第15話 花を摘む
「今回の依頼は、私の護衛です。西の湖に、花を摘みに行きたいのです」
今回受けた依頼、聞いた瞬間ミスったと思った。おかしいな、護衛依頼じゃなく手納品以来って、依頼書には記載されていたんだけど。いつの間に、僕が護衛をすることになったんだろうか。
これ、ちゃんと聞くべきだったか?
「まぁ、どうせ強敵は出ないから適当でいいか」
護衛依頼だけど、僕は特に緊張感を感じることも、考えることもなくその日は安宿で寝るのだった。
「おはようございます、オフェイリアです。今日はよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく。ルインだ」
花屋の少女、オフェイリアとは町の外周で合流した。王都とは比べ物にならないほど人間が少なく、地方はだいぶ生きやすい。その分、僕のような外物は目立つし、Cランクの冒険者と言えば、天才と呼ばれる強者になる。昨日、オフェイリアにCランクだというと、あまりに驚くので新鮮な反応だった。
「ふふふっ、自分でしておきながら二度目の自己紹介なんて、なんか変ですね」
「いや、不思議ちゃんですかね?」
「あはは、よく言われます」
頭に付けた花飾りと言い、西の湖に行くのになぜかワンピース衣装。足元こそ、ある程度汚れてもいいようなブーツを履いているが、普段の仕事着のままだな。
う~ん、これは着替えろっていうべきなのか?
「一応聞きたいんだけど、危険地帯に行く自覚はある?」
「あぅ、やはりこの衣装は厳しいですかね?」
「厳しいというか、動けるならいいんだけど。西の湖って、ここから歩いて一日かかるからなぁ」
少し歩いて理解した。この子は、結構体力がある。数時間ほど歩いても、息一つ切らすことなくしっかりとついてくる。歩きにくそうに見えた服装も、普段から仕事で使っているからか、そこまで不便そうには見えない。
半日ほど歩いて、湖がある程度視界に入るようになった。西の湖の前には、小さな森が広がっている。
「わぁ~~!初めて見たっ!」
「ん?来たことないの?」
「うんっ!いつも、誰かに頼むだけだからね」
なるほど、たまたま今回は自分でも行きたくなったってこと?それにしては、なんというか勇気にあふれた子供だな。いや、同じ年くらいか?
なんというか、こんなにポワポワした感じの人と接することが少なすぎて、難しい。
「あははっ!すごいすごい!森の入り口なのに、変なウサギがいる!」
「変なウサギって。あ、本当だ」
「このウサギ、魔物なのかな?」
「さぁ?」
片足をもって反対向きにぶら下げているウサギだが、なんか普通のウサギとは違う。簡単に捕まることと言い、ウサギなのに真ん中に角が生えていることと言い。どうにも、魔物の気配がするんだよなぁ。
僕一人なら目撃した瞬間食料に早変わりなんだけど、どうしよう。なんか、愛着沸いてそうな感じだけど。殺したら怒られるかな?
「ねね、ルインさんっ!晩御飯だよっ!」
「……………」
「ルインさん?」
これは、どう反応したらいいのだろうか?同年代とはいえ、まだ少女という年齢。そんな子に、ウサギ?を満面の笑みで食料だと差し出されて、素直に喜ぶべきなのか?
いや、喜びたいんだけど。食料調達簡単になったし?
「あ、ああ。うん。ありがとう」
「うん!」
わー、満面の笑みが痛い。自分の心がどんどん穢れていくようで、悲しい。
受け取ったウサギの魔物をその場で捌いていく。基本的に魔物は殺せば消えるのがダンジョンだが、ダンジョンの外にいる魔物は魔石を持たない代わりに全身をアイテムとして利用できる。後、基本的な魔物は弱体化しているが、ドラゴンなど一部の魔物は強化されていることもあるから、要注意。
「久しぶりのお肉だ~~」
「高級品だもんねぇ」
「うんっ!」
捌いて簡単に味付けして、そのまま焼くだけ。今回できる料理はそれだけなのに、期待した視線を向けられると悲しいかな。せっかくなら、ちゃんとした調理器具持ってくるべきだったか?
重たいから面倒なんだよなぁ。
「じゃ、森の中に入りつつ、川でも探そうか」
「川ですか?」
「うん。簡単に血抜きして処理はしてるけど、さっさと吊るして洗う方が良いかな」
「なるほど、おいしく食べるためのひと手間ですね?大事です」
「う~ん、たくましい」
この子、花屋なんてやめて冒険者になった方が良いのでは?冒険者になれば、すごく優秀になれるとおもう。少なくとも、ついこの間まで護衛していたアイシャさんのチームなんかよりもよっぽど。
田舎の人たちのほうが、本気の命のやり取りに慣れてるんだろうな。今日を真剣に全力で本気で生きてるって感じがする。
「じゃあ、早く森の中に入ろう!」
「はいはい、足元に気を付けてね~」
なんだか、昔のラナーを見てるみたいだ。ラナーも冒険者になったばかりで、僕と競い合っていたときは、こんな感じだったな。今のように楽しそうに冒険していたんだけどなぁ、今は基本的に笑うことがなくなった。原因は僕なんだろうけど、競い合う人がいないと、ダンジョン探索も楽しくないよね。
あのラナーの姿を見ていると、余計にやる気が失せるんだよなぁ。上に行っても、しがらみが増えるだけで、自由で気ままで好きなように暴れられる冒険者にはなれそうもない。
「?ルインさん?」
「いや、なんでもない。ごめん、行こうか」
「うん!」
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