第44話 14.子ども達からの提案

暗闇が晴れた山道を、ナオケン、カッチ、いずみの3人は再び歩いていた。


3人は、自分達が来た道を戻り、福岡先生と別れた場所を目指し歩いていたのである。


明るくなった為、視界が効くようになり、当然3人の歩く速度は速くなった。


一時間も歩くと、あの吊り橋が見えて来た。


気がつくと3人はそろって走り出し、大声で先生達と友達の名前を叫んでいた。


『加賀谷先生!』


『福岡先生!』


『テッカァ!』


橋を渡り、人影らしきものが見えたと思うと、3人は目を疑う。


テッカと福岡先生が、何かを見ている。


見ているモノが何なのかを分かったのが、いずみだった。


『アレ、加賀谷先生じゃない?』


『エッ、どうして先生、浮いてるの?』


『何だ、あれは、先生が浮いているのもスゴイけど、何だアレ!』


ナオケンが、何かに気づき驚嘆の声を上げる。


『あれ、オレたちと同じぐらいの子たちじゃねえか・・?』


カッチが、自分のみたモノを確認する様に二人に質問する。


3人に近づき、哲也をみつけたナオケンは、直ぐに哲也に呼びかけた。


『テッカァ、良かった。無事だったのか・・』


『アレ、何なんだ?テッカ』


『オレも分かんねぇ。突然、先生の身体が浮いたと思ったら、あの子達が現れたんだ』


ナオケンの後ろから、カッチといずみも息を切らしながら、哲也の元に辿り着く。


『テッカァ』とカッチは安堵の声で、親友の名前を呼んだ。


『佐上君、良かったよ~』といずみも、泣きながらそんな言葉を口にする。


何時もであれば、哲也は直ぐに二人の方に注意を注いだはずであったが、目の前で起こっている現象が凄すぎて、ソッチの方だけを見てしまっていた。


自分達の呼びかけに答えない哲也を、見上げるふたりも、直ぐに哲也の見ているモノに心が奪われた。


女の子が一人、男の子が二人、古い着物を着ている子供達が浮いている加賀谷先生の上で何かを相談している。


3人は、哲也達の上空で静止した後、話し合いが終わったのか、女の子が一人哲也達の元に降りて来た。


『皆さん、私達を救ってくださり、そしてあの非道の山姥を倒して下さり有難うございました』


『お蔭様で、私達は山姥の作った檻から出る事ができ、これで成仏できるようになりました』


『ただ、心残りが一つ、私達を救う為に犠牲になったこの御方の事です』


女の子はそういうと、空中に浮いている加賀谷先生を見上げた。


『・・・もし、みなさんが許してくれるのであれば、私達の魂をあの方の身体に』


『そうすれば、多分、あの方の受けた傷は癒え、生き返ると思うのですが・・・』


『そうしても、宜しいでしょうか?』


『・・・そんな事できるの・・・許します、許可しますから、どうか加賀谷先生を助けて下さい』


哲也が、わらつかむような気持でその女の子に訴える。


『同意しますよ。するに決まってるじゃない。ただ、どうして私達に許可を求めるの?』


涙で目を真っ赤にした福岡先生が、女の子を目をみて質問する。


『エエッと、実は蘇生の法を使うには、条件が二つありまして・・・』


『一つは、私達3人の魂です。そして、私達3人があの御方の身体を修復した後、役目を終えた後、この世に戻って来る事が二つ目の条件になります』


『・・・よく分からないわ、この世に戻ってくるってどういう事?』


『つまり、私達3人は、あの御方の子どもになり、もう一度この世に生まれるという事です』


『・・・そんなの、本人以外が決めれないじゃない・・どうして私達に聞くのよ』


福岡先生は、呆れたように女の子に呟く。


『・・そうなのですが、私達もこの様な事になるとは思ってもなく、又初めてでして・・』


『・・・分かったわ、その事は加賀谷先生が意識を取り戻したら、私が責任を持って伝えるわ』


『本人も、自分の命と引き換えであれば、同意した事に反対はしないと思うから・・』


福岡先生は、何だかもっともらしい事を、その女の子に話し、蘇生の術をお願いした。


『福岡先生、有難うございます』


『先生、有難う!』


4人の教え子が口を揃えて福岡先生にお礼を言う。


『何で、みんな私にお礼を言うのよ、私はただ今の状況を伝えるだけ、・・伝えるだけなんだから!』


福岡先生は、怒ったように声を上げたが、表情からは緊張が無くなっていた。


福岡先生から同意を受けた女の子は、そんな5人のやり取りを見て、少しほほ笑むと、再び男の子達が待つ上空へ昇って行った。


3人は、呼吸をあわせ、目を瞑ると、呪文を唱えだした。


やがて3人の身体が光り出し、パンッと輝いたと思うと、3人の身体が消え、加賀谷先生の身体の上に、丸い光の玉が現れた。


そして、その球がユックリと加賀谷先生の胸、心臓の近くに吸い込まれていく。


光の玉を吸い込んだ加賀谷先生の身体がユックリと空中から地面に降りてくる。


身体は、まるで寝かされるようにユックリと地面に着地する。


『ああ、先生の顔が・・』


『左手も・・・』


ナオケンと哲也がそれぞれ、加賀谷先生の身体の変化に気づき、声を出す。


焼けどまみれだった、加賀谷先生の顔や体が、綺麗に元の状態に戻っていた。


そして、山姥に喰いちぎられた左手も、気がつけば元に戻っている。


『すぇんせい~』


ナオケンが泣き声で加賀谷先生を呼び、先生の身体にダイビングしようとしたが先約が居た。


福岡先生であった。


やがて皆の喜びの泣き声に気づいたのか、加賀谷先生が目を覚ました。


『エッ、何だ、どうして福岡先生が?オレ、何でここに』


『オイどうした、お前たち、何泣いてんだよ、エッ福岡先生も!』


目覚めたばかりで、記憶が混乱しているのか、先生はただただ驚いていた。


暫くすると、又、新しい魔法がかけられた様に空の色が変わる。


太陽は昇っているが、その太陽は朝の匂いがした。


『君たち、無事か?ケガ人は居ないか?』


哲也は、自分達を目指して緑色の迷彩服をきた救助隊の人達が走ってきている事に気がついた。


(ああ、やっと元の世界に戻って来れたんだ)


哲也は、直感的にそう感じたのであった。

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