第6話 6.赤い月
哲也が小学校と商業高校が挟むバス道路(子供達が呼んでいる通称)のバス停に着いた時、既にいずみとカッチはバス停に到着していた。
『テッカ、けっこう時間なかったよな?オレ、昼ご飯食べたら、直ぐ出て来た』
『俺も、慌てて出て来た、チャリ(チャリンコ※自転車の意)、乗れんと時間かかるよな』
『私は、家近いから、けっこう余裕あったよ』
『委員長、服、さっきと変わってるじゃん・・』
『だって、お母さんの働いている場所でしょ、良い服着て行かない、うちの母さん、後で文句いうのよ』
『汚い
『へえ~、俺なんか、母さんが働いているスーパーの上マル、学校の体育着着て行く時もあったぞ』
『佐上くん・・いや、テッカは男の子だからね、別にいいのよ、多分』
いずみは、ちょっと照れながらも、哲也を初めてみんなと同じ様にあだ名で呼んだ。
『・・・そうかあ、女の子って大変だな、オレ、男で良かったわ、委員長』
哲也は、ちょっと気恥ずかしい感じがしたが、いずみの気持ちを考え、普通に応じ、意識していずみをあだ名で呼んでみた。
『そう、女の子は、けっこう大変なのです!!』
いずみは、真面目にそう答えるのので、ナオケンも哲也も可笑しくて笑ってしまった。
『あれ、私、なんか、面白い事言った?』
『言った!』『言ったよ』、ナオケンと哲也が続けて答え、いずみも二人の笑顔につられて笑い出した。
『あ、カッチが来たぞ!』とナオケンが小学校の方向を指さす。
カッチが小学校のグランドの土手を駆けあがって、バス道路に登って来たのである。
『暑いな、チャリで全力で漕いで、グランドに自転車置いて来た、やっと間に合った』
カッチは、自分のリュックから、小さいタオルを取り出し、汗を拭きながら、息を切らしながらそう言った。
カッチがそう言っていると、丁度良く市立病院行のバスが、4人の待つバス停に向かって来たのであった。
『みんな、市立病院まで280円ね、私は、スイカだけど・・』
気がつく、いずみはバスに乗る前に、3人に料金を先におしえてくれた。
4人が乗ったバスは、橋を超え、地元のテレビ局の前を走り、20分ぐらいで市立病院に着いた。
大きい病院の入り口から、4人が入ると、総合案内と書かれた場所に優しそうな若い看護婦さんが居た。
『ヨシ、皆は、此処で待っててくれ、オレが聞いてくる、皆で行くより、一人の方が成功率は高いと思う』
哲也は、皆にそう言うと、一人総合案内まで歩いていき、看護婦さんに話しかけた。
『あのう・・スイマセン、従兄のお兄さんのお見舞いに来たんですけど、部屋の番号を忘れちゃって』
『佐々木一馬さんが入院している部屋は、何号室でしょうか?』
『入院患者さんの部屋、え~と入院室の階は、5階だけど、佐々木さん、510号室です』
『あそこのエレベータから、行けますよ。』
『ただ、部屋に行くのには、5階にあるナースセンター入り口の名簿に名前の記入が必要ですよ』
『分りました・・・有難うございます』
哲也は、内心ドキドキしながら、看護婦さんと話をしていたが、怪しまれないように頑張って自然にふるまった。
情報を聞き出して、3人の元に戻った時は、その緊張が一気に噴き出し、大きくため息をついた。
『フウウ~佐々木さんの
『テッカ、すげぇ、詐欺師だ。詐欺師になれる』とカッチが自分の事の様に興奮する。
『名探偵●ナンみたいだ。スゲェよ、テッカ』、ナオケンも右手の親指を立てて褒める。
『佐上君、かっこいい、・・・けど、何か、悪い事してるみたい、やっぱりウソは・・』
『委員長、しょうがないよ。子供達だけで、更に本当の理由なんか、言ったら、絶対、親に電話されるし・・』
ナオケンが、冷静に状況を分析し、いずみを説得する様に言う。
『そうだね・・私達、子供だから、仕方ないよね・・分った。ゴメンね』
『佐々木さんだって、俺たちの事を説明したら、分ってくれるよ、一応先輩なんだし、俺たちの』
カッチが、なんの根拠もない事を、楽観的に言った。
最終的に、4人は気持ちを切り替え、当初の予定通り、佐々木一馬という男の人の病室に向かう事にした。
いずみの提案で、エレベータではなく、階段で行く事にした。
いずみ曰く、エレベータから出て来る人は、ナースセンターの人が見ているらしい、階段から来る人は、階段がナースセンターから見えないので、目が届かないとの事だった。
(委員長がもし来なかったら、俺たちの計画は、5階に着いた時点で、親に電話されてたな・・)
哲也は、頼もしい助っ人のいずみに、心の中で感謝した。
ナオケンとカッチも実は同じことを考えていたのである・・。
5階に着くと、4人は素知らぬ顔でナースセンタの前を横切り、なんなく510号室に着いた。
『失礼します』とナオケンが3人の先頭に立ち、部屋に入っていく。
部屋は個室で、明るく、掃除が行き届いており、綺麗というか、清潔感があった。
部屋には、お見舞いに来ている人が誰も居なかった。
ただ、若い男の人がベットで寝ていた。
寝ていると言っても、目は開いていて、じっと天井を見ている。その顔は無表情である。
『あのう、佐々木さんですよね』
ナオケンの問いかけに、男の人は答えず、ずっと天井を見たままである。
『佐々木さん、佐々木・・』
ナオケンが、3度呼びかけても、男は答えないと、思った矢先、男の人が言葉を発する。
『赤い月・・・赤い月が来る。来るなぁ、来るなよ』
『赤い月・・・赤い月が来る。来るなぁ、来るなよ、ああ、皆食べられちゃう』
『赤い月が来る』
低い言葉で寝言のようだが、呪文のように、4人の耳に入ってくる、一度聴いたら耳から離れない呪いの呪文の様であった。
その異様な言葉を聞いて、ナオケンは逃げ出したくなる顔で、後ろの3人の顔を見る様に振り返る。
言葉は出さないが、その表情はヤバい、、ヤバいと言っている。
それを見たカッチがナオケンを助ける様に部屋に入る。そして、寝ている男の人を起こそうと、その腕を触ろうとした時である。
4人の耳に、男の子の声が聞こえて来た。
『触ったらダメだ、子供がソレに触ったら、アイツの罠なんだ!!』
『エッ、テッカ、今の声、お前か?』
気がつけば、カッチが振り返り哲也の方を見ている。
『オレじゃないよ、誰か知らない子の声だった。』
哲也は、そう言うと、振り返り廊下に出て、誰かいないかを確認する。
『誰も居ないよ。カッチ、ヤバいから、その人から離れた方が良い』
『オウッ、分った』とカッチが一歩下がろうとした瞬間、突然、寝ていた男の人が手を上に上げ、その手がカッチに触った。
その瞬間である、ザっと、窓のカーテンが音をたて自分で閉まった。
明るかった部屋が、突然暗闇になったのではないかと思うぐらい、一瞬で暗くなった。
『見つけた、見つけた。美味そうな子供たちだ。しかも4人も居る・・』
視点が無かった男の人の目に視点が戻り、嬉しそうに4人を見つめていた。
声は、男では無く、老婆の様な声だった。
『痛ぇ!』
気がつけば、男はカッチの片手をギュッと握りしめていた。
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