第28話 オフェイリアとケインと冒険者と

衝撃的な再会は、しかし感動的なものとはならなかった。喧嘩っ早い冒険者の例に従い、普段は温厚であるはずのオフェイリアも声を荒げて話をしている。

訂正、思い切り喧嘩をしていた。


「オフェイリアなんかが、なんで冒険者してるんだよっ!」

「なんかって何ですかっ!私だって、まじめに訓練して、今だってダンジョン帰りなんですぅぅ~~!!」

「んなっ!そ、そんなこと当たり前だろっ!そ、それに、どうせ隣にいるラナーさんに手伝ってもらってんだろ?ずるしてんじゃねぇよっ!」

「そ、それは、確かにそうだけど!あなたには関係ないことでしょっ!それに、明日からは、自分だけで潜る許可だって貰ったんですからっ!!」

「いや、オフェイリアは自分の実力で戦った。私がしたのは、見ているだけだから、実施質的に意味がないよ?」

「っぅ!!」


燃え上がる二人の間に、何故か反応したラナーが冷静に声をはさむ。

コテンと首を傾げるラナーだが、できれば最後まで自信をもって言い切ってほしかった。というか、何をしているだラナー。ちゃんと仲裁しなさい。

急に始まった喧嘩に、周りの冒険者たちは驚いた様子で固まっていたが、既にそれは過去の話。僕を除き、多くの冒険者が周りで囃し立てる。


「はっ、夫婦喧嘩かよ!」

「いいぞ、やれやれー」

「まけんじゃねぇぞ、ケイン!!てめぇ」

「女だってやれるって見せてあげちゃってー!!」

「軽くひねってやれ!」


囃し立てている冒険者に呼応するように、オフェイリアとケインなる冒険者の喧嘩は盛り上がっていく。お互いに手を出すことはしていないが、なんだか見ていて面白い。


「私とルインさんは喧嘩しないけど、普通はこうなるのかな」

「うん、なんでお前は仲裁辞めてこっちに来たんだよ」

「無理だよ」


喧嘩を止めるのは無理だったそうだが、諦めが早すぎるだろ。もうちょい、ほら、粘ろうぜ?


「じゃあ、ルインさんは止めれるの?」

「無理だな、うん。僕たちは今日、何も見なかったことにしておこう」

「それが良いよね」


なんだかんだ、オフェイリアの弟子入りをお願いしてからラナーとの関係は切れずにいる。というか、お願いした手前こちらから無理に距離を取るのはおかしい。

僕らが一緒に飯を食べていると、嫌に注目される。昔のことを知っている人たちは何でもないように見ているが、僕がCランクに上がってからしか知らない人は物珍しそうにする。

この視線にも、最近は慣れてきた。


「ルインさんは、ちょっとだけ変わったね」

「んー、そうだな。それが良い変化なのか、悪い変化なのかは知らないけどな」

「うん、わからないけど。でも、ルインさんが苦労している感じもするけど、楽しそうではあるね」

「楽しいのか、これは?」

「どうだろうね」


お互いに一切に後ろは向かない、態々振り向く必要性もない。なぜなら、こちらをギラついた眼で見ている男どもの視線が、痛いほど刺さっているからだ。なお、普段は鈍感であるラナーの方も、「なんか、何時も以上に居心地が悪い」と言っていた。

うん、ちゃんと人間に興味を持っているようでありがたい。


「そういえば、ルインさん。特別依頼を受けたって聞いたけど、大丈夫?手を貸す?」

「んー、楽をしたいから手を借りるのも良いけど。今回は遠慮しておくかな。流石に、ここで手を借りてずるをするのは、オフェイリアに顔向けできなくなるからな。僕も、あの覚悟を目の当たりにし引き出した一人の人間として、ちょっとは向き合う必要があるだろ」

「そっか、ならよかった」


まったく、どうしてそんな自分事の様に嬉しそうに笑うことができるのだろうかね。少なくとも、ラナー自身には関係のないことだろうに。

さて、だがこれだけは言っておかないとな。


「でも、BランクにもA,Sにも僕はならないからね?」

「うん、でも楽しそうならいいよ」

「そっか」

「うん」


何だろう、僕はこいつの師匠だったのでは?非公認だけど。

なぜそんなに、慈愛に満ちた視線を向けられるんだ。めっちゃ居心地が悪いって、なんかくるっ!?


「師匠ーーー!!!」

「あ、コラバカっ!!まてぇぇぇええ!!」

「えっ?」

「あ」


僕とラナーが驚きの声を上げた時には既に遅い。オフェイリアと僕の目の前には、二つの顔が、アップで映り込んでいた。

おい、どんな会話をしたらこうなる。


「「っ!?」」

「「「「「さ、さみぃぃ!」」」」」

「ん、さすが」

「危ないでしょ、オフェイリア」

「あ、あはは。すみません」


申し訳なさそうにするオフェイリアに、ラナーは優しく頭をなで諭す。


「いい?子供は放っておけばいいの、話を聞かずに癇癪を起しているだけの馬鹿なんて、相手するだけ無駄なの。それに、弱者の無駄な言葉も聞いても仕方ない。自分が信じてついていくと決めた人の言葉を、まずは信じるの。それ以外の周りの言葉に、意味も価値もないんだよ?わかった?」

「は、はいぃぃ」

「よろしい」


まるで母親が子供を優しく注意しているかのような言葉だ。そこだけ取り出せば、其れこそ良妻ともいえる素晴らしい関係だ。ただ、肝心のオフェイリアの口から下は完全に凍り付いていたけど。


「あの、師匠?さすがに、寒いです」

「大丈夫、貴方は一晩耐えたでしょ?数時間くらい、耐えなさい」

「はい」


ス、スパルタだな。僕、絶対にラナーの下では冒険者になりたくない。

なお、ラナーの氷に巻き込まれた冒険者は半数が気絶し、残りの半数が寒さに凍え、残りは自力で脱出していた。炎系の魔法で溶けたのかな?それとも、限定的だから大丈夫だったのか?

まぁ、何はともあれ。


「少なくとも、オフェイリアが探していた少年は見つかったようで良かったよ」

「はい、でも同じパーティーになることはなさそうです」

「ん?じゃあ、なぜオフェイリアは冒険者に?」

「そ、そそそ、それは。あの、その………」

「ルインさん、その詮索はしたらダメでしょ?」

「そうだな、すまん」


頬を赤く染めて、恥ずかしそうに「すみません」というオフェイリアの頭をそっと撫でて、僕はその場を後にした。


だって、なんか殺されそうな気がしたんだもん。

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