第34話 決着
「ドラゴン。まったく、神話や英雄譚で語られる存在か。でも、ようやく、僕を敵として認識したな?まぁ、お互いに満身創痍だけど?」
挑発的に口元を歪めて、ニヤリと笑って見せる。言葉など通じない、だが明らかに舐められていることが分かったのだろう。
その目を細め、こちらを殺意マシマシで睨みつけて来る。咆哮さえ不要の、眼だけで敵を威圧して殺しに来る。事実、目の前にいたゴブリンとコボルトの山が、半分以上死んだ。何をしたのかなんて、わからないけど。
その体が、爆散した。
「はは、マジでなんでもありなの?ちょっとずるくないか」
口から滝のように血反吐を吐き、回転を停止した大鎌を携える。大鎌を自分の体へ引き寄せて、半身の姿勢を取った。
正直、何をしてきたのかすら把握できてないけど。なんで僕だけが無事なのかわからないが、あの眼に睨みつけられても怯えることはなかった。多分、今の僕なら咆哮を聞いても、多分影響はないな。
「伝説だろうが、何だろうが。関係ないね、狂ったように切り刻んで、その肉片すべて、勿体ないけど燃やし尽くしてやる」
再び心の炉に、燃料をくべる。新しい風など、吹き込む必要もない。この憎悪を、すべての敵を焼き尽くし、己の身に宿るこの呪いを。
ゆっくりと、大鎌を引き絞り全力で駆け出す姿勢を整える。敵が動いた瞬間、反応した瞬間が、合図だ。
「結局、僕だって死ぬ勇気がないだけの、雑魚なんだよ」
「ギャアアァァァァ!!」
「はぁぁ!?」
咆哮
今まではただの威嚇、威圧だったそれに、小さなブレスが含まれる。駆け出した僕の体は、その炎を掠め僅かにこの身を燃やしながらも突き進む。
目の前に迫りくるゴブリンロードや、ゴブリンメイジたちを切り裂き、大鎌の軌道上に存在するすべての存在を焼き尽くす。憎悪の炎は、僕の前に何人たりとも、立ち塞がることを許容しない。
「早さが出ないけど、おい。まだ死んでないぞ」
「ギャガウゥ!!」
唸り声をあげて、まだ鱗と強靭なツメのある腕で容赦なく攻撃してくる。仲間であるはずの手下どもを切り裂き、バカみたいな衝撃と破壊を伴って。その一撃は、僕の前に、容赦なく立ち塞がる。
「あぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
最早、絶叫しながら生き残るために攻撃を繰り出す。真正面から衝突した僕らの一撃は、しかし一瞬の衝突で終わる。
「ガハァァァッ!!」
人間が簡単にドラゴンなど、超えることができるはずもない。
それを証明してしまうような、一瞬の交錯。僕は、その攻撃を前に無残に吹き飛ばされた。
「はぁ、はぁ。あはは、マジかよ。ぜんっぜん、切れてくれない」
この業火、全力なんだけど?なんで、そんなにその鱗は固いんですかね?背中が、偶々柔らかくて切れたのか?いや、ところどころだけど、一撃入ってる。多分、大鎌の振り方の問題だ。
大鎌は、その性質上内側を完全に守る球状の攻撃手段。防御も兼ねているけど、切り裂くときには、ちょっとしたコツが必要だ。角度をミスすると、刺さるだけだしな。
「はぁ。なるほど、なら。切らなければいいんだな?」
毎回、全部の攻撃を切る必要はない。幸いにして、無限増殖をしていた雑魚たちは、何故か数が減っている。湧き出す速度が減って、ゴブリンもコボルトも、強化種や、ロードなどの特殊個体しかいない。
なるほど、本当の雑魚はこの場に立つ資格すらないってことか?
「いいよ、その首切り落としてやる」
ふらりと、小さく一歩を踏み出した。もう、走り出すことはできない。さっきの一撃で、完全に足が死んだ。一歩踏み出すごとに、激痛が、体中を駆け巡る。
身体強化をして、ギリギリ。魔力で体をなんとか動かしているが、正直言って生き残るには心もとない。長期決戦は完全に負ける戦だが、短期でも全然勝ち目がないな。
でも、負けない。絶対に殺す。その首を切り落として、その血を全身に浴びて、その無駄にでかい図体を絶対に燃やし尽くしてやる。
「ガアァア!!」
「ふっ!」
放たれた玉のようなブレスは、切り刻む。後方で、大爆発が起こって、ガラガラと地面が砕け散る音がした。その音を聞きながら、一歩踏み出す。
駆け寄ってきたコボルトの集団を、容赦なく焼き尽くす。というか、今後敵が来ても面倒なので、あたり一面に僕の炎をまき散らす。
一瞬にして、黒い炎に支配されたフィールドが完成する。
「勝負だ」
受けて立つ、という返答はなかった。合図もなかった。
ただ、容赦なく大きな尻尾による叩きつけ、薙ぎ払い、踏みつけ、爪での切り裂き、圧殺が押しかかる。その全てを、表面を転がるようにして、往なしていく。
先ほど失敗した爪の一撃は、全力で迎え撃つ。まるで鈍器のように大鎌を振りかざし、バッババンッ!と豪快に音を置き去りにした一撃は、その爪を正面からたたき割って見せた。
何度もそんな攻防を行い、時には攻撃が掠ることもあるが決して歩みを止めない。むしろ、止まることの方が怖い。この場全体を支配する漆黒の炎は、ランランと黒く輝きを放ち、僕の歩みに呼応するように強くなる。
「その首、もらうぞ」
「グルゥゥ………ゥゥ…ガァァァ!!」
首の下、腹元まで来た僕は渾身の力を振り絞って跳躍した。瞬間、僕がさっきまでいたところを、傷だらけ、血まみれの何かが通り過ぎる。
ドラゴンの両腕だった。アブな、もう一歩遅かったら、確実に死んでたな。
「運もあるけど、この殺し合い。僕の勝だ」
業火を纏い、全力で振りきった一撃は、見事にドラゴンの首を跳ね飛ばし、ジュアアァァ!と音を立てて、その傷口を焼いた。
僕は、フィールドに存在していた敵全てが焼かれて行くのを見ながら、意識を失うのだった。
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