第6話 孤児院と貴族
炎熊の盗伐依頼を受けて、討伐しまくったら思いのほかお金が浮いた。とはいえ、僕の場合は自分の為に使うくらいしかないため、ひとまず家に収めておいた。今頃、有効活用されているだろう。
僕は宿に暮らしているが、その傍らでちゃんとした家も購入している。とある依頼の報酬でもらった孤児院なのだが。この王国で、ダンジョンがあるこの町では唯一の孤児院であり、託児所も兼ねている。一応、そこの責任者というか所有者みたいなことをしている。これは、この土地を収めている領主様にも承諾をもらっているので問題がない。
「はぁ、でも思いのほか最近は孤児が多いらしいなあ」
僕は直接的に経営的なところに携わっていない。僕は監視だけいて、不正などを発見したら、その不正原因の人間を粛正するだ。子供達にはすくすくと、伸び伸びと暮らしてほしくて、陰で支援しているのだ。とはいえ、僕のような万年Cランクがそんなことをしていると知られると、結構面倒。なので、僕はなんも知らないふりをして、ひっそりと生活し、支援だけしている。
「あの、今日は冒険者様がどのような用事で来られたのでしょうか?」
「あー、今日は依頼を受けてきたんだ」
そして、今の僕はその孤児院前で滅茶苦茶に警戒されている。警戒心を隠しもしない、孤児の少年を前に、今日来た要件を伝えていた。ふと奥に視線を向けると、思い切りおびえた表情をしている少年少女たち。どう見ても、僕が誘拐犯と間違われていると思う。
「そんなこと、俺たちは聞いていないけど?」
あー、まずい。めっちゃまずい。今すぐでも、通報されて憲兵隊が来そうな雰囲気になってしまった。奥にいる少女が片手に警報機を持ち、いつでも鳴らせるようにしている。
「いや、本当に依頼できてるから。依頼内容は明かせないんだけど、セシルって子供はいる?」
「セシル?そんな子は、この孤児院にはいないぞ」
「え?そうなの?」
困った、依頼元はここって書かれてたんだけどなぁ。依頼内容は、実際に出会ってから決めるって感じで、多分花摘みか何かだとは思うけど。まさか、依頼主が偽名を使うって、どんな状況だよ。確認取れないじゃないか。
「う~ん、困ったなぁ」
「じゃあ、俺達には関係ないよな。みんなが怯えてるから早く帰ってくれ」
「ああ、そうだな。怖がらせてしまって、申し訳ない」
僕の言葉に「だったら早く帰れよ!」と言いたげな表情をしているが、僕を怒らせないようにぐっとこらえている。教育もしっかりと行き届いているけど、丸腰なのは厳しいなぁ。この辺りは、冒険者が多いから素行が悪い屑も少なくないし。
「警戒心があっていい心がけだ、これからもみんなを守れよ」
「いわれなくても」
最後には威張っていたけど、さてこれからどうしようか。ここではない孤児院があるのなら、別の場所に行かないといけないんだけど。でも、ほかに孤児院がないことは、この孤児院を再生したときに確認しているし、悪徳領主だってその為に始末したんだし。
「あっ!セラ様だ!」
「セラ様っ!!」
「セラ様が来たっ!!」
「ん?セラ様?」
孤児院の前で少しだけ考え込んでいると、遠くから一台の馬車が猛スピードで向かってくる。どうやら子供たちは馬車の色や形をちゃんと覚えているらしく、その馬車が来たことに合わせて、ワラワラと隠れていた孤児院から出てきた。
さっきの門番をしていた男の子も嬉しそうに表情を柔らかくして、その到着を心待ちにしていたようだ。
「セラ様、ねぇ。僕の依頼者は、セシルって人だから多分違うよなぁ」
このままここにいても、貴族に連行されるだけだからなぁ。早めに次の手段を講じるとしよう。うん。今度はちゃんと、孤児院の委員長先生がいる時がいいよな、警戒されないだろうから。
今後の行動を考えつつ、その場から立ち去ろうとした時だった。馬車の窓がガバッと開けられたかと思うと、金色の髪と瞳を携えた美少女が姿を現した。
「待ってくださいっ!冒険者様ぁ~~~!!!」
「ん、僕?」
きれいな声が、孤児院を中心に響き渡った。というか、この場で冒険者って明らかに僕だよね?今のところ、僕以外には冒険者がいないし。
「待ってください~~~!!!」
「はーーいっ!!」
御者さんも手を振って止まれというので、大きな返事をしてその場で待つ。爆走してくる馬車は、僕の前にきれいに停車するとタタッ!と足音を立てて一人の少女が下りてきた。
同じ年くらいだろうか?先ほど叫んだから息が上がり、やや頬も上気しているように見えるけど。なんだろう、僕はそんなに焦らせるような行動をしてしまったのだろうか?
「も、申し訳ありません。は、はしたない姿を見せてしまいましたね」
「いえ、大丈夫ですか?」
「は、はい!だ、だだだ、大丈夫ですっ!」
何だろう、僕よりも明らかに緊張しているんだけど、相手は貴族でしょ?なんで?僕はただのCランク冒険者なんだけど、そんな頬を赤く染めて焦らなくても。
逃げたりしないよ…………?多分、きっと。
「あの、冒険者様は、セシルという名前の人からの依頼できているんですよね?それも、マリー様より直々に依頼を手渡されたで、間違いないですか?」
「なるほど、貴族様でしたか。僕のご依頼主という認識でいいですね」
「はい」
なるほど、偽名を利用して依頼をだしてくれたのか。道理で、なんか依頼を手渡された時に、マリーさんが慌ててたのか。納得だな。
「マリーさんがすぐに行った方が良いというので、理由がやっとわかりました」
「お手数をお掛けして申し訳ありません」
このまま立ち話でもいいかなと思ったが、「お嬢様」と耳打ちをした執事と「そうでしたっ!」と慌てるお嬢様。数回会話を行い、「あの、具体的な話は中でいいですか?」と、少し恥ずかしそうに孤児院を指さす。
「かまいませんよ」
「ありがとうございます。では、馬車のほうにお乗りください。ちょっとした距離ですが」
「あはは、ありがとうございます」
久しぶりに乗った馬車の中は、ちょっと気まず空気が流れていたし、孤児院の中も妙に視線が多くて落ち着かなかった。
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