第22話 魔法使いたち

ラナーの案内で、部屋の中に入った僕たちは話もそこそこにして、早速だが本題に入ることにした。


「それで、話というのはこの子なんだが」

「流石にそれはわかるけど、なんで私に紹介するの?氷属性の魔法使い?」

「いや、それは知らないけど」


そういえば、オフェイリアに関して個別に情報を聞くのを忘れてたわ。僕としたことが、彼女は非戦闘員で今は何もできないと、勝手に決めつけていた。

ちょっとしたミスだけど、馬鹿らしいミスでもある。


「?それならなおさら、なんで私に用事があるの?」

「いや、この子冒険者になりたいんだって。それで、師匠的な役割を担える人材を探していて、ちょうどラナーがいたなと思ってな」

「なるほど、確かにその理由なら納得」


まぁ、僕が師匠役をできない原因でもあるので、話が早い。ただ、ラナーとしては困ったようで、言葉に詰まって言いにくそうにしている。


「私は武器も魔法も決まってるけど、その子に合わない可能性の方が高いよ?冒険者ギルドに行って、斡旋してもらった方がよくないかな」

「え?今はそんなことしてるの?」

「そんなことしてたんですかっ!」


知らなかった、いつの間に冒険者ギルドが初心者に優しく。いや、昔からその兆候は会ったけど、僕の場合は使う事がなかったからなぁ。言われてみれば、何度か勧誘じみたものをされた経験があるが、もしかしてあれは悪徳パーティーではなかったのだろうか?

それは悪いことをした。


「強すぎるのも大変だね」

「お前の場合、強いくせして何故か僕にくっついてきてより楽をしていただろ?」

「あの冒険譚を楽したで片づけるのは、ルインさんぐらいでしょ」

「やっぱり?」


昔を懐かしんでか、頬が緩みちょっとだけだが笑って会話する。ただ、僕らは昔を思い出しているが、肝心のオフェイリアが置き去りになってしまった。これは失敗。昔話も切り上げて、早速本題に戻る。


「で、この子の師匠を頼みたいんだけど、いいか?」

「それは、適性を見てみないとわからない。それに、私は言葉を尽くして、ルインさんみたいにわかりやすくできる自信がない」

「ま、ラナーの場合は言葉は少ないのは確かだよなぁ」

「わ、わたしは大丈夫ですっ!」


健気にも、握りこぶしを作ってアピールしてくれる。ただ、確かにラナーの言う通りで、そういう問題じゃないんだよなぁ。ヤル気根気元気だけじゃ、直ぐに命を落としてダメになるのが、冒険者。

何はともあれ、実力をつけてから話せっていうのが、通例だ。ごくまれに、いろんな意味でヤッカミを受けるけど。


「そうだね、まずは一週間くらいかけて冒険者の適性を検査して、その後判断になるかな。でも、私はBランク冒険者だから、王都に戻る必要がある。一週間以上、貴方に付き添うには、それ相応の理由をつけないと駄目なの。だから、貴方には王都に来てもらう必要が出るけど、問題がある?」

「え、そうなの?昨日の感じからして、結構滞在できるんじゃないの?」

「え?でも、ルインさんが帰ったら、私がここにとどまる意味がない」

「おい」


まさか、僕がここにいる間限定なのか?それは計算外。いや、確かに何もミッションはないって言ってたしなぁ。僕がここにいる間だけ、ラナーがいるんなら僕もここに滞在を延長すればいいか。まぁ、それはこの試練を乗り越えたらの話か。

肝心のラナーは魔物に向ける殺意と威圧を、容赦なくオフェイリアに向けた。無表情で感情を一切悟らせることなく、その無機質な瞳でオフェイリアをにらみつける。オフェイリアは、咄嗟に一歩下がろうとした重心を、唇をかみ切って耐えると一歩前に。


両足を揃え、近くで見なくても分かる程両手足を震わせながら、それでも気丈に笑って見せた。


「で、貴方はどうなの?」

「問題ありません。あなたが行くというのなら、地獄の底までついていきますよ」

「ふふ、いい目をするね」


嬉しそうに嗤うラナーに、ちょっとだけ恐怖心を抱きつつ、一つだけ決めた。僕はこの町に一週間半だけ滞在して、この試験の行く末を見守ろうと。

それくらい、オフェイリアの覚悟を決めた瞳は魅力的だった。本当、面白い。


「じゃあ、貴方は私の弟子候補。誇っていい、初めての弟子になれるかもしれない」

「え?」

「オフェイリア、本当に運がいいね。君は、初めてラナーに弟子候補と認められたよ」

「そ、そうなんですか!よかったです」


花の咲いたような満面の笑みを浮かべ、オフェイリアは安心しきった様子を初めて見せる。そして、そのままバタッと床に倒れこんでしまった。

まぁ、こればかりは仕方ないか。


「すごいね、その子。私、少なくとも剣を抜くイメージくらいは叩きつけたんだけど」

「面白いだろ、この子。死ぬ覚悟ができてるんじゃなくて、生き抜く覚悟を既にできてるんだ」

「うん、私に対しても視線を逸らさなかったけど殺気は向けてこなかった。観察するみたいに、どうしたら逃げられるのか、何をしたらいいのかを考えてたよ。面白いね」


ラナーに見てもらえるなら、この子は僕の想像をはるかに超える強者になれるかもしれない。僕とは違った、陽の下をたくさんの仲間と共に、元気よく歩けるような。そんな、きれいな道を進めるのかもしれない。

その道は、多分僕やラナーでは示すことができない道だ。でも、オフェイリアには先に王都へ旅立った幼馴染がいるからな。安心だね。


「うん、私がこの子は面倒を見るよ。さっきの話ぶりからして、いきなり王都に連れて行くのは厳しいんでしょ?私、3日程度なら見ていこうと思う」

「いや、大丈夫だよ。僕も一週間、君の試練が終わるまで待ってみようと思う。その可否を聞いてから、一緒に帰ろうと思う」

「そう、それはとてもうれしい」


ラナーとしても、彼女の今後には期待しているようだ。僕も期待しているし、前護衛していた貴族様なんかよりはよっぽどいいね。最高だよ。



これからも、僕らを楽しませてくれよ。オフェイリア。


ラナーのベッドで疲れ果てたように眠りつく彼女を見つつ、僕らは小さく微笑んだ。

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