第45話 15.カーテンコール(前編)
宿泊研修から2週間後。
『あなた達も、一躍時の人ね・・』
哲也の母が、家の近くで買って来た週刊誌を見ながら、そう呟く。
哲也の母が呼んでいる記事の見出しはこうである。
小学校の教員含め6名が熊に襲われる。
子ども達を守った二人の先生は、重症ではあるが無事、命に別状なし。
車は大破、6人を襲ったのは超大型のツキノワグマか?
『お母さん、何、時の人って?どういう意味』
哲也の妹、みつ子が母の腕を掴みながら、駄々をこねる様に聞く。
『有名人、有名よ、みつ子のお兄ちゃんは今や、誰もが知る有名人になったのよ』
『お母さんも、いまちょっと恥ずかしくて、いや面倒でスーパーのパートに行きたくないわ・・』
事件から2週間がたち、やっと少しずつ静かな生活が戻ってきていた。
『哲也、そういえば今日、あなた達、皆で先生達のお見舞いに行くんでしょ?』
『何時に行くのよ?』
『ウン、9時に小学校に集合の約束をしてるんだ』
『9時って、アンタ、何ユックリご飯食べてんの?もう8時過ぎてるわよ』
『食べたら、直ぐ行くよ。もう準備できてるもん』
哲也はそう言うと、茶碗に残っていた最後のご飯を口へかきこんだ。
ご飯を食べ終わった哲也は、急いでみんなが待つ小学校へ自転車を走らせた。
まだまだ暑い日は続いていたが、夏休みも終盤になり、顔に吹き付ける風が何となく涼しく感じて来た。
勝平小学校に着くと、既に他の3人は来ていた。
自転車を止めると、3人の楽しそうな笑い声が聞こえて来た。
『カッチ、ナオケン、委員長、何、笑って話しているんだよ?』
『何か、楽しい事あったのかよ?』
いずみが、笑顔で哲也に話しかけて来た。
『ねぇねぇ、病院で働いているうちの母さんから、良いニュースを聞いたんだよ』
『良いニュースって?』
『テッカ、聞いたら爆笑間違いなしだぜ』
ナオケンがお腹を押さえ、笑うのをこらえる様に言った。
『実はね、加賀谷先生が、福岡先生にプロポーズしたんだって・・』
『病院の看護婦さんの中では、もう知らない人はいないんだって』
『へぇ、二人が結婚すればって願ってたけど、それはおめでたい事じゃん』
『なんで、それがおかしい事なの?』
『加賀谷先生が、福岡先生にプロポーズした
『僕は貴方に殺されかけました。もう少しで死ぬところでしたよ。』
『僕と結婚してくれれば、水に流してあげます。だからどうか僕と結婚して下さいだって』
『ストレートだね、ソレ、それで福岡先生は、どう答えたの?』
『フフそれがね・・』
『そうね、アナタを殺し損ねた責任をとって、今度こそアナタの死に顔を見届けてあげるわ』
『覚悟しなさい!だってよ』
いずみが言おうとした言葉を、カッチが代わりに、福岡先生の真似をして言った。
『何ソレ、ハツハハハ』
哲也が笑うと、他の3人ももう一度ドット笑った。
3人は、それから商業高校の前のバス停に行き、市立病院行のバスに乗る。
『ねぇねぇ、私達、先生達の結婚式に呼んでもらえるかなぁ』
『そりゃ、呼ぶでしょ。俺たちいい子だもん』
『ナオケン、だもんって、キモ』
『うるせぇ、カッチ、テッカ、別に気持ち悪くないよな?』
『ナオケン、スマン、キモイよ』
『ああ、コイツ裏切りやがった・・』
3人のやり取りをみて、いずみが堪えきれず笑い出す。
そして笑顔の4人を乗せたバスは、いつもどおり走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます