第3話 3.動く舌

『もしもし、電話かわりました。佐上さがみだけど』


『あ、佐上さがみ君、私、松本です。クラスメートの松本いずみです。』


電話に出ると、聞き覚えのある、少し緊張している女の子の声が聞こえてきた。


クラス委員長の女子、松本和泉いずみである。


『松本さんか、どうした、何かオレに用?』


『ああぁ、やっぱり、佐上君、今日の帰りの先生の話、聞いて無かったでしょ!』


『宿泊研修に持って行く、備品を、明日倉庫から学校の下駄箱げたばこまで持って置くように先生から言われたでしょ、私と、副委員長の田中君と、そし美化係の佐上君が、当番にって言われたでしょ!』


松本和泉は、クラスで一番背が高い。髪を肩までのばし、口を開かなければ印象は清楚なお嬢様という感じの女の子である。顔は正直可愛い。クラスの男子の中で、彼女を意識していない者はいなかった。


哲也もその一人である。


しかし、実際はテキパキしていて、モノの言い方も、同級生というか、少し世話焼きのお姉さんタイプである為、全然お嬢さまらしくは無いのである。


(ああ、確かに、そんな事が、通知表の事で、頭が一杯で・・全然聞いてなかった。)


さっきね、田中君から私に電話があって、おばあさんが入院しちゃって、明日学校に来れないらしいの』


『だから、明日は佐上君には、学校へ絶対来てって言いたくて』


『ウン、ワカッタ。時間は?』


『10時に、学校のカギは私が預かってるから、10時に校舎の入り口の前で待っててくれれば』


『明日、もしよければ、カッチ、とナオケン・・野田と、犬崎も連れて行こうか?』


『エッ、野田君、犬崎君も、・・そうね、男の子が多い方が、早く終わるしね、是非是非ぜひぜひ


『それじゃ、佐上君、明日、絶対来てね。野田君と、犬崎君にも、宜しく言っておいてね!』


松本和泉は、元気な声でそう言って、電話を切った。


その後、哲也は急いで、カッチとナオケンの家に電話をして、学校での作業の手伝いをお願いした。


二人は、快く哲也のお願いを聞いてくれたのだが、女子の松本から電話が来た事を伝えると、ものすごく驚いていた。


ナオケンなんかは、哲也と松本が付き合っているのか?なんて、恥ずかしい事を聞いて来たので哲也は焦った。


すごく恥ずかしくなって、哲也は大きい声で思いきり、否定したら、妹が驚いて様子を見に来てしまうぐらいであった。


カッチに電話をした時、松本いずみの件とは別に、カッチが意外な事を教えてくれた。


『テッカ、ヤマンバの話、俺の親戚のお兄さんが、俺たちと同じ、勝平小学校で、10年前の失踪事件があった時、同じ5年生だったって聞いた』


『俺の母さんが言うには、3人が行方不明になったんだけど、一人だけ戻って来たんだって』


『噂だと、その人、未だ病院で入院しているんだって、市立病院に・・』


『10年間も?嘘だろ・・・』


『もし、よかったら、明日、学校の件、終わったら、市立病院行って、その人に会ってみようぜ!』


『会うって、知らない人だろ。名前も知らなくて、探せるワケが無いじゃん』


『って言うか、正直怖ぇえよ、カッチは怖くねえのか』


『そりゃ、怖いけど、・・なんか面白くね?』


『俺、今から、親戚のお兄さんに、その人の名前、聞いてみるからさ・・』


『ワカッタ、先ず、明日会ってから、ナオケンも入れて、3人で作戦会議な!!』


(カッチは、怖い者知らずだなあ、明日、本気まじで行く事になったらどうしよう)


その日、母は夕食に哲也の好きなカレーライスを作ってくれたのだが、突然決まった次の日の予定と、計画案の事を考えながら食べた為、なんだか何時もより美味しくなかった。


ご飯を食べた後、またベットでごろ寝をしながら、タブレットを見た。


最初に目に入ってきたのが、あのヤマンバの絵であった。


(ヤマンバって、嘘な昔話だろ。居るわけないよ・・)


お腹がいっぱいになり、ウトウトし始める哲也、気がつけば寝息をたてていた。


その時である、人知れず、タブレットが明るくなり、ヤマンバの絵が写しだされる。


その絵のヤマンバの口から出る舌が、ほんのちょっと動く、そして蛇の様にニョロニョロ動いた、動きがドンドン大きくなり、画面からでてきそうな感じであったか、突然画面が真っ黒になる。


それからは、二度とタブレットは自分で光る事は無かった。


テッカ、カッチ、ナオケンの怖くて不思議な夏休みが始まる前日の事であった。

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