来た。
その巨大な尻尾を、真上から振り下ろしてくる。
「もう2度と、同じ手を食らうか」
バチバチと、魔力が可視化されて弾き始める。まるで、雷の魔法のように魔力そのものが属性を持っているのか、そう錯覚するほどに。僕は、入念に丁寧に、幾重にも魔力を練り直し微調整を重ねる。
うん、大丈夫だな。これなら、行ける。
「我が身を燃やし憎悪をもってこの世界に闇をもたらす。神々が与えし炎は、今この時反転する。漆黒の炎よ、猛き憎悪よ。すべての闇を携え、世界の歩みを阻む業火となれっ!」
久しぶりの詠唱、久しぶりの行使。
ちょっとだけ手間取ったが、僕の大鎌は目のまえのドラゴンにも勝るとも劣らない、黒い炎をその身に纏う。小さく振れば、その延長線上にいた魔物たちが蒸発し、蒸気となって一瞬のうちに消える。その先では、小さな爆発が発生し、一気に数百体規模で魔物の殲滅を行うことに成功した。
「まさか、奥の手を使うことになるとはなぁ」
呟き、いつの間にか空を舞い始めたドラゴンを僕はキツク睨みつける。
ここにきて、初めてドラゴンは僕を敵と判断したらしい。
「さて、本番はここからだぞ」
血まみれで、全身傷まみれのぼろ雑巾の状態だが、威張るように胸を張って宣言した。
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