第12話 2.老婆の独り言

哲也達4人が通う勝平地域から、遠く離れた薄暗い山の中で一人の老婆がブツブツ言っている。


老婆は、独り言を言いながら歩き、山奥に有る、ある場所に向かっていた。


『・・・何故じゃ、何故じゃ』


『一匹も喰えなんだ・・・4人も見つけたのに』


『・・あのジジイのせいじゃ』


『ワシの変化をアッサリと、見破りおって・・・・』


『あのジジイの坊主め!、ワシの分身がケガをするなんて、何百年ぶりじゃ・・』


(ヒヒッ・・・しかし、ワシが死なず、あ奴のはらわたにカブリついた時のあの時の顔・・)


(あの驚きと、恐怖に憑りつかれたあのジジイの顔が・・・たまらあなかったのう)


(・・・腹が減った。飢えてしにそうじゃ。あのジジイの血では全然足りん)


(はやく、あの4人の子どもの血を・・脳みそを・・・)


(しかし、・・・妙じゃ、あの10年前に逃げられたガキの身体に戻れんのは何故じゃ)


(この山に戻るのもエラク久しぶりじゃぁ・・・)


(これでは、直ぐにあの4人を喰いにいけんではないか・・・)


(あのジジイの不味い血を吸ってから・・・何かがオカシイ・・)


(やはり、生き血をすするなら、子供の血にかぎるのう・・)


『まあいい、もうじき満月じゃ、ワシの力が一番強くなる満月の日に、4人まとめて食べに行けばイイ』


『ヒヒッ、子供の肉は柔らかくて、うまい。特に女の子は、とびっきりじゃ』


『あの、生温かい、甘い血が早く、早く、早くぅ・・飲みたい』


ジュルリと音が低く鳴り響く、老婆が、いずみや哲也達3人の味を想像し、たまらず口の中のよだれをすすったのであった。


(しかし、妙な事がもう一つある。昨日、確かにあの部屋には、ガキの一人がいた筈じゃ)


(魔除けの護符が貼ってあったのも、ガキがいた証拠じゃ)


(しかも、ジジイに化けたワシの呼びかけにも答えず、ワシの視線も見ようとしなかった・・)


(まるで、ワシの行動を、考えている事を知っていた様じゃった・・いや、考え過ぎか・・)


(そんな訳はある筈ないが・・・何か気にかかる。まさか・・あのジジイの法力か?・・解せぬな)


そうこうしている内に、老婆は小さい祠に辿り着き、そしてその中に入っていく。


ほこらの中には、1巻きの絵巻物が置いてある。


老婆はそれを片手で取り、バッサァっと絵巻物を床に広げると、まるで穴に入る様に、その絵巻物の中に入っていったのである。


絵巻物は、左側から右に展開する話の様だった。


絵の中心には、多くの子供達が慌てて逃げている様子が描かれている。


右側に描かれているのは、老婆が入ったこの祠である。


左側は空白であったが、暫くすると何かが浮き上がって来た。


それは鬼の様な、口が裂けた山姥が子供を追いかける様に立つ絵であった。


そして、最後にその山姥の目が赤く染まったのであった。


数秒後、老婆が入った絵巻物は、ひとりでに転がり、また一本の絵巻物として丸くなった。


ほこらの外では、カラスがギャーギヤーと鳴いていた。


哲也達の住む勝平の土地から、遠く離れた山の奥の事である。


其処は、1週間後に哲也達が行く予定の宿泊研修の目的地、風越鬼山かざこしきざん、地元の人が通称山姥山やまんばさんと呼んでいる山であった。


哲也達の不安は当たり、4人は既に山姥の獲物として執着されていたのであった。


哲也達は、未だその事を知らない。


その事を知るのは、1週間後である。

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