第27話 感動の再会らしいです
オフェイリアたちがすさまじい活躍をしている中、僕は一人でダンジョンを攻略していく。ダンジョンは毎回上階層からコツコツと攻略していくしかなく、長期遠征をする時には、僕のようなCランクを雇って護衛をさせることもある。
何度かそういった依頼を受けた事があるけど、正直一回やれば十分だ。報酬は最低限、それでも上級冒険者が万が一の時は守ってくれるから安心できる。ただ、だからと言って普段いかないような階層まで行くので、ケガやアイテムの消費量が半端じゃない。いい経験を積むことはできるが、時間対費用、費用対経験を考えた時にはあまりお勧めできる依頼ではない。
まぁ、冒険者ギルド側からはしたら無駄死にする冒険者と、深層攻略を確実に進めるためには、できるだけ多くの人に斡旋したいものである。
「とはいえ、今回の僕がその依頼を行うには無理があるだろ」
今回僕が受けた依頼は、内密に行いたい。それに、自分でも受けたくないと思っている依頼を、人に頼むのもいやだ。だから、自分一人で黙々と探索を行っているのだが、理性と感情はやはり反対に稼働してしまうようだ。
「まじで、この雑魚狩りがめんどくさい。投げつけたい、この仕事」
迫りくる魔物の数々を登場した瞬間から処分していく。ダンジョンは階層を重ねる毎に、敵のレベルも上がっていく。正直、Cランクになればどこまでも潜ろうと思えば潜れるのだ。ダンジョン内には関所なんてないしね。
「さて、もう少しで目的地か。ちょっと休憩したいな」
淡々と潜っていけば、想定している時間内で目的地には到着できる。根を詰めすぎても仕方ないし、適当な岩場を探して休みたい。もう一階層下に行くための道を見つけたら、その入り口で休みたいんだけど………。
「マジかぁ………」
そうつぶやく僕の前には、大量の魔物たちが出現した。こればかりは仕方ないのだろうが、そんな10体も20体も一気に湧かれても困る。僕は広範囲殲滅系の魔法は使えないんだよ?
「グゥウゥウ」
「ルゥゥゥルルゥゥゥウゥゥゥゥ」
「ウゥゥ」
「ガウウウッ」
「バウッッ」
「ん?」
戦闘を開始しようと大鎌を担ぎ上げて、その異変に気が付いた。魔物たちが襲い掛かってこない、それどころかこちらを強く警戒しているのだ。どうしたんだろうか、普段は理性も何もなく、互いに生き延びるために殺し合いを始めるというのに。
これは、あれか?ドラゴンの影響なのか?
「「ギャッゥ!!」」
「いや、それはおかしいか」
左右から襲い掛かってくるゴブリンを即座に切り刻み、大鎌の柄の長さより内側へ侵入すると同時に切り刻む。即座に首を跳ねて、返り血を浴びない角度でその図体を投げ飛ばしていく。
一撃で殺せるが、面倒な敵ではある。だが、僕が見せた明らかにある隙に対しても、目の前の20体の魔物たちは反応せずに、冷静にこちらを観察していた。
「なんだろう、敵なら切り刻むけど。邪魔したいだけなら、どいてくれない?」
「ルゥゥ!」
「ガウゥッ!」
「意思疎通は無理だよなぁ」
反応してくれるだけましだが、どう考えても殺意マシマシだ。この殺意を前に、素通りすることは無理だとわかるけどさ。う~ん、仕方ないか。
「ここで死んでくれるかな、悪いね」
うめき声を漏らしている魔物たちに、僕は容赦なく襲い掛かろうとした。いや、実際に一歩踏み出した。その瞬間だった。
「――っ!!」
「ガァァァァァァァァアァァァァァァ!!!!!」
怒号が響き渡った。
自分の意志に関係なく、攻撃の為に踏み出そうとした二歩目を踏み出せずその場に停止した。これは、無理だ。同じ階層にはいない、それどころか数階層下の階層でのんびりとしているハズなんだ。なのに、俺のことを知覚して的確に威嚇してきた。
正直言って、ちょっと怖い。久しぶりに背筋に嫌な汗が流れるし、動きを威嚇で止められたのも久しぶりだ。
「うん、素直に怖いな、これは」
怖い、その感情を素直に受け入れて初めて気が付いた。知らない間に、握りこぶしを作っていたことに。ギュッと普段よりも強く握った鎌の柄は、その力を受けてプルプルと小刻みに震えている。
いや、これは………………。
「なるほど、お前らはずっと知覚していたのか。この化け物を」
今回の魔物、どうやら僕らの想像を軽く超えて来るらしい。まずいな、僕の装備だとちょっと回復役が足りないぞ。正直、ドラゴン一匹の威嚇で自分の足が止まるなんて思っていなかった。
「うん、ちょっと出直そう」
ごめんなさい、マリーさん。少し時間がかかるかも。
そう思いながら、僕はこの日の探索を辞めることにした。
それは、冒険者ギルドに一応戻った時の事だった。
「よー、兄ちゃん。今日はどこまで潜ったんだ?」
「今日は、炎熊を見つけたので10階層までです。本当はもう少し潜りたかったんですけど、この間手ひどく傷を負ったので……」
「がっはははは!テメェには、まだ早いか?」
「いえ、絶対に軽く討伐できるようになってみせますよ」
元気よく会話する少年と、それに絡む強面の冒険者。見ている分にはいつも通りの光景に感じるんだけど、何だろう。あの青年、見たことはないけど嫌になじんでるなぁ。
というか、この王都ギルドで初心者がこうして先輩と心置きなく仲良く話しているのは珍しい光景だな。
「で?テメェ、いい加減パーティーは組んだのか?」
「それが、あまりうまくいかなくて………。できれば、同じくらいの実力者がいればいいんですけど」
「あー、それは厳しいかもなぁ。一年目のお前と素直に組んでくれるメンツは、そうそう居ないだろ」
「いやいやいや!!俺なんて、本当に大したことないんですって!」
「あ?んだとぉぅ!!っつーと、俺はさらに下だっていうのか?」
豪快に笑いあいながら、急に飛び出してきた冒険者に絡まれる彼。なんだろう、眉目秀麗で目を引くし、透き通るのに芯があるしっかりとした声。そこにいるだけで、ちょっと目を引き興味の対象になってしまう、カリスマにも似た存在感。
ただ、そのすべてを差し置いて、な~んか見たことがあるような気がするんだよな。いや、見たことがあるというか聞いたことがある?なんだっけ、誰から聞いたんだっけ?
そんなことを考えていると、ギルド内が一層と騒がしくなる。何事かと考えるよりも先に、そのきれいな声が喧噪にまみれた雑なギルド内に響いた。
「明日もダンジョンで訓練ですね、師匠!」
「ん、それでいい。もう、オフェイリアは私がいなくても大丈夫だしね。明日からは、お目付け役なしだね」
「そ、それはちょっと、怖いですね……」
「じゃあ、やめて帰る?」
「やりますっ!!」
うーん、スパルタ。まるで姉妹の様に仲睦まじく話しているのに、なんでこう。うん、物騒な会話になるんだろうか。
「お、オフェイリアッ!!」
「え、ケインッ!?」
おお、感動の再会らしいぞ?
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