第19話 帰り着くまでが遠足

いろいろと話をしながら、僕たちは出発した町まで戻ってきた。帰路では特に問題に遭遇することもなく、簡単に到着した。途中で魔物には出会わなかったが、いいサイズの獲物がいたので、鹵獲して先ほど兵士に頼んで肉屋に売って貰った。

若干報酬は減るが、自分で交渉するのは面倒なので、僕は割とこの裏システムを活用する。このシステムを利用すると、依頼料としていくらかは兵士に支払う必要がある。


「今日はありがとうございました。明日、この町の冒険者ギルドで報告に行きましょう!」

「いや、先に冒険者ギルドに行ってもらっていいか?」


普通であれば、報酬に関しては後日だろう。この流れだと、今日は解散して明日納品処理を済ませるのが通例だ。でも、僕としてはちょっとした事情があって、この日に納品処理をしてもらえないと困る。

ただ、これが僕の我がままになるので、受け入れてもらえるとありがたいが、その心配は杞憂そうだ。


「了解ですっ!さ、早く行きましょう!」

「助かる、早速行こう」

「は~い」


右手を嬉しそうに上げてニコニコと歩き始める少女の後ろを、僕は少しだけ周囲を警戒しつつ、ついて移動した。




冒険者ギルドの中は、夕方ということもあり混雑していた。これから冒険に出る人も僅かながらにいるが、基本的には僕ら同様に報告がメインだ。納品処理を行いに行く姿を見送り、僕は依頼達成報告を行う。

受付嬢と簡単にやり取りを行い、後日オフェイリア側から依頼の完了報告が行われると、僕に報酬が支払われるという形式だ。なので、基本的には後日報告しようが、今日報告しようが関係がない。

ただ、今日急いで報告してもらったのは一つだけ理由があった。


「で?なぜ、僕の後ろをついてくるのか聞いてもいいか?」

「…………」

「あの。何を言っているんですか、冒険者さん」

「いや、実はこの町に入ってからずっと僕が標的になって後をつけられてるんですよねぇ」

「それは一大事ですね」


この町はよほど平和なんだろうか?僕の報告に対して、受付嬢さんは何でもないように対応してしまう。もう少し心配してくれてもいいと思うんだけど、何でですかね?

ギルド内で暴れる可能性があるので、早々に沈静化を図ると思ったんだけど。


「……………」

「あの、誰もいないようですけど?冷やかしなら、次の人がいるのでいいですか?」

「そうですねぇ、出て来てくれないらしいので、いいか。ところで、今ここで一番強い冒険者さんを聞いてもいいですか?」


僕のその問いかけを待っていたのか、受付嬢は瞳をランランと輝かせると嬉しそうに語りだした。まるで、夢見る少女、恋する少女のようだ。


「今この町には、あの氷の魔法使いであり、最速最短でBランクに昇格したラナーさんが来ているんですよ。噂通りの美貌に、誰も寄せ付けない空気を携え、さっそうと今日、この冒険者ギルドに現れたんですっ!もう、その魔力の影響力がすごくて、体感では、冬はじめくらいまで気温が下がったんじゃないかってくらいでしたよ。本当に、きれいな顔に真っ白で輝きを放つんじゃないかってくらいに白い手足、女の私ですら一瞬で目を奪われる抜群のプロポーションなんて、反則じゃないですかっ!」

「なるほど、ラナーが来てるだけかぁ」


なるほど、僕が感じていた視線の正体は十中八九ラナーだな。おそらく、魔力探知で僕の気配を探っていたけど、隣に人がいたから出て来るかどうか迷ったんだろうなぁ。見知らぬ土地、見知らぬ人と歩く僕を見て、何を考えたのか知らないけど。

まぁ、いきなり突撃されて面倒な問答をする必要がないのは、個人的に多いに助かる。

今も一人でラナーの素晴らしさを説いている受付嬢の話を遮るように、僕は急ぎで口を開いた。


「なるほど、ありがとうございます。疑問が解消されました」

「そ、そうですか?」

「ええ、それでは」

「はい、この度はありがとうございました。……って、ラナー様の話をして急に去っていったけど、どうしたんでしょうか?」


どうしたも何も、そのラナーに会いに行くためかな。言われて視線を僕だけが感じている理由も何となく察しがついたし。

これ、視線じゃなくて殺気だわ。


「じゃあ、オフェイリア。今日はありがとう」

「はい、こちらこそありがとうございました。ところでルインさん、明日時間はありますか?少しだけ、お話があります」

「そう?う~ん、午後に君の店に伺うことにするよ」

「そうですか、ありがとうございます」


入り口でオフェイリアと合流し、そのまま彼女を店まで送り届ける。一人で店を後にして、裏路地に入った瞬間一気に飛翔する。


「やあ、ラナー」

「あれ、やっぱりバレた」

「ばれたも何も、僕にピンポイントで殺気と魔力をぶつければ気が付くでしょうよ」

「そう。思ったよりも早くバレたから、驚いた。でも、ルインさんなら、確かにこの程度やってのけても不思議じゃなかったね」

「その無駄な信頼に応えられて良かったよ。ところで、何用で?」

「?王都にいなくなったから、追いかけてきた」


なんでもなさそうに、さも当然のように答える少女を前に、僕は頭を抱えるしかなかった。


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