第42話 どうしよ………?
ラナーとの打ち合いが始まり、帝国の入り口を全力で荒らしていた。ラナー相手に地面を荒らさず、周囲への影響を考慮しつつ戦闘を継続するとか、ムリ。仕方なしにラナーの相手をしつつ、戦闘場所を移動させようとするが意図的な行動は全部阻害されている。
「後ろっ!抑えなさいっ!」
「「はいっ!!」」
僕が移動することを、ラナーの指示で移動した帝国兵が邪魔するんだよなぁ。というか、帝国の兵士たちってレベルが高い。ラナーの声を聴いてから即座に移動できるし、構えている武具もワンオフの一流品とは比べられないが、軍剣にしては手入れが行き届いて鍛え上げられている。兵士の身に着けている武具も傷がいくつかあるけど、飾りがついていたり勲章バッヂがあるような人もいたりする。
ん?バッヂを持っているのは一般兵か?なんか、致命的なミスをしているような気がしてき…………った!!
「くそっ!」
「いや、あぶなぁっ!」
考え事をしていたら、そのバッヂ持ちの兵士に背中をパックリきられそうになった。危ない、ここで無駄な傷を作ると確実にラナーの攻撃についていけなくなるからね。
「ふぅ」
一息はいて、グッと大鎌を握る手に力を籠める。それを察知したラナーは「下がりなさいっ!」と叫びつつ、バックステップを踏んだ。
うん、感は良いけど遅いかな。
「やっ!」
気の抜けた掛け声とともに、僕は大鎌をふり抜いた。
「なっ!?」
「くっ!」
「んっ!!」
ドラゴンへの一撃程ではないが、そこそこの威力を持った全方位攻撃。ラナーの声に従った兵士は即死は免れたみたいだけど、後ろから接近した人たちは無事に血まみれだ。側面や前面にいた兵士も、もれなく重傷を負わせることには成功したので、まずまずの成果。
「なにその武器、ずるいなぁ」
「使ってみる?」
「それ、ルインさん以外が手にしてるところを見たことないんだけど。つまり、そういうことでしょ?」
「まぁ、剣とか槍の方がメリットは大きいかな。使いやすいし、簡単に覚えて成熟できるからねぇ。ただ、鎌はこの通り全方位一瞬で防御も攻撃もできるから便利だよ?」
冷や汗を浮かべ、自分の周りに分厚い氷を張ることでガードしたラナー。そのラナーのあきれたような言葉に、淡々と言葉を返す。
もう、人殺しちゃったし引き返せないんだろうなぁ。なんて考えながら、僕は次の一手を考えていた。
「ルインさん、黙ってついて来てくれる道はない?」
「う~ん、多分ラナーは僕を騙しているつもりはないし、タイミングの問題だとは思うけど、黙っていることがあるでしょう?そこことに関して、文句は言わないけど、黙ってついてこいは無理でしょ。しかも、こんな形で力づくになってるんだし?」
いいながら周囲へ視線を向ければ、死屍累々と言った様子。僕が殺したのか、それともラナーの警告を無視して戦場に立って死んだバカなのか。どちらでもいいけど、死体から流れ出た血だけで、周辺は真っ赤な泥になっている。
もう、引き返すこともできないし。
「う~ん、やっぱり囲んだのは失敗っていうか………攻撃は駄目だよねぇ」
「僕に警戒させた時点で、ラナーの負けだよ」
「あはは、間違いないね」
乾いた笑みを浮かべつつ、半ばあきらめの表情を浮かべる彼女。これ以上戦闘をしても、魔法なしの状態では勝ち目がないことは理解しているらしい。
「へぇ」
「うん、だからやっぱり本気で行くね?」
「たくさん死ぬよ?」
「うん、だからもう下がらせたよ?」
まあ、気が付いてはいたんだけど。僕らを取り囲むように幾人かの兵士がいるけど、どう見ても屈強な肉体と、魔力を持っているものばかりだ。一流の兵士、いや軍団長レベルか?なんにせよ、これから先僕らの戦場に立つ資格を持っているか、ギリギリ所持できなかったレベルの猛者たちか。
ラナーも魔力を散乱させ、分厚く硬い守りを実現できる氷を生成しつつある。
「それで?今のまま、君は戦いを挑むの?」
「それは無理だよ、私が本気で挑まないとルインさんには届かないからね。ダンジョンでの惨劇を見たら、手を抜くなんて発想は無理だよ」
「そう?案外、このまま打ち合っても僕が負けるんじゃないかな?」
「冗談はやめてよねっ!」
気合一閃
一瞬にして抜かれた剣はそのまま僕の首を取りに来る。迫る剣を僅かに反らして、一歩踏み込み大鎌の柄を当てる。完全い読まれた一撃は氷で防がれ、武器事僕を凍らせんと迫りくる。
察知した瞬間に大鎌の柄をずらして回避した僕は、そのまま彼女の真後ろから大鎌の一撃を繰り出した。そこからは、超接近格闘戦だ。超高速で飛来する氷の槍、雨のように降りかかる氷の礫、一瞬の隙間を埋める高速の一閃に、一瞬でガードも往なしも実現してくる氷の壁。
「なるほど、これは面倒だね」
「ルインさんに褒められても、全部回避されるか攻略されているんだけど?」
「いや~、ギリギリだよ?」
「嘘つきっ!」
ラナーの叫びに「アハハッ」と高笑いしてごまかした。実際、かなり余裕はあるしね全力を出すまでもないし、ラナーの氷は僕を一瞬で凍り付かせることができないみたいだから、脅威にはならない。炎を使う必要もない、ただ魔力を精密に緻密に最適寮で運用するだけで、事足りる。
「っ!?」
一瞬、気を抜いた瞬間だった。突然、地面が爆発した。
「あっぶなぁ~」
「むぅ、なんで今の一撃がよけられるの?」
「勘かな」
確かに視界にとらえてはいたけど、避けられたのは勘だな。運の要素が0とは言わないけど、視界の隅にソレが見えた時点で回避は容易だ。
でも、毎回これをされると僕の方は面倒だな。ラナーの対応は楽とはいえ、別の攻撃を防いでいる隙は、僕でもふさぎ込むことはできない。乱戦はそれだけ隙が増えるのだから。
「まったく、町の城壁から弓で狙撃とか……どうやってるの?この距離」
「さぁ?私も氷での狙撃はできるけど、さすがに弓では無理だもの」
「しかも、矢の先端は爆発する仕様って。大鎌で叩き落としたら、僕が死んじゃうじゃんか」
「ふふっ、ここまでして対等っていうのが気に入らないけどね」
楽しそうに笑う彼女が、今だけは魔女のように見えて仕方がなかった。
はぁ、本当にどうやって逃げようかな。
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